「よっ!名前。お疲れサマンサ〜」



「お疲れ様です。五条先生お久しぶりですね!」

「君は相変わらず疲れた顔してるね。たまにはゆっくりしたら?」


ゆっくりしたいけど仕事を増やしてるのは誰かなぁぁ‥
ギリリと五条先生を睨むと相変わらずの表情だ。目元隠れてるのにニヤニヤしているのがわかる。

まぁ祓えば祓っただけ一般人の被害は少なくなる訳だし。
私の休みよりみんなの平和。
大事。

「そういえば憂太となんかあった?」

「なんですか急に」

「んー‥なんとなく。憂太最近ソワソワしてるんだよね‥。てっきり名前絡みかと」


ピクリ、と作業している手が止まる。バレてしまう、五条先生のあの眼なら。
一瞬の動揺さえ見せてはならない。



【そうですか‥乙骨君なら安心です。くれぐれも五条さんにはバレないほうが良いかと。後々面倒です。】

七海さんには早々にお付き合いすることを伝えた。だってお父さんみたいだったから‥。
一瞬怪訝そうな顔をしたけど。大丈夫だったみたい。

そう、七海さんに言われて二人とも深々と納得をした


だって面白がってからかってくるのが目に見える。

五条先生にはしばらく話さないでおこうと言うことになったのだ。



「任務が忙しいのでは?ほら、特級ですし」

「忙しいからってソワソワする?返答が雑だよ。」

「五条先生ですから。」




乙骨さんのソワソワは間違ってないかもしれない。

乙骨さんって素直に態度やら顔に出るから。
高専でばったり出くわした時もふにゃって笑って近づいてくるし‥。

やばい‥こっちまでニヤけてきそうだ。



「五条先生もいつもソワソワしてますよ。」

「落ち着きないみたいじゃん。結構大人だよ?俺。」
 

大人だけど!大人気ないことたくさんするじゃないですか! 


「パンダにでも聞いてみるか」


そ、そ、それは逆に厄介事になりかねない!!!
立ち去ろうとする五条先生の方を向く。



「いや!あの!」

「ん?、なに、何かあるの?」


咄嗟に手を止め勢いよく立ってしまった。


「ほら‥白状しなって。俺に隠し事なんて百万年早いよ〜?」


じりじりと詰め寄ってきてあげく目隠しまで上げてきた。

くうう‥!
この澄んだ眼には何も逆らえない。






君という花





「って事があったんです‥」

「ハハ‥お疲れ様だったね。まぁ〜五条先生には遅かれ早かれ気づかれそうではあったよね。」

「鋭いですもんね。」

お付き合いを始めてから、こうして帰りは一緒に帰ることが多くなった。 

五条先生にバレるまではコソコソしていたけど‥。もう普通に一緒にいても良さそう。

「でも気づかれても後で話してもどちらも面倒なことにはなりそうです」

「拗ねたらちょっと面倒かもね」


電車を降りて家までの道のり。
いつも遠回りなのにマンションまで送ってくれる。


他愛のない話をしていたら、いつの間にか家の前に着いていて。

乙骨さんは聞き上手だなと思う。

私ばかり話していて退屈じゃないかなって心配になるけど

「そんな事ないよ。君の事は何でも知りたいからね。」

またまたそんなセリフをさらっと言うものだから。
心臓が爆発しそうだ。


もう少し話したいけど‥明日もあるからね。


「送ってくれてありがとうございます。乙骨さんも疲れてるのに‥」

「気にしないで、夜道は危険だしね。それに少しでも一緒に居れたら嬉しいから」

「はい‥じゃ‥おやすみなさい。また‥」


いつもこの瞬間は名残惜しい。

お互いに少し戸惑ったような空気が流れる。

もう少し一緒にいたい
もう少し一緒に話したい
もう少し‥

でも‥。




そんな思いが一瞬よぎるのだ。

軽く会釈をしてオートロックを開けようとすると、ふと手を握られた。


ドキッと肩が跳ねる。

「あ!のさ‥もし良ければなんだけど」

後ろの月明かりが逆光で乙骨さんの顔はよく見えないけど


「憂太って‥名前で呼んでほしい‥」


そう伝える乙骨さんの目はとても真剣だった。


「憂太さん‥」


「ん?あ。さんはつけなくても良いよ。なんか照れるね。自分で言っておいて。」

慣れるまでは憂太さんって言ってしまいそうだけど‥


「名前ちゃん?また明日。」


耳元で初めて下の名前で呼ばれて。

いつまでも冷めない熱とリフレインする声に。

私の顔は真っ赤だったに違いない。
  

End