これはどういう事か。理解しようと努力したが、全く理解できなかった。
そして自分のキャパシティを大幅に超えてくる事態に、一周回って冷静になった。
下着のみ身につけた状態の自分と、バスローブ姿の自分の想い人とが何処かで寝所を共にしている。
派手で少し悪趣味ともとれる内装の部屋。大きなベッド。バスローブ。ガラス張りの天井。
自分は初めて見たが、恐らくラブホテルだろうとドラマ等で見た情報で出した答えだった。
昨日の記憶を必死にたどった。
昨夜はコーチのヴィクトルに偶には外で呑もう!と誘われて、練習後に飲み屋さんに行く約束をしていた。
偶々アイスキャッスルで働く幼馴染にもヴィクトルは声をかけていた。
それは彼が自分の弟子の想い人という事を知って気を利かせていたのだろう。
最初は少ししか飲まない予定が、気付けばヴィクトルに散々酒を注がれて、また焼酎から日本酒からウォッカやら様々な酒が運ばれてきて、口に注がれてる内に気付いたら記憶もなく、ここにいる。
まず何より自分は下着のみ。彼女はバスローブ。
これはまさか致してしまったのか…と血の気がどんどん引いていく。
想い人とはいえ、付き合っていない女性を抱くなんて。
どんなに思い出そうとしても、覚えているのはヴィクトルに口を抑えられてウォッカを直接口に注がれてるあたりまでだ。
第一、そのヴィクトルもいない。
心地良さそうな眠りについている彼女を見ていたら、やってしまったのか、まさか、など嫌な方へ嫌な方へと考えが向かう。
心臓が痛い。冷や汗も出てきて、頭を抱えてその場から動けずにいた。
「んっ…」
彼女の声に驚き、心の準備もできないままそちらの方を見る。
少し気怠げに体を起こして、頭を手で支えている。彼女も相当飲んだ事が予想される。
こんな下着だけの姿を見せるのも悪いと思い、掛け布団を引き寄せて隠した。
「お、おはよう…」
「ん…おはよう勇利くん」
「あの…昨日僕は一体…?」
「え?覚えてないの??」
彼女は驚いたようにこちらを見た。
その言葉に更に心臓が早くなる。
やはり…そういう事なのか…
「勇利くん、あんなになるなんて思ってなくて…びっくりしたけど、凄かった…」
彼女が少し俯きがちにそう言うので、完全に思考が停止した。
なんて事を…
まずは謝らないといけない。
一夜の過ちでも、致してしまった事に変わりはない。
「ご、ごめんなさい!!」
「えっ??」
兎に角誠意を伝えたくて土下座した。
彼女は驚きながら、顔を上げてくれと言っていた。
「あの、酔っていたとは言え、名前ちゃんに手を出すなんて…本当に最低だと思う!許してくれなくていいから何か償いをさせて!!」
「勇利くん何言ってるの??」
「え?」
「勇利くんたら、酔ってこの寒いのに服脱いでヴィクトルとダンスし始めるから止めるの大変だったし、止まったら寝始めちゃってゆ〜とぴあまで運べなくて、アスリートを放って置くわけにもいかないから、とりあえず此処に運んだの…」
「ヴィクトルは…?」
「此処まで一緒に運んだ後に、飲み足りないってもう一軒飲みに行ったよ。」
「え?という事は、僕は名前ちゃんに手は出してない??」
「私も疲れちゃったから横で寝てただけだよ。」
彼女が苦笑いしている。
これは良かったと言っていいのか、色々と問題は起こしているが、彼女の体が無事だったので良しとしよう。
途端に力が抜けた。
「良かった…名前ちゃんに手を出して嫌われたんじゃないかと思った…」
「勇利くんはそんな事しないって信じてるから大丈夫だよ。」
「でもごめんね、迷惑かけちゃって…」
「楽しかったから大丈夫!」
彼女の笑顔に心が和む。
優しくて、暖かい。そんな彼女がいつの間にか好きになっていた。
不甲斐ない自分はアプローチ出来ずに、ヴィクトルの力を借りないとご飯にすら誘えないのに。
こんな2人だけの状況になるなんて思ってもみなかった。
「でも…勇利くんあの告白も忘れちゃったのかぁ…」
「えっ??」
「名前ちゃんの事が好きだ!!世界で一番好きだ!!ずっとそばにいて欲しい!!って居酒屋さんで言ってくれたのに…」
「えっはっ???え??!そんな事言ってたの!?!?」
「凄く嬉しくて、私は舞い上がってたのになぁ…」
そう言って僕を見つめてくる。
いつの間にそんな事を…そして覚えていない。
まさか自分がそんな告白をしていたなんて…
しかもお酒の力を借りないと言えないなんて。
もう、自分の気持ちを知られてしまった。
それなのに、それを無かった事にしないでくれた彼女も自分の事を思ってくれているのでは、と自惚れてしまう。
「名前ちゃん…そんな事言われたら勘違いしちゃうよ?」
「勘違いじゃないよ。」
「っ!あの…あのね…もう一度ちゃんと言わせて。」
「うん」
「僕は名前ちゃんの事が…その…」
彼女が僕の近くまで寄ってきて、手を握ってくれた。
安心させようとしたのだろう。
ただ今は逆効果で、より心拍数が上がり、顔に熱が集まる。
心臓が脈打つ音が聞こえるようだった。
しっかりしろ!と自分に言い聞かせて、彼女の手を握り返す。
「名前ちゃんの事が好きなんだ!」
「うん、私も勇利くんが好き」
そのまま力が抜ける。
こんな下着だけの間抜けな格好で、彼女に告白す事になるなんて。
予想に反していたが、もう何でも良かった。
とりあえず服を着て、2人でホテルを出た。
まだ夢を見ているようだったが、彼女から繋がれた手の温もりが指先から伝わって現実なんだと教えてくれた。
汐風が冷たかったが、今の自分には冷静になれて丁度良かった。
2017.2.7