「数分待ってくださいね!」

部屋に入るなり換気をする。
ラグとかマット類は全て洗濯機にいれてザッと掃除機をかける。

ゴミもちょうど出した後だったからよかった。

とりあえず綺麗にできたな…


「どうぞ!散らかってますけど…」

「お、お邪魔します…」


ガチガチに緊張してるスーパー袋を抱えた乙骨さんが玄関に入ってきた。


ご飯できるまで座っててもらおう…




君という花



「僕もなんか手伝うよ、足痛いでしょ?」

「じゃあー適当に冷蔵庫にいれてもらえます?古いのは全部捨てるので!」

冷蔵庫を勝手に開けられても特に問題はない、と思う。

「牛乳は?」

「捨てましょう」

「豆腐も?」

「捨てましょう」

ひとつひとつ確認して捨ててる乙骨さんが可愛らしくて、微笑ましい。


「何か苦手なものがありますか?」

「そうだなー…うーん。脂っこいものが好きじゃないかも。基本的になんでも食べるよ!貪着がないだけで…名字さんは何かある?」


シュシュと圧力鍋が音をたて出した。すぐに米が炊けるから便利だ。


「私はゲテモノ以外はたべますよ!山葵とかは苦手ですけど…おこさま舌です。」

「ゲテモノって!僕も苦手だなぁ…」

キッチンでのやりとりにふとした瞬間に照れてしまう。
この距離感に、少し心地よさも感じたり。


買ってきた野菜と竹輪を塩揉みして胡麻油と塩コショウで即席ナムル。
たっぷりの卵液に葱とカニカマ、ふわっふわに火を入れて野菜たっぷりの甘酢をつくる。
野菜は面倒だったからカット野菜で。

圧がとれて蒸らしが終わると艶々の米が完成。


「確か来客用のどんぶりが…」


虎杖君達が来たとき用に買っていた大きめのどんぶりが棚の上の方にある。もう少しで届くんだけどなー…

乙骨さんに取ってもらうか…
でも今一生懸命卵を仕分けてるしなぁ…
そういえば100均で買った折り畳みの台がここに…あったあった。



ひょいと乗って背伸びするも足首に力を入れると激痛がはしる。
あとちょい…なんだけど、


「う…わ…!」


「危ない!!」



グリッと嫌な予感はしたんだけど咄嗟にどんぶりは取れた。
よろける私は冷蔵庫の下で仕分けていた乙骨さんのほうになだれ込む。

ぐしゃ、と卵が落ちる音がした。
尻餅つくかな?とのんきに構えていたのに痛みはない。
どんぶりはしっかり抱えている。割れていない。

私はというと…
乙骨さんが背中を片手で支えてくれている。

後少しで頭を打つくらいのレベルで床に近い…そして天井の方には乙骨さんが。


この体制って…


「大丈夫!?怪我はない?!」

「えっと…あの…」

急に恥ずかしくなってきたこの体制に乙骨さんは動揺もせず足から腕やら確認している。

「ここは?」

「大丈夫です」

「こっちは?」

「ちょっと痛いです。でもたいした痛みでは…」

ぺたぺたと頭やら背中まで確認している。

恥ずかしい…!!

「びっくりしたよ!もう。お皿取ろうとしたの?無理しないことだよ。言ってくれたら僕が取ったのに…間に合ってよかった…って…ごめん!!!」

我に帰ったのかあたふたして立たせてくれる乙骨さん。

子供が親にだっこして立たせてくれるみたいに。ひょいって。

私の方が恥ずかしいですよ!


「わぁあ!おおお重いですよ私!!逆にすみません!」


「そんなことないよ、大丈夫だから、立てる?」


「立てました…」

私が大丈夫じゃありません。いろんな意味で。

乙骨さんて華奢なのに力あるんだな…というか華奢と思っていたけど筋肉ついてるんだな?


袖からチラリと見えた腕をみてはさっきあったことが頭をよぎる。


「即席ですが天津飯とナムルできたのでたべましょう!」


いそいそと盛り付けてテーブルへと運ぶ。
飲み物は買ってきた麦茶だ。





ハフハフと食べ終えて皿洗いは乙骨さんが、してくれた。
慣れない手つきがちょっとかわいかったり。
そしてよく食べる。思ってた以上に。
やっぱり男の人だなぁ…



「ご飯作ってくれてありがとう。おいしかった!誰かの手作りなんて滅多に食べないから…嬉しかったよ。御馳走様。」

「たいしたものではないですけど!」

凄く嬉しかったようで始終ニコニコして食べていた。こっちまでほっこりしてしまった。

「ううん。充分だよ。僕もう帰っても大丈夫?他に困ることない?」

「大丈夫です!ありがとうございます、買い物とか色々と…」


心配そうに玄関で問答されるけどこれ以上一緒にいたらもたない。
恥ずかしすぎて。なんとなく。


「夜連絡するから。また明日ね。」


にっこりと手を振って玄関を出ていった。


思わずベランダにでて、駐車場を見ると乙骨さんがこっちをみて手を振っている。


私も全力で手を振った。


ん?


また明日??




end