17.僕が必ず守るから
「…さん…名字さん…!」
ひたすらに彼女の名前を言い続けた。彼女は夏油の強さをわかっていたはずなのに。
どうして俺をかばったのだろう。
かなわない相手なのに。
どうして、どうして…。
ひたすら反転呪式を施すも生気が失くなっていく彼女をぎゅっと抱き締める。
死ぬな、死ぬな、
彼女に気を取られて夏油の行方を見失っていた。
ふわり、と背後に気配を感じ、刀に手をやると
「…また会いにくるよ…。」
そういってふわりと彼女の髪を触り、立ち去った。
君という花
「…。ったくこの子は…早く運んで。」
すぐに高専の応援がきて家入さんの元へ運ばれた名字さん。
帳と夏油の間にはいった時の内蔵の損傷が激しい。
家入さんも少し慌てている様子だ。
自身も血や呪霊の贓物で汚れているのに着替える気にはならなくて。
ただひたすら彼女の無事を願っていた。
「憂太。着替えてきたら?」
「五条…先生…。名字さんが…。」
先生の顔を見た途端にポロポロと涙がでる。男の癖に、と情けない。
ぎゅっとシャツを掴んだ手が強張り、緩められない。
「…まーたやっちゃんたんだね、あいつ。3度目。バカだなぁ…」
「…どういうことですか?」
「また無茶な戦いかただったろ?」
犠牲、というか突っ込んできたというか。省みないそんな感じ。
「それは…そうでした。」
「…はぁ…だーかーら嫌なんだよ。あいつが戦うの。」
ムッスーと頬杖をついて家入さんが入っていった部屋を見る。
「作戦とか、逃げるとか、出直すとか以前に名前はさ、咄嗟に自分を危険に曝すわけ。仲間の命の重さには人一倍敏感で、自分にはそこまで貪着してない。だから辞めろって言ったの。」
「そう、なんですね…。」
「組まされる方はごめんだよ。汗水垂らして青春過ごした仲間は皆、生きて帰ってきてほしいじゃん?」
そう言う五条先生の表情は心なしか怒っているように見える。
いつも飄々とおちゃらけている先生とは違う。
「大事なんですね。名字さんが。」
「そ。単純に死んでほしくないから。それにさ、高専の連中があいつに懐いてんの。だからさ、ここでは必要な存在なわけ。」
でも彼女は役立たずだからと負い目を感じている。
戦えなくたって、君がいる事でどんなに周りが明るく過ごせているか。
この環境にはそういう存在が必要だ。現に自分も癒されている。
「僕も…同じことを彼女に言うと思います。」
傷つける、とは思う。
でも死なせるよりは良い。
帰ってきて、あの明るくてふにゃふにゃの笑顔で"おかえり"を言って欲しい。ずっと笑っていて欲しい、そんな存在だ。
僕が、守りたい。彼女を。
「あー、もしかして憂太…」
「へ?!ぼ、僕は別にそんなんじゃ…!」
「何も言ってないけど。ま、頑張って。若人の青春!あ…硝子どうだった?」
ガタッと思わずソファから立ち上がる。処置をしていた家入さんの表情からは何もわからない。
「ッ…!名字さんは…!」
「大丈夫、生きてる。夏油が急所をはずしていたよ。ったく…」
「やっぱりね。傑、早く捕まえないとなぁ…名前と何話したか聞かなきゃ」
よかった…
へなへなとその場に座り込む。生きてた、本当によかった。
ぎゅっと拳を握りしめ、一粒の涙が溢れた。
「まだ寝てるよ。乙骨、心配なら見てきて良いよ。」
そういわれ、刀をおろし部屋へと向かった。
無機質なその部屋に横たわる名字さん。
顔は青白いけど息はしている。
一直線に裂けた両足のズボン、ここを折られたのか…。痛かっただろう。
そして腹の部分。ここは家入さんが治してくれている。
「…ごめん、ごめんね…怪我させて。」
少し冷たい彼女の手を握る。
「僕が必ず守るから。」
end