彼の猫は私には懐いてくれなかった。
2人でソファーに座りながらのんびりしてても彼の膝の上。
お菓子をあげようとしても私からは食べてくれなかった。
猫じゃらしなど、様々なことを試してみたが…
完全に無視されていた。
数週間ぶりにお互いの休日が重なったので、クリスの家に招待されていた。
クリスの家に行く時は、大体いつもクリスの飼い猫との攻防戦が始まる。


「名前、そろそろ諦めたら?」

「うーん…せめて撫でたい…」

「引っ掻かれるよ」


撫でることも許してもらえず、近づく事も許されないらしい。
クリスの膝の上でクリスに撫でられながら喉を鳴らしている。ふわふわの毛並みからは愛情の深さを感じる。
一応写真は許されているので、クリスの膝の上で気持ちよさそうにしているところをスマホで撮影しておいた。


「なんか、少し妬けるね。」

「え?なんで?クリスにしか懐いてないじゃんこの子」

「違うよ…」


はぁ、と溜息をつかれてしまった。
機嫌を損ねてしまったようで、クリスが少し頬を膨らませている。
とりあえずクリスの隣に腰掛ける。


「なんでクリスが拗ねるの?」

「拗ねてないよ。」


ふふっと笑いながら聞いたら眉間にしわを寄せ目を細めて私を見ている。
本当は分かっているけど気付かないフリをした。
私が家に遊びに来ては飼い猫にばかり意識を向けているからだというのも分かっていた。
けれどクリスがこんなに可愛い嫉妬をしてくれるとは思わなかったので、思わず頬が緩む。


「私こそ妬けちゃうな。クリスも猫ちゃんもラブラブだし。」


そう言ってクリスの肩に凭れ掛かる。
鍛え抜かれた身体に支えられる。
スイスも中々寒い土地ではあるが、今日は陽の光が良く入る。
クリスの濃い色のニットに光が吸収されていて、とても暖かい。


「私が入れる隙間なんてないじゃない。」

「そんな事思ってたの?」

「優しく撫でてもらえていいな、とか抱きしめてもらえていいなって思ってた。」

「名前にもしてるでしょ」

「クリスの愛を独り占めしたい時だってあるよ」


なんて、普段は面倒だと思われたくなくて言わないような事を言っていた。
言葉にしてみると、恥ずかしくなってきて頬に熱が篭るのが分かる。
なんてね。そう笑って誤魔化そうとして、顔を上げた瞬間、クリスの長い睫毛が視界に入った。
頬に優しく手を添えられて、柔らかな唇が触れた。
優しく啄む様に何度か触れて、最後は離れるのを惜しむ様に軽く吸い上げリップ音を鳴らした。

クリスが突然動いたので、猫ちゃんがニャアと一鳴き不満を漏らして部屋の隅へ行ってしまった。

私は突然の事に、されるがままだった。
目を閉じる事も忘れ、唖然としていた。
唇が離れ、少ししてからやっと理解して、思わず唇を抑えてクリスから顔を逸らしてしまった。


「傷付くな、そんな風な態度取られたら。」

「あ、いや…その…急だったし、久しぶりだったから…」


顔が熱い。心臓が早い。
顔を見るのも恥ずかしいと思い、手で顔お抑えて俯いていると、クリスは下に落ちる私の髪を耳にかけ、抱きしめながら耳元に顔を近づけてきた。


「俺のキス、忘れてた?」

「いや…そういう訳ではなく…」


甘い低音が脳に響く。背中を撫でる大きく優しい手。首筋から香る爽やかで少し甘い香水。
暖かい体温に包まれていると、益々顔を上げられなくなった。


「俺の愛を独り占めしたいんでしょ?」

「えっと…はい…」

「じゃあ顔上げて。」

「今は無理…」

「そう、じゃあ俺が勝手に名前に愛を注ごうか」


そう言ってリップ音が聞こえる様に首筋にキスをして、そのまま鎖骨にに向かって唇を押し当てていく。背中を撫でていた手は服の中へ侵入し、背中を直接撫でる。


「ちょっ!待って…!」


彼の胸の中でもがいた。抵抗虚しく止まることはない。
胸を押せど、手足を動かそうとしても、鍛え抜かれたその身体に勝てることがないのはわかっていた。
彼と触れ合っている箇所が全て熱い。


「名前が悪い。普段はあんな事言わないくせに、急に独占欲出して。」


手を服の中から出し、私の両頬を包み込み無理矢理顔を上げられる。
コツンとおでこを合わせられ、恥ずかしさで直視できなかったクリスの顔が近い。
完全に顔を背けられない様にされる。


「こんな可愛い顔して。許してあげられないな。」


そしてまた彼から熱い唇が落ちてきた。
遠くで悔しそうにニャアと鳴く声がした。



2017.1.25