気がつけばスマートフォンで写真を撮っている。
自分と訪れた場所を上手く入れ込む。
そして加工とトリミングを経て無事にSNSに上がる。その時間僅か10分。
それが2人で出かけた際に少なくとも5回以上は行われる。
買い物に付き合って欲しいと誘われて、大型ショッピングモールに来た際の事だ。
モールの入り口のロゴと1回、お目当のショップの前で一回、買った物とショップの袋で1回、ランチのお店で1回、モールの中にあるよくわからないオブジェで1回…
途中から数えるのすら面倒になってしまった。
「それ楽しいの?」
「楽しいよ!みんながいいね押してくれたり、コメントくれたりするしね!」
またスマートフォンを弄り始める。
私が一般人だからか、彼は自分の写真のみ上げる。
勝生君と一緒の時は2人で撮るので、そこらへんは分別があるように感じる。
私はSNSは取り敢えず見るだけで終わってしまう。写真を上げることも殆ど無い。友人の幸せそうな写真にたまに”いいね”をつけるだけだった。
「名前もやればいいのに!」
「私は見てるだけで充分かな。」
「…え?アカウントあるの!?」
しまった。彼がSNSを凄く好きなので、アカウントがあると色々と言われそうだから、やってないと言っていたのだった。
写真は上げてないし、やっていないと同じだが、アカウントがあると言うときっとフォローすると言われるに違い無い。
「見てるだけだから、やってないのと一緒だけど…」
「なんだー言ってよ!フォローするね!アカウント名は?」
そう言ってあれよあれよと私とピチットはフォロワーになった。
普通に友人をやっているし、今更なんだか不思議な感じがした。
こんな事せずとも彼が何をしてるかなんて、会ってその時に写真を見せられるのに。
「名前ってばプロフィール写真も初期のままじゃない!」
「見てるだけだからいいかなって…」
「えー!撮ろうよ!僕がやってあげるからさ!」
ほら、やはり面倒な事になった。
何やら設定まで決めて、有名なカラフルなアイスを見た目がいいからと3段重ねになったものを買ってきて、ピンクの壁の前にあるベンチに座らされた。
「あの、ピチット…私こういうのは…」
「いいからいいから!はい、これ持って、脚組んで、あっちのほう向いてて!」
言われるがままにポーズをとらされた。
しかし表情が追いつかない。
次々に指示が飛んできて、その通りにこなす。
ここで反論しても、彼が折れない事はわかっているのだ。
彼の気が済むまで付き合う。
「うん!良い写真が撮れた!」
「それはよかった…」
溶けかけたアイスを食べながら、彼が写真を加工してる様子を眺める。
キレイに撮れるものだな、と感心してしまった。
加工は直ぐに終わり、私のスマートフォンに写真が送られてきた。
プロフィール写真の設定の仕方がわからず、唸っていると、彼が携帯を取り上げ、設定してくれた。
彼は満足そうにニコニコ笑っていた。
「これで名前ってわかりやすいね!」
「そうだね、ありがとう。」
勇利にも教えてあげなくちゃ!と彼はウキウキしていた。私はSNSは見るだけなのだが。
ぼんやりとSNSのタイムラインを眺めていると、ピチットの手がまた私のスマートフォンを奪った。
「折角だからこのまま写真あげようよ!」
「えーいいよ…」
「そんなこと言わないでさ!一緒に撮ろう!」
「え?でも…」
「僕のアカウントに名前の事はあげられないけど、名前のアカウントは友達だけでしょ?だったら大丈夫だよ!」
そう言いくるめられ、ピチットがカメラを画面側に設定し、腕を伸ばした。
ピチットの斜め後ろ位に控えめに顔を出した。
その構図を見て、ピチットがムッと顔をしかめる。何か違ったか、と私はピチットの方を見た。
するとスマートフォンを持っていない腕を回され肩を抱かれた。
突然のことに驚いていると、引き寄せられ、頬と頬が触れた。
ピチットはウィンクしてばっちり顔を作っていたが、私は間抜けな顔になってしまった。
「ふふ、名前ったら変な顔ー!」
「えっあの…」
「こんなのこっちだったら普通でしょ?何驚いてるの?」
確かにその通りなのだが、今までの距離感がそんなに近くなかったので、こんな事はしないだろうと思い込んでいた。
急な事だったので心臓が痛い。
頬は離れたが、まだ肩を抱かれたままだ。
「名前もう一回撮ろう!」
そう言ってまたスマートフォンを構える。
今度は頬が触れないように両手で頬を覆う。
少しぶりっ子っぽいポーズだがもう恥ずかしくなければ何でもよかった。
そして私のとった行動が不服だったのか、また彼はムッと顔をしかめた。
「名前、そろそろ気づいてよ。」
そう悲しげな声が聞こえたかと思うと、肩を更に引き寄せられ、スマートフォンを構えていた手も回り、正面から抱きしめられる。
私の肩に頭を預けて小さく溜息をつく。
先程より更に距離が近くなり、彼の体温や鼓動まで感じる。
そして彼はそのまま固まってしまったように動かなくなった。
「あ、あの…ピチット…?」
「…名前のバカ、可愛すぎ。」
そしてパッと顔を上げた。
距離の近さに思わず仰け反ると、彼はそれを許さないと言うように、腕に力を込めた。
額と額が触れ合い、息が当たる。
「もっと僕の事見て。」
唇のすぐ横に柔らかな感触が当たる。
唇に触れないギリギリのところだった。
何が起きたかわからず固まっていると、頭の後ろの方からシャッター音が聞こえた。
「え、なに??」
そして更に私の頭を抱き、自分の胸に押し当てる。
そしてまたシャッター音がする。
私の頭を抱きながら、私に見えないようにスマートフォンを弄り始めた。
「ちょっと!ピチット!」
彼が何をしようとしたか悟り、恥ずかしさも相まって、声を荒げながら彼の腕から逃れようとした。
しかし彼もアスリートで男だ。中々離してもらえず、暫くそのまま彼の胸に抱かれていた。
「ふふ、出来たよ。」
そう言って私のスマートフォンの画面を見せられた。
SNSに私の後頭部とピチットの顔、あたかもキスしてるような角度の写真と、私を胸に抱きながら笑顔のピチットの写真があがっていた。
「あ、これ消さないでね!」
「何言ってるの!こんなの見られたら大変な事になるでしょ!」
「あ、もし消えてたら僕のスマホにデータ送ってあるから僕のアカウントから上げ直すね」
そう言って彼はニコニコと私の顔を覗き込む。
私はSNSのアカウントのプライバシー設定を変えようと四苦八苦していた。
その間に何度も何度も通知が来る。
SNSを通して、メールで、この写真を見たであろう友人達からのメッセージ。
「ずっと好きだったのに気づいてくれないから、強行手段。これで付き合っていないのも不自然だよね?」
そう言って彼は私の手を取り、ね?っと言いながら笑顔で首を傾げる。
YES以外の返答がなかった。
それから彼は時折、私の手など顔が見えないような写真をSNSに上げ始め、また私を困らせるのだった。
2017.2.1