18.君もそんな存在だよ
「………いったぁ…」
見慣れた天井と無機質な白い壁がそこを思い出させる。
ここに運ばれたのは何度目だろうか。
生きている。腹の部分を触ると無いはずの肌がそこにあって、少しほっとする。
足も…繋がっている。
「…起きましたか」
いきなり話しかけられて動機がする。横を見ると久しぶりの七海さんが。
「…七海さん、お久しぶりです」
「また無茶をしたようですね。」
ビリビリと怒っているのを感じる。ああ、眉間の皺がさらに濃く刻まれている。
「今日って…」
「3日、目を覚ましませんでした。貴女はこの界隈から引く選択もあると…何度も…」
ズキズキと心が痛む。
引けと言われるのは何度目かで、五条先生からも言われたなぁ。
ストレートに、辞めたら?と。
言われるたびに、いらない存在だと言われてるようで辛かった。
強くなればと何度も何度も訓練したけど、才能がないのだろう。
あ、涙腺が。
「また来ますから…。」
ハァ、とため息をついて出ていく七海さん。
心の中で何度も何度も謝って。
そのごめんなさい、は何のためだかわからなくて。
私もまた目をつぶった。
君という花
「…また眠ってた…」
服もあの時のボロボロじゃなくて部屋着になっている。
家入さんが着替えさせてくれたんだろう。本当に感謝だ。
「あれ、これって…」
枕元には10本以上の飲み物が陳列されている。
誰かが持ってきてくれたのかな?と触ろうとすると、手元が暖かい。
目線をやると、誰かが握っている。
「乙骨…さんっ…!?」
あまりに驚きすぎて大きな声がでてしまった。
「…っ…わぁあ…!!!ご、ごめん、…!大丈夫?痛いところはない?」
顔も手も赤くなっている。お互いに。
結構前から握っていたのか、掌が汗ばんでいる。
慌てた様子で私の顔を覗き込む乙骨さん。よかった、乙骨さんは怪我してなさそうだ。
「大丈夫です…ちょっと足が痛いけどリハビリすればなんとか!乙骨さんが大きな怪我がなくて本当によかったです。」
そう言うと、なんともいえない表情。怒り?悲しみ?なんだろう。変な顔をしている。
「…よかった…君が生きていてくれて。心配したよ。」
また、ぎゅっと手を握られる。
心配してくれてたんだな…。こんな私でも。
「すみません、私が弱…」
そう言おうとすると握っていた手がふと、口元を覆う。
「そんなこと…言っちゃだめだよ。弱いからじゃない。君は強い、だって夏油の攻撃に怯まないでいたから。自分を攻めないで、悪いのは僕の方。」
はたと距離が近いのに気付き、そそくさと離れる。
なんだか恥ずかしい。
「乙骨さんは…悪くないです…私、役に立たなきゃここにいられないかもーなんて…思ってしまってて」
他の人には言えない胸の内を謎か彼にはスラスラと話せる気がした。
「そんなことない。でも、誰かを庇って君が傷つくのは辛いよ。」
枕元にあった飲み物を手にとって握ったりブラブラさせたり落ち着かない様子だ。チラチラと私の格好を見つつ言葉を探している。
トイレかな?
「…僕も体が弱かったんだ、名字さんの今の格好を見て昔を思い出したよ。」
「そうだったんですね…想像つかないです…」
今の乙骨さんは特級だ、五条先生や夏油さんにも立ち向かっていける強さ。
「うん、自分の弱さに何度もくじけそうになったよ…その度に仲間が支えてくれて…今の僕がある。」
「大切な人の為に…」
「そう。死なせたくないからね。単純でしょ。君もそんな存在だよ。大切なんだ。」
「へ?」
きょとん、と乙骨さんを見る。
下を見てうつむいていた顔が咄嗟に横を見て顔を隠す。
真っ赤だ。
つられて私も恥ずかしくなってきた。
「だ、だからさ!家も近いわけだし、困ったことがあったら何でもいってよ!夏油がまた狙ってくるかもしれないし!あ、飲めないものがある?」
「特に…あの…」
「こんなにあっても飲めないよね、また来るから!」
じゃ、と何本か飲み物をもってそそくさと部屋をでていった。
もしかしてこの飲み物って…
お茶にジュースにカルピスにカフェオレに。五条先生推しのいちごミルクまである。
暑いからどれもギンギンに冷やしたら美味しそうだ。
「乙骨だよ。お前が起きるまで見舞いに来ていた。かなりの頻度でな、」
「家入さん!」
「手ぶらじゃなんだとか言って持っていたがこんな数になってるとは。あいつもわかりやすいな。」
何が!?と言いたいところだけど助けてもらったお礼を言わなければならない。
「助けてもらってありがとうございます。」
「ッたく。無茶すんじゃないよ、お前が任務に行く度にソワソワしてるヤローがたっくさんいんだよ。だから死ぬな。」
後々面倒だからな、そうブツブツと呟いて出ていった。
明日には家に帰っていいと言われ、また冷蔵庫の中身の心配をする。
あれもこれも駄目になってるだろうなぁ…
足だけ少し痛みがある。これはリハビリもしないと。両足というのが不便だ。
「パパッと回復してまた頑張ろう!」
早くまた現場に出たい。
夏油との接触の件はすっかり忘れてまた眠りについた。
end