(組織解体後位の話です。)
私の彼氏は割と独占欲が高く、プライドも割と高く、負けず嫌いだと思う。
それが故に、努力家。
なので若くして国を背負う一人として皆に認められているのだろう。
何故付き合っているのか未だによく分からないし、警察官という以外の仕事を知らない。
そんな彼は任務などで会えたり会えなかったりする。
長いもので1ヶ月間以上電話連絡すら取れない時もある。
会える時は勿論会うし、お互いに予定があってすれ違う時もある。
私も仕事をしているし、友達と遊んだりもするし、自分の事をやっているので会えなくても何とかなっているのだろう。
「名前ちゃん!そんな男辞めておきなさい!」
「えっ良い人だよ?」
「名前ちゃんの事そんな放置するなんて許せない!」
この人は母の妹の有希子さん。
日本を代表する大女優なのだが、とても気さくに話してくれる。
歳がそんなに離れていないのと、彼女の美しさもあり、叔母という関係だが、姉さんと呼んでいる。
普段はロスにいるのだが、たまに帰って来ては一緒に買い物に行ったり、お茶したりする。
「まぁ仕事だし…それに私も一人の時間欲しいから助かるし…」
「まだ結婚もしてないのに何言ってるの!」
有希子姉さんは零君に対して怒っていた。
見た目や中身の事ではなく、私の事を放置する所が許せないらしい。
まぁ確かに、周りの友人にも同じ事を言われた。
「あ!そうだ!名前ちゃんに良い人紹介してあげる!」
「へっ!?」
「その人、スタイルもいいし、イケメンだし、クールで頭も切れて、収入もいいし、何より女の子には優しいのよ!」
あ、でもヘビースモーカーだから名前ちゃんが大丈夫なら!と付け足して、有希子姉さんはニッコリ笑った。
そんな人居るのかと驚いた。
しかし、そんな有希子姉さんが素敵という人と私が付き合える気がしない。
零君と付き合えた事すら何故だか分からないのに。
「今うちに来てるのよ!会っときましょ!」
「いや、いいよ!」
「こういう出会いは大事になさい!晩御飯もうちで食べて行って!」
カフェを出てそのまま手を掴まれて連行された。
久しぶりの工藤邸だ。
相変わらず大きくて、広くて、素敵なお家だ。
マカデミーで賞取るような推理作家の家なのだから当然といえば当然なのだが…
有希子姉さんに引っ張られるまま家に上がり、リビングのソファーに座らされる。
ちょっと待ってて!と有希子姉さんはウィンクを飛ばして荷物を持って行ってしまった。
家は静かで、優作さん(叔父さんと呼べないので)と新一君は居ないようだ。
新一君も久しく会ってない。最近は新聞に載ったりも減ったし、有希子姉さんからの元気よ、と言う情報しかない。
天井を眺めながら、ここで新一君と彼の幼馴染の蘭ちゃんの面倒よく見てたな、と思い出した。
「お待たせ!」
有希子姉さんの弾むような声。ドキドキしながら振り返ると、そこには確かに美しい人が立って居た。
全身黒い服に身を包んで、すっとした目、日本人離れしたその顔とスタイルに呆然としてしまった。
「赤井秀一さんよ!」
「初めまして。」
「…初めまして!名字名前です。」
凄いよ、有希子姉さん…どこから連れて来たのこんな人。モデル?
一人頭の中でぐるぐると考えてしまい、言葉は一切出てこなかった。
夕ご飯を手伝っている間は、赤井さんはソファに座って本を読んでいた。
その間、有希子姉さんによる赤井さんのプレゼンが始まった。
私に勧められてもな、と思いながら有希子姉さんの惚れ込み様に苦笑いしか出なかった。
その間に新一君が帰って来て、新一君も一緒に食事をした。
「はぁ!?赤井さんとくっ付けようとしてる!?」
「そうなの!名前ちゃんの彼氏聞くところによると顔やスタイル、性格もいいけど仕事が忙しすぎて名前ちゃんの事平気で放置するっていうから!」
「零君、忙しいから…」
「何やってんだよ母さん!名前姉ちゃんにだって赤井さんにだって都合があるだろうが!」
「だってぇー!」
「まぁまぁ新一君!」
新一君の言葉はごもっともだった。
赤井さんだって、この見た目なら選びたい放題であろう。
年齢も大人の男として何も文句はない。
そんな話も先程から軽く鼻で笑いながら聞き流している。
「赤井さんみたいな人と私なんて無理だよ!赤井さんにはもっと素敵な人がいるよ!」
「それは君が決めることではないな」
「え?」
そう言われ、テーブルの向かい側の彼を見た。
ハーフなのだろうか、色素の薄い作り物の様な目に射抜かれる。
新一君も有希子姉さんも驚いた様で静かになった。
「随分自分を下に見ている様だが、そんな風に自分を下卑するものじゃない。君は十分に自信を持って良い。」
「…は、はい」
「君の彼氏はまぁ、見る目があるな。これだけ料理も作れて、性格も明るく謙虚で、見た目も十分だ。まぁ人のものを取る趣味はないが。」
「…ありがとうござい、ます」
こんな素敵な人に褒められる日が来るなんて。
自分でも驚いてしまって言葉が出なかった。
そして、普段褒められる事なんて少ないので嬉しさと恥ずかしさがこみ上げて来た。
頬が熱い。どんな顔をして良いかわからず思わず俯く。
「ふむ…惜しいな。君に彼氏がいなければこのまま連れ去るな。」
「もう、冗談でも嬉しいです。」
「おや、本気だが?」
どう反応して良いのかわからず、ただ彼を見つめることしか出来なかった。
有希子姉さんはキャア!と声を上げて、喜んでいたし、新一君も顔を赤くしながら赤井さんの事を見ていた。
大人の男の余裕というやつか、零君にもこんな事を言われたことはない。
きっと酷い顔をしているに違いない。
そんな私を見て、目を細めて短く笑った赤井さんの事を見ているのが辛くなってしまって思わず顔を伏せた。
あまりに恥ずかしく、必死にご飯を食べ終え、赤井さんが食べ終わっていた分もお皿を持ちそのままキッチンに避難した。
皿を洗うことで冷静になろうとしたが、中々戻れなかった。
零君、言い訳させて。
これは断じて浮気でもないし、気持ちが移ったわけじゃない。
こんなこと言われて、あんな顔で微笑まれて平気な人がいるなら教えて欲しい。
お皿を洗っている間も、新一君に何やってんだよ!と怒られている声が聞こえた。
お皿も洗い終えて、ようやっと落ち着いてきたので、早々に帰ることにした。
「有希子姉さん、私そろそろ帰るね。」
「えー!」
「じゃあ俺が駅まで送ってくよ。ついでにコンビニ行きたいし。」
「新一君ありがとう」
帰る用意をして、玄関に向かう。
有希子姉さんと赤井さんもお見送りに来てくれた。
少しの時間だが、夢を見させてもらったので心の中で感謝した。
新一君が、先にドアを上げて待ってくれている。
私は二人に振り返り挨拶をする。
「有希子姉さん、今日はありがとうね。赤井さんも今日はありがとうございました。」
「ふむ…これ以上は彼に怒られてしまうかな…」
「えっ?」
「まぁ、挨拶位は許してもらえるか。」
すると、赤井さんに腕を引かれバランスを崩した。
彼は私を抱き止め、頬に軽くキスをした。
一瞬何が起こったか分からず、そのまま彼を見た。
すると門の方から大きな音がした。
頭での理解が追いつかずにいたので驚いて振り返ると、そこにはスーツ姿の零君がいた。
ガシャン!と門を無理やり開けて、凄い形相でこちらに向かってきている。
「赤井!!!貴様ぁ!!!!」
新一君がヤバいと思ったのか、急いで零君を抑えに向かう。
赤井さんは目を細めて、やぁ、と短く挨拶した。
「れ、零君なんでここに!?」
「恐らくこの腕時計にGPSか盗聴器でも仕込んでいるのだろう?こんな物を仕掛けられて、零君なんて名前は君くらいだろう。そろそろ来る頃かと思っていたよ。」
そう言って私の腕を掴み、零君からプレゼントされた時計を見ていた。
今にも赤井さんに殴り掛かろうとしている零君を新一君が必死に抑えている。
「名前!お前はなんでここにいる!」
「落ち着いて下さい降谷さん!」
「彼女と彼は従兄弟同士らしいぞ。親戚の家に遊びに来ただけじゃないか。」
「名前から離れろ!!」
こんな零君は初めて見た。
今にも赤井さんを殺しかねないような目をしている。
この2人は知り合いだったのか、にしても明らかに様子はおかしい。
彼の近くにいるのは危険だと判断して、彼から離れて新一君の方へ向かう。
「彼氏に放置されて寂しくなったらいつでも来るといい」
「えっ…」
「赤井!!名前に何をしてた!!」
「挨拶しただけさ、アメリカ流でね。」
そう言って赤井さんはドアを閉めてしまった。
零君は相当怒っていて、こんなに怒っている零君を初めて見たものだから、私もどうしていいか分からず呆然としてしまった。
赤井さんが消えた瞬間に、零君は大きく舌打ちをして地面を蹴った。
少し落ち着いたと判断したのか、新一君は零君を離して、抑えるのに体力を使ったのか、肩で息をしていた。
「名前、帰るぞ。」
「は、はい…」
こちらから零君の顔は見えない。
しかし、確実に怒っていると分かる程、彼の声は低く荒かった。
新一君の方を見ると、明らかに心配している目でこちらを見ていた。
ごめんね、と両手を合わせて伝えた。
これは、きっとかなりのお叱りを受ける事になるだろう。
そんな事を思いながら、前を歩いていく彼の後を追った。
背中からゆっくりと汗が流れるのを感じた。
2018.5.29