すっかり良くなったらしい名字さんは、高専で今まで以上に元気に働いている。


僕もたまに会うけど、底抜けの笑顔とか他愛もない話をするだけで癒されてる。

彼女をもっと知りたくなった。

僕の家に…はまだ早かっただろうか…咄嗟に言ってしまった言葉に軽く後悔する。
彼女との関わりを薄くしたくなくて。必死だったんだろう。

またご飯でも誘ってみようかな。
今度は護衛とか無しで。

自販機へ寄ろうと向かうと、ちょうど目の前に名字さんと虎杖君が。

声をかけようとするもピタッと足がとまる。


「あーあ、腹減ったー。名字今日昼飯何?」

「今日はスタミナ丼。勿論にんにく無しね!ご飯とおかず分けてきたの。」

「うまそうだな!前お前んちで食った麻婆丼もうまかったよな。あのーなんだっけ、ケーキみたいなやつも。」

「マフィン?量食べるから虎杖君用に大きな丼買ったよ!!前はまどろっこしいとかいって鍋で食べてたからね。」

「わりぃわりぃ!また食いにいくわ!弁当でも良いぜー」

「お金くれるなら作ってくるよ!」

和気あいあいと話す2人に話しかけられない。今までも見た事のある光景だ。

彼女は誰とでも仲が良い。それはわかっていた。のに。

仲良さげな様子を見て、腹の底からふつふつと意味のわからない感情が…。



彼女に…近づくな。


そんな小さな考えが浮かんではスッと消えた。




君という花





「あいつはあんな感じだぞー。」

「うっわ…!真希さん!びっくりした…」

「虎杖も名前も人懐っこいだろ。皆に分け隔てなくああだ。一年同士部屋に遊びに行ったりしてんだろ。気にすんな。」

「きっ気にするなってどういう…」

「…ったく…男の嫉妬は見苦しいぞ。堂々としてろ。」

ドスッと脇腹を殴られる。
相変わらず痛い…そしてニヤニヤしてる。

「あ、乙骨さん!こんにちは!」

「ちわー!んじゃ名字またな!」

「うん!乙骨さんはこれから任務ですか?」

僕に気づいた2人が寄ってきて虎杖君はどこかへ行ってしまった。
2人ともいつも通りすぎて自分のこのモヤモヤとした感情に罪悪感。
特に虎杖君に。一方的にごめん。

「今日は高専なんだ。名字さんは?」

「これからお昼です!その後は同行です。久しぶりなのでがんばります!」

相変わらず忙しそうだな、補助監督ってのは。

「頑張るのはいいけど…無理したら駄目だよ。」

「肝に銘じます。では!」

ぺこりとお辞儀して歩きだそうとする彼女の手をおもむろに掴んだ。
咄嗟に。何故かわからないけど。

「わわっ!どうしました?」

「あ!いや、えっと…マフィン、全部美味しかった。」

「…良かったです!甘いもの食べるかなと思いながらだったので…」

「その…虎杖君にもあげたの?同じやつ…」

我ながら何を聞いてるんだと思う。それでも聞かずにはいられなかった。


「えっと…マフィンですか?」

こくり、と頷いて彼女を見る。
するとみるみるうちに顔が赤らんできた。


「乙骨さんに作るの緊張しちゃって…何度か試作したんです。作りすぎてあまりを虎杖君に…あの日の午後に虎杖君と野薔薇ちゃんと伏黒君が遊びに来て、その時に…。虎杖君には内緒ですよ!?」

恥ずかしそうに照れ笑いする。
僕のために何度も作ってくれたのか…。
そう思ったら名前さんが可愛くて、いじらしくて。
衝動的につい抱き締めたくなってしまった。

掴んだ手は離すタイミングがわからずそのままで。



「そっか。ありがとう。また作ってくれる?美味しかったから…」


「勿論です!」


恥ずかしいのか、そのまま手を握られてブンブンとされた。
照れ隠しだろう。





「今度は僕だけに。全部食べるから。他の人にはあげないでね?」




end