そうですよね。
だって野薔薇ちゃんと行く予定だったんだもの。
伊地知さんだって仕事多いし変更する暇もなかったのさ…なかったのかもしれないけどさ…


いや、五条先生かもしれない。
面倒だから変更しなかったのかも。
メンゴ!!と笑顔で面白がる五条先生が目に浮かぶ。







慌てる私を見かねてロビーの受け付けに来てくれると、事情を察したみたいで他のシングルの部屋がないか聞いてみた。

「申し訳ありませんが…今日は満室で。」

「で、ですよね…。どうしましょう…」

どうもこうもここまで来たからには任務遂行しないといけない。

「私が車中泊で…」

「待った、それはなし。危ないよ…。」


チラリと腕時計を確認する乙骨さんの返事を待つ。


「もう遅いし、ソファで寝るから君がよければ今夜は…その…一緒でいいかな?」

「へ?わたしは…大丈夫…デス…」

語尾が小さくなる私を横にささっと受付を済ませてくれた乙骨さん。
私がしなきゃいけないのに。

「大丈夫、何もしないから。505だって」

何もしないから。
そのワードが逆に変に意識させる。

沈まれ私の心臓!


カードキーを手に荷物持ってエレベーターに乗り込む。
しんと静かなエレベーター内では自分の鼓動が響き渡っていた。








君という花










あ、もうこれ、完全にいつもの自分じゃない。おかしい。
シラフはとてもじゃないけど無理かもしれない。


「…あの…よければお酒を1本ずつ買いませんか?そのほうが楽しい気がします!私買ってきます!なんでも飲めますか?」

「…うん…じゃあ…お願いしようかな。なんでもいいよ!」



505の前でカードキーを受け取り、乙骨さんの顔も見ず、自販機まで走り出した。

あの部屋に2人で泊まるのか。
いや、普通に仕事だ。
仕事で来ているんだ。
野薔薇ちゃんと同じようにすれば大丈夫。たぶん。


ガコン、と冷たいお酒が2本でてくる。なんとなくビールではない気がして甘めのチューハイとレモンハイを買って部屋へ向かった。


部屋の前で一呼吸。
大丈夫、いつもどおり。
意を決して部屋へ入る。



「失礼します!買ってきまし…たぁぁすみませんすみません!」


ちょうどシャツを替えていたらしい乙骨さんが上半身裸で目のやり場に困った。とても。
華奢で線が細いイメージだった。
そのイメージを覆すべく鍛えられた肉体は顔の優しさとは逆に、男を認識させる。

そういえば虎杖君もムキムキになってたなぁ。

そして一瞬見える、体の傷。
この人もきっと…たくさんの試練を乗り越えて、傷付きながらここまで強くなったんだろうな…。

五条先生くらいかも、、つるっつるの無傷。

「ごめんごめん!汗かいてたから気になって、、どうしたの?」


「…大丈夫です!お先にシャワーどうぞ!サッパリしたら一杯どうでしょう?」

わざと明るくおどけてみせるのは、恥ずかしさを堪えてるせい。


「うん、いいね!じゃあお先に借りるね。」

乙骨さんがシャワーしている間に明日の任務の確認をする。
吊り橋付近の交通事故多発。
でも呪霊の目撃情報はない…

人や物にちょっかいを出してくる呪いは恐らく2級以下。

乙骨さんならすぐ済ませてくれそうだ。
早くこの2人きりから脱したい!

スマホに目をやると野薔薇ちゃんと真希さんから連絡が来ている。
真希さんにいたっては着信のみ数回。


ーーーーーーー
シングル?
ダブルベッド?
まぁ、がんばれ
野薔薇
ーーーーーーー


そういやと思って部屋を見渡すと大きなダブルベッドがひとつ。

いやいや私はソファで寝よう。
じゃないと乙骨さんの明日の体に響く。


「ありがとう。名字さんもシャワーどうぞ」

「あっ…りがとうございます…!?」


思わず上ずった変な声がでた。
普段は前髪を少し上から横に流している乙骨さんが、無造作に垂れている。
それは…それで…。


慌てて風呂場に駆け込む。


ザァァアと雑念を消すようにシャワーを当ててみる。気持ちがいい。
夕飯を待っているだろうから手短に済ます。


可愛い部屋着がなかったからな…
Tシャツと短パンを着て軽めにドライヤーを済ませる。


「お待たせしました!」

「…!?」

「見苦しい素っぴんすみません!」

人並みに最低限の化粧をして出勤していたのでちょっと恥ずかしい。
眉毛だけは書いてみた。


「…そんなことないよ!」

何故か慌てたような乙骨さん。
そんなに私の素っぴんに驚愕したのかな…
しょぼん、と部屋の鏡を見る。




「お腹すいたね、早く食べよう」

「そうですね!任務前の乾杯しましょう!」

対面で座るのがちょっと気恥ずかしいけど…
この1本のお酒がなんとか気を紛らわせてくれるはず!




「わぁ…暖めててくれたんですね!さすがです…」

「電子レンジがあってよかったね」


風呂に入る前に冷凍庫に入れていた酒がいい感じにキンキンだ。


プシュ、と缶を開けて乾杯する。



「明日はよろしくね」

「はい!よろしくお願いします!」





end