君が好き
君が‥好き

君って‥私?
一瞬でよぎる、過去の記憶。
乙骨さんがしてくれたこと。
最初の出会い、任務、それから‥
色々な感情がフラッシュバックして、私は乙骨さんの次の言葉を待つしかなかった。






君という花






「‥‥」

「驚いた?急にそんなこと言ってごめん。困らせた‥よね」


しゅん、となる乙骨さん。
困ってないといえば嘘になるけど。


「いや!あの‥大丈夫です‥驚いて‥」

「そうだね。僕も自分で驚いてる」

心臓がドクドクと脈打つ音を感じる。

こだわりが無い乙骨さんの部屋はシンプルで。というか物が少なくて。無機質な部屋が自身の心臓の音を意識させる。

「夏油からの護衛を頼まれたときね、正直嬉しかった。名字さんと‥その‥もっと話せたら良いなって。仕事なのに不謹慎かもしれないけど。」
  
困ったように笑う乙骨さんは少しバツが悪そうだった。
でも、正直な気持ちが嬉しくて頷くばかり。
私も‥乙骨さんともっと話したかったし、知りたかったのも本音だ。



「私も‥安心でした‥。夏油さんは狙う事はないと思ってましたけど、乙骨さんが一緒だったから‥頼ってばかりで」


頼ってばかり、というか誰かと一緒にいるのが嬉しくて。
居心地がいい乙骨さんに少し甘えていたんだと思う。 
この世界にやってきて、無慈悲に亡くなる友人もいた。凄惨な現場に何度も魘された。
人と関わりたい、少しでも役に立ちたいのに。いつかくるかもしれない゛別れ゛が怖くて。踏み入る事を躊躇していた気がする。

それなのに乙骨さんのことはもっと知りたいだなんて。


「護衛‥他の人に頼むかって五条先生に言われてね。正直焦った。誰が名字さんの近くにいるんだろうって。モヤモヤした。」


チクタクチクタク
部屋の時計の音がやけに響く。
しばらく握られていた腕がすっと離れた。
そこは熱を持っていて、熱い。



「リカがあんな風になってから‥また誰かを呪ってしまうんじゃないかと思って。絶対に人を好きになるもんかと決めていたんだけどね。気づいたら好きになってた。抑えられなかったんだ。」


しばしの沈黙。
気持ちは嬉しい。ありがたいと思う。
でも‥自信がない。自分に。
乙骨さんは特級だ。
そんな凄い人と私なんか‥
何もできないししてやれないんじゃないかって‥



「私は‥失敗するし弱いし‥取り柄もなくて。」


守られてばっかりで、おんぶに抱っこでは嫌だ。
自分の非力さは十分理解している。    


素直に自分も気になっていると言えばいいのに、踏み込むのが怖い。


「そんなことはない。絶対に。君の気持ちが知りたい。ゆっくりでいいから‥。」


俯く私の手をまた、そっと握られる。

ドキッと思わず肩が跳ねる。

目の前の乙骨さんは、私が言葉を出すのを躊躇しているのを待ってくれているのかな。
なんて、優しい‥


ん?と屈んで顔の近くを覗いてくれた。

ち、近い‥!


「また迷惑かけるかもしれないです」


「うん」



「でも‥私も、、乙骨さんが、す「「「憂太ーーー!おじゃましまーーー」」」


引き止められた玄関先。
勢いよく開くドア。


ギョッと振り向いたその先に現れたのは紛れもないさっきの電話の3人。


バサバサと掌から落ちるあれは、コンビニスイーツか?
崩れちゃう!とキャッチに走る私。



青ざめておろおろしてる乙骨さん。





「へ?」

「「あ」」




「‥‥てっめっ!!‥名前に手ェ出してんじゃねぇよこのもやしがぁぁー!」


ここで真希さんの一発が響いた。


end