「大事にしろよ」

「うん」

「泣かせたらどうなるか分かってんだろうな」

「泣かせないよ‥!」

それからというもの私も帰るタイミングを見失って皆で乙骨さんの部屋で談笑タイム。
日頃任務で集まれることってあまりないから、ちょっと嬉しかったり。

「真希〜そのへんにしろよ〜。付き合いたてホヤホヤのアベックだろ?」

「しゃけしゃけ」

質問攻めというか真希さんに尋問されている乙骨さんはもう、たじたじだ。

「だってこのもやしが‥可愛い名前とイチャつくとかよ‥見てらんねーー!」

「ちょ、ちょっとまだそんなことしてないし見せないですよ!」

なんかあったらすぐ言えよ、と真希さんが絡んでくる。それはもう、酔っぱらいのごとく。


「さっき食べたティラミスってお酒入ってました?」

「普通のだったぞ。」

パッケージ見ると確かに普通のティラミスだ。真希さん恐るべし。



「ほうほう。これからだろ?あーんなことやこーんなこと」

「ぱ、パンダ君!」

「憂太今何想像した?」

「ツナマヨ?」

「べっ!別に!」

同級生のみんなと一緒にいる時の乙骨さんは、ちょっぴりいじられるけどとても楽しそうだ。
普段は優しくて、大人っぽくて。たまに無邪気で。今日はいろんな乙骨さんが見れたなぁ。

野薔薇ちゃんとか虎杖くん達に会いたくなった。






君という花 







「ほらそろそろ帰るぞ。ホヤホヤだからな〜お邪魔虫は退散だ。」

「パンダてめぇやめろ!名前も帰るぞ!泊まりなんて許さねぇえ!」

「高菜!こんぶ!」


「え〜?二人っきりにさせてやろうぜ?」

それはそれでまだ恥ずかしい気がする!


ぷりぷりと怒る真希さんと狗巻くんに連れられて、私もずるずるとそこを後にした。


「名字さん!また!」

「は、はい!乙骨さんまた!」


しゅんと寂しいような困ったような顔の乙骨さんに手を降って、帰りは和気あいあいと帰路についた。




※※※※※





家についてふとスマホを見ると、着信が入っていた。
乙骨さんだ、帰り着いた?とメールまで来ている。


「わ、こ、こんばんは!」

『帰り着いた?』

「はい!帰り着いてゴロゴロしてました!電話気づかずすみません」

電話越しで話す声がじわじわと脳を侵食する。
暖かくて、優しい声で。落ち着く。


あぁ、また会いたいなぁ。
でも‥なんて言えばいいんだろう。

理由が、ないな。


縫いかけの服でも一枚残しておけばよかったな、とか。
素直に言えばいいのに、気恥ずかしくて言えない。


『明日も仕事?』

「そうですよ!明日は朝一番ででした。誰とだったかな‥確認しないと」

『じゃあーもう寝ないとね。朝早いなら。』


もう少し
まだ話していない。けど言えなくて。

次にいつ会えるかな、とか。
彼女になったんだよね?とか。


『名字さん?』


「あ!まだ破れた服ありますか?私また縫いに行けますから‥」



『‥理由がなくてもいいんだよ。』


「へ?」


『理由がなくても、僕は君に会いたい。』


そう、濁して伝えてくる言葉は一つ一つ心を溶かしていく。
まるで甘い甘いチョコレートみたいに、染み込んでくる。


もう少し素直になりたい。
乙骨さんのことを知りたい。



「私もです‥。」




こんな気持ちになったのは、初めてだ。



『じゃあおやすみ。』

「おやすみなさい」


『また明日。』



また明日。明日になったらまた会える。


スマホの受話器が少し熱くなって、私は名残惜しく電話を切った。



End