「私の事…ですか?」

目の前に腰かけた乙骨さんを見る。
私の事といっても…話すほど大層な話はない。

「なんでもいいんだ!趣味とか、好きな食べ物とか。」

なんだこの質問…!
急にこっぱずかしくなってきた…

「ほら、任務一緒に組むことが多いし。お互いの事少しでも知ってた方がいいかな〜なんて…」

ははは、と語尾を濁す乙骨さんに少し緊張が解けた。

「わかりました!なんでも答えます!でも、その前にもう寝転びませんか?明日も早いですし…!ゴロゴロしながら喋りましょう!」

そう提案したのが間違いだったのか良かったのか。
今はわからない。





君という花





「(な、ん、で、こ、ん、な、こ、と、に!!!!)

ひたすら後ろが気になる。
だって背中合わせで寝ているんだもの。

ゴロゴロしながら話そうと提案したものの、ソファとベッドが遠すぎた。お喋りできない…

私だけ聞きたいこと聞いて寝ましょう!なんて失礼なことも言えない…

せめて乙骨さんだけでもベッドに横になって明日に備えてほしい。
寝室へと促すものの自分だけ寝るのは忍びない、君が、いや乙骨さんが、はてしなく押し問答。

かといって一緒に寝るのも…
うーんうーんと悩むけど刻一刻と時間は過ぎていく。




「そしたら半分こはどうですか!?」

名案だと咄嗟に言った。
凄く驚いた顔をしてしばらく悩んでいたけど

「…君がいいならそうしよう、ね?」

休まるどころか緊張するんですけど!
おずおずと背中合わせで寝そべるも眠気なんてどっかに飛んでいってしまった。

ひたすらに背中が熱い、




「名字さんは虎杖君と同じ年だったよね…どうして補助監督に?」

目の前のデジタル時計が進んでいくのをひたすらにみていた。

七海さんに助けられたあの日。




「私も最初は呪術師として通っていたんです。七海さんに助けてもらって、高専へ。」

「呪術師を目指していたってことか…だから五条先生も先生って呼んでるんだね。」

「そうなんです!自分の身を守る術と、人を助ける事ができるならと。でも…向いてなかったんです。」

ぎゅっと手を握る。
自分はなれなかった。

虎杖君みたいにずば抜けた身体能力もないし、伏黒君みたいにセンスがあるわけでもない。
野薔薇ちゃんみたいに強くなれなくて。ただ"視える"だけだ。


「五条先生に、辞めろっていわれて!足手まといなんだからだと思います。それでも大好きな皆の役に立ちたいと思ったんです」


大層な呪霊を祓えなくても、大事な仲間を助けるサポートがしたい。

「我ながら、未練がましいです。呪術師としてのセンスがないなら元の生活に戻ればいいのに」

しがみついて、しがみついて、
みんなの後ろ姿を追うばかりで。
時には自分の能力のなさに絶望した時もあった。





「僕たちのためにありがとう。君や、伊地知さんのお陰で僕たちも安心して任務に行けるんだよ。」



カチッとテーブルの照明が消された。



「明日は頑張ろうね」





おやすみ、と聞こえた気がした。

何故か涙がでそうになる。
その優しくて安心する声が眠気を誘い、気がつくと深い眠りについた。





end