ヴィクトル・ニキフォロフはお金の使い方が一般人と異なった。
まぁ、この国でスケートという競技で名を上げる事は使っても余る程の賞与が貰えるという事だ。
更に見た目がいいからCM出演、雑誌グラビア、モデルなどなど…そちら方面の収入もあった。

金銭感覚の差を感じたのは付き合い始めて一ヶ月ほど経った頃だったか。
私は仕事が、彼はスケートの練習が忙しく休みの前日に家に遊びに行く位しか時間が取れなかった。
久しぶりに休みの予定が合い、デートをしようとお互いに楽しみにしていた。
その前日、少しでも長く一緒にいようとヴィクトルの家に行った時だった。


「ヴィクトル…この箱達は??」

「ん?それかい?それはね、俺から名前にプレゼント!」


それはそれは嬉しそうに私を後ろから抱きしめて彼は言った。
私は困惑してしまった。
大小様々な大きさの箱や袋がリビングのローテーブルの上に少なくとも10個はあるのだ。
しかも全て見た事のあるブランドの包み紙や袋だった。


「あ、あのヴィクトル…私こんなに受け取れないよ…」

「何故?」

「何故って…」


目を丸くして、私を見ている。あまりに澄んだブルーの瞳に、言葉が出なくなる。
純粋にプレゼントしてくれたのに受け取れないは確かに失礼だったろう。
しかし、金額が私の許容範囲を超えていた。
これだけ買うのに私の給料何ヶ月分位だろうか…
何でもない日にこんなに沢山、しかも高額な品を貰うのは気が引けた。


「名前は可笑しな事を言うね、俺がプレゼントしたくてしてるのに。」

「こんなに沢山貰うのは気が引けるよ…」

「遠慮なんてしなくていいのに。どれも名前に似合いそうだなって思って買ったんだ。明日のデートに着てほしくてね。」


この人は今までの女性にもこうだったのか…
沢山のプレゼントに甘い言葉。
凄く嬉しいはずが怖くなってしまった。
私は彼に何を返せるのだろうか。


「ほら、早く開けてみて!着た姿を見せてよ!」

「うん…ありがとう。」


物凄く下手くそな笑顔を彼に向けてしまった。
言われるがままに箱を開けていく。
ワンピース、ハイヒール、コート、アクセサリー類、カバン、化粧品
全て洗練された、美しい物だった。
私に似合うのだろうか…手に取りながら更に困惑してしまった。


「どう?気に入ってくれた??」

「凄い、どれも素敵ね…」

「…名前?」


私が戸惑っているのが分かったのか、ヴィクトルは少し悲しそうに眉を下げた。


「あの…本当に嬉しいの!こんなに沢山の素敵なもの貰ったことないから!でもね…私こんなに貰えるほどヴィクトルに何もしてない。ヴィクトルに何も返してあげられない。」

「返さなくていいんだよ。俺が名前に喜んで貰いたくて買ったんだ。それに、何もしてないなんて言わないで。俺の事沢山愛してくれてるでしょ?」


ヴィクトルはそう言って微笑んでくれた。その笑顔に安心してしまう。
彼はただ買おうと思ったものが高いもので、それを買えてしまう財力を持っていただけだ、と思うようにした。


「本当にありがとう、ヴィクトル。でも今度からはこんなに沢山じゃなくていいからね。」

「名前は迷惑だった?」

「違うよ。私はヴィクトルと一緒に居られるだけで幸せだから。」


2人で幸せに浸りながら、ヴィクトルからのプレゼントを眺める。
ヴィクトルが早く身につけてほしいと言うので、早速ヴィクトルの寝室を借りてワンピースに袖を通してみた。
可愛いリトルブラックドレスかと思いきや、背中が大胆に開いていた。
唖然としていると、早く見せてとヴィクトルが寝室に入ってきた。


「やっぱり。凄い似合うよ。俺のイメージした通りだ。」

「凄く大胆なワンピースね…」

「名前の美しさが一番際立つドレスだね。」


開いた部分から覗く素肌をヴィクトルの指がすっと撫で下ろす。突然のことに肩が跳ねた。
後ろに立つヴィクトルの手が今度は肩に触れる。
戸惑って、振り返ろうとすると今度は背中に柔らかな唇が当たる。
肩を抑えられていて動けないでいると、彼の唇は背骨を通って下に下がっていった。


「ヴィ…ヴィクトル…??」

「ふふ、やっぱり名前は背中が綺麗だね」


そのまま後ろから抱きしめられる。
ヴィクトルは首元に顔を埋め、大きく呼吸をする。その熱い吐息がかかる。


「そうかな…ドレスが素敵だからそう見えるのかも」

「名前はまだわかってないね、俺がどれだけ君を好きか。」


腕の力を強められ、より彼の体温を近く感じる。
その腕に抱かれながら私はとんでもない人と共にいるのではないかという気持ちになった。



「こんな物は君を引き立てる添え物でしかないんだよ。」


私を飾り立てるのではなく、引き立てるために物を買う。彼からのプレゼントは今も惜しみなく続き、私を作っていった。
彼の物と言われているような気持ちにさせる。
何にも縛られていないのに、そのプレゼントは私を縛る鎖だった。



2017.1.30