16.君が欲しいんだよ
「おはようございます乙骨さん…起きれますか?」
「おはよう…」
昨夜は乙骨さんと遅くまで話していたけどいつのまにか寝落ちしていた私。
頭はスッキリ。多少のお酒って結構ぐっすり寝られるんだなと思った。
乙骨さんはというとよく眠れなかったのか、目の下にさらに濃いめの隈を作っている。
「私がベッドを占領していたかもしれません、すみません…」
「そんなんじゃないよ…大丈夫!気にしないで。」
軽くシャワーを浴びてスーツに着替える。乙骨さんも着替えてて、戦闘態勢だ。
「よし、行こうか。」
外はまだ薄暗い。
君という花
帳を降ろし、乙骨さんの背中を見送る。どんなに強い人でも帰りを願わずにはいられない。
どうかご無事で。
朝の涼しい時間帯。橋の上からは流れる川が朝日でキラキラしている。
「君が名前かな?」
ふわり、と後ろをとられたと思った。気配がない、そして物凄く強いと感じる。
このままでは殺される、と思うのに反応できず、相手の出方をみる。
「おっと…抵抗しないで。君と喧嘩しにきた訳じゃない。」
「…あなた…もしかして夏油…傑…」
切れ長の目にサラサラと長い黒髪を靡かせている。
僧侶…の格好だろうか?
「そ。よく知ってるね〜!そんなに有名なんだ。」
ケラケラと笑う夏油さんからは特に殺気や呪いの気配を感じない。
捕まえなきゃいけない、高専のために。
でもどうやって?
「目的は…」
「君が欲しいんだよ。だから誘いに来た。私と一緒に行かないか?」
「なんで?なんのために…私特に何もできませんよ?」
「それでもいい。行こう。悪いようにはしない。」
揺るがない夏油さんの瞳は何か企みがあるのか?
じりじりと近づいてきて手を掴まれる。
顔に似合わず物凄い力だ。
「君、悟のお気に入りだよね。悟だけじゃない、高専の皆から慕われている。そんな君が私の元に来たらどうなるか…みてみたいだけさ。」
この人…からかってるだけなの?
それだけが目的?
「…ッ離してください!私は弱いです!夏油さんが思っているようなやつでは…私は…」
自分で言っててむなしくなってきた。
だって私は必要とされてない、と思う。
戦えないし、低級しか祓えない役立たたず。それでも皆のそばで支えたいとしがみついているだけのただの…
「君はそれでいいのかい?こっちにおいで」
やめてください、と手を離そうにも物凄い力で話せない。
なけなしの呪力を練って向かうもすぐに掴まえられる。
「以外としぶといね。足でも折っとくか」
そう呟いて向かって来るのをどうにもできず、思わず両手で覆うと帳が降りた。私が降ろしているのものが。
「よそ見なんて余裕だね。」
「っ…!」
バキッと嫌な音がした。
だらんと垂れる足と激痛に思わず顔をしかめる。
容赦ない夏油さんをにらみ返すしかできない。
中の乙骨さんは…。
「あ…よかった…祓えてる…」
ボロボロの我が身より乙骨さんが無事に任務が終っていたことにほっとする。
「私の帳を降ろしているからね…彼は出られないよ。あれ…もしかして彼…」
中からなんとか帳をあげようと必死に攻撃を続ける乙骨さんの後ろには折本里香がいた。
禍々しいそれの姿をちゃんとみたのは初めてで。
ゾクゾクと身震いする。
と同時にあの強い二人でも破れない帳を降ろしている夏油さんも強いことがわかる。
五条先生と同じくらい…だろうか。
それならヤバい。
「欲しい…君も…欲しい!」
途端に眼の色を変えて乙骨さんの方へいく。
標的が変わったのだ。今欲しいのは乙骨さんなんだ。
怪我…させちゃだめだ。
大事な人に。
生きて欲しいから、笑ってて欲しいから。
誰も死なせたくない。
「っ…!さ…せない…!!!」
ありったけの力で足を補強し、夏油さんの前に割り込むと、パァンと弾けた音がした。
自分はどうなってもいい。
乙骨さんが助かれば。
視界が暗転する。
end