30.キス、しよっか
「あ‥このシャンプー使ってるんだ‥。」
いい匂いだったから買ってみようかな‥。
ピチャン、と髪の毛からしずくが落ちる。ふわりシャンプーの香りが鼻に広がる。
あれ。
そしたら憂太さんと自分の香りが同じなのかと思うとまた熱が上がる。
「ーー‥こりゃいかんデスネ‥。」
手を繋いだり、名前で呼び合ったり。恋人らしい事は少しずつだが段階を踏んでいる気がする。
私も女だ。もっと‥こう。なんていうのか‥イチャイチャしてみたいなーなんて思ったりもする。
けど‥なんとなく伝えられなくて。
ほら、忙しいとか!憂太さんも遠方や夜の任務があったわけだし。
ブクブクと湯船に顔を突っ伏す。
「素直に言えたらいいのに‥」
そう。伝えられたらいいのに。
怖くていつも躊躇してしまう。
私ばっかり好き、みたいで。
普段の自分じゃない自分が垣間見える。いつもの私なら、明るくケロッと言えそうなのに‥。
好きで、大切で、迷惑かけたらと思うと嫌われるのが怖い。
“で、どこまでいったの。”
お付き合いをしていると言ってから
ズケズケと話してくる五条先生にはもう慣れた。
セクハラで訴えると言ってるのに懲りない先生め‥。
”まぁー憂太もそれなりに?男だからね。よろしく“
よろしくって‥よろしくって‥。
何を?と思った瞬間頭がボンっと爆発する。
意識してるわけじゃないのに!
あーだこーだ頭を悩ませていると湯船がぬるくなってきた。
そろそろ上がらないと、そう思ったときにはフラリ足元が滑ってしまった。
君という花
「大丈夫!?ちょっと開けるね?」
何事かと慌てて入ってきた憂太さんに私の頭はパニック。
すかさず湯船に戻るもお湯は透明だし何が何やら
「足が!足が滑って‥!」
ふと顔をみると憂太さんも顔が真っ赤だ。
「ご、ごめん‥バスタオル持ってくるから。立てる?」
受け取ったバスタオルをすかさず巻いて急いで着替えて出たものの。
お互い気まずい空気が流れてる‥。
「ごはん!ごはん作りますよ!」
何か話題をと絞り出して伝えると台所からふわりと香るいい匂い
カウンターの上に丼が2つ。卵うどんだ。
「ありあわせだけど‥。」
「嬉しいです‥!憂太さんが作ったの初めてですね!」
シンプルだけど鰹だしがほんのりきいてて、ふわふわの卵とネギがのっている。最高。
「お口にあうかどうか‥」
ドギマギしている憂太さんをなんとなく見れなくて、そそくさと夕飯の準備をしようとすると、ふと手を握られた。
「憂太さ‥」
「僕が家においでって言ったの、迷惑だったかな」
ポスっと首元に顔を当てられる。
「そんなことないです!緊張してしまって‥すみません。いつも通りできなくて」
「僕も一緒だよ、すごく緊張してる。」
ほら、と胸に手を当てられると鼓動が早い。憂太さんでも緊張するんだ。
「なんだか意外です、憂太さんなんでもそつなくこなすから‥緊張なんかしないかと」
「そんなことないよ。今も名前ちゃんが‥僕のトレーナーを着てて‥なんというか‥、可愛い。」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて私もパンク寸前だ
髪の毛まだ乾いてなかったな、とか。トレーナーが意外と大きくて。男の人を感じてしまったな、とか。
そんな余計なことがかき消されるくらい私もドキドキしている。
「本当はもっと君と色々と‥したいんだけど。いいかな?」
コツンと額と額がくっつく。
「私も、もっと近づきたかったです‥でも嫌われるんじゃないかって、言えなくて。」
「一緒だね。」
手と手が重なったり頬を触ったり撫でられたり。
「キス、しよっか」
そういって目を閉じたら優しいキスがふってきた。
ちゅっ、ちゅっと可愛らしいリップ音付きだ。
何度も何度もされて、ふはっと息をすればいつもの優しい顔立ちではなく、男の顔だ。
ギラギラとした表情に一瞬驚いたけど、それもいいだなんて。
今はただ甘ったるい時間を、彼に委ねるばかり。
End
補足
うどん伸びるやないかーい!