14.死のうとしたんだよね
「出張先でお酒飲んで乾杯したなんて言ったら五条先生に何されるか…」
気疲れもあっただろう。お互いに。
目の前の名字さんはソファにもたれかかり、酔いが回ってきてる。
早く寝かせないと…
「長距離運転だったしね…。もう寝る?」
持っている缶を少しだけ強く握ったその手が一瞬震える。
「もう少しだけ…あの…乙骨さん…」
「ん?」
「…やっぱり大丈夫で…」
「聞きたいことはちゃんと聞いていいよ。」
そう言うと少し戸惑ったような顔をしてしばらく沈黙が続いた。
ゴミを片付けたりしてたんだけど、手を止めて。目の前に座る。
待ってあげよう。
「乙骨さんの後ろの…重い"何か"について、聞いてもいいですか?」
君という花
ああ、この子はずっと気になっていたんだ。
「一緒に任務が組まされる事になって、少し調べたんです。折本里香さんについて…。それで…」
そういえばあの事件、報告書があがってたけど僕は目を通してない。
「…うん、じゃあ僕が高専に来た理由から話そうかな…。」
体が弱かったこと。
里香だけが唯一の友達だった。
結婚を誓い合った間柄。
ずっとずっと一緒だよ。
揺るがない本心だった。
目の前の凄惨な現状に、死んでほしくないと呪いをかけたのは紛れもない自分。
特級呪霊、折本里香を産み出したのは…
今でも鮮明に覚えてる、あの日。
「死のうとしたんだよね。」
「へ?」
「だから荷物少なかったでしょ?高専に何も持ってこなかった。生きるつもりなんて、なかったから。」
「なん…で…」
「誰も傷つけたくなくて。でもそれじゃさみしいって言われて…言い返せなかった。誰かに必要とされたい。誰かに存在してていいって認めてほしかった。」
導き、助けてくれた先生。
とても感謝している。
五条先生がいなければ今の自分はいない。
呪いとは何かを叩き込んでくれた。
そして初めてできた仲間。
死と隣り合わせの毎日、
死なせたくない友達。
彼らは充分に自分を奮い立たせた。
「皆のお陰で強くなれたよ。里香の解呪も達成できた。」
本当にそうだ。
一人ではここまで強くなれなかった。
パンダ君、狗巻君…真希さんには感謝している。
「解呪…それでも乙骨さんの側にいるんですね、里香さん。」
「うん、里香は僕の特別な人。」
「……ありがとうございます!!すみませんこんなこと聞いて」
酔いが覚めたかのようにあたふたと片付けをしだす名字さん。
もうだいぶ夜も深まってきた。
そろそろ寝ないといけないのに。
「君の…」
「…?」
「君の事も聞いていいかな?知りたいんだ。」
名字さんと一緒に過ごしてみて分かったことがある。
彼女はごく普通の人だ。
特別な事なんてしていないのに、皆の心のサポートしている。
明るくて気が利いて前向きで。
そんな彼女の時折見せる寂しそうな顔が。
困ったような笑顔が。
気になってしょうがないんだ。
end