部屋を整理していたら、昔の写真が出てきた。
それは彼が髪を切る前、15歳くらいの写真だ。
恐らく彼がサンクトに旅立つ前、思い出に写真を撮っておこうと両親が言い出した時のものだ。
まだお互いに幼さが残り、少し気まずい顔をしたヴィクトルと私。
年齢的にも今更幼馴染と写真を撮るなんて恥ずかしいなと思って撮った写真だったのを思い出す。
この時彼は髪を伸ばしていた。鎖骨くらいの長さで、顔も整っているので女の子の様に見える。
何故伸ばしていたのかはわからないが、私はあのキラキラと輝く髪が好きだった。
再開した時はまだ長かったのだが、その後突然髪を切ってきた。
あの時は本当に驚いた。そして、髪が短くなると、また違った印象を受けた。
今までは中性的な印象が強かったが、男性的になったなと感じた。
少し残念だったが、今の髪型もよく似合っている。
「名前ー?」
「どうしたのヴィーチャ?」
「いや、静かだったから何かあったのかと思って。」
「懐かしい写真見つけて眺めてたの。」
彼は部屋へ入り、私の見ていた写真を後ろから覗き込んだ。
そして、ふふっと笑った。
「ずいぶん懐かしい写真だね。」
「お互い酷い顔してる。」
「俺はこの時名前と離れるのが嫌で拗ねてたんだよ。」
付き合い始めてから、彼はとても素直に感情を言ってくるようになった。
それがまた恥ずかしいのだが…
私はこの時気まずかったし恥ずかしかったとは言えなかった。
「髪が長いのも好きだったな。キラキラしてて綺麗だった。どうして切っちゃったの?」
「は?」
「え??」
「名前…忘れたの?」
まずい。彼の目が少し鋭くなる。
しかし自分には一切の身に覚えがない。
彼が何か感じてそのようにしたのか…
じっと私を見てくるその目に耐えられなくなり視線をそらす。
そして少し身を引いたが、彼は逃さないとでも言うように私の肩を掴み引き寄せた。
「あの…ヴィーチャ…ごめん…」
「酷いなー名前…俺はこんなに名前のこと思ってたのに伝わってなかったもんな…」
「うっ…」
そう、私は彼の気持ちに気付かないふりをして、更に自分の気持ちに蓋をしてたのだ。
もしかしたら、過去の自分の些細な一言で髪を切ったのかもしれない…
「俺たちが10歳の時、名前が少し伸びた俺の髪を見て、すごく綺麗って言ってくれたから髪を伸ばしてたのに、それも忘れてるんだろうなー」
「え…」
忘れていた。そんな事言っていたのか。
綺麗だったし似合っていたから素直に口にした言葉だろう。それをそのまま受け止めて5年以上も続けるなんて。
「髪を切ったのだって、テレビに出てた俳優さんを見て、髪が短い男の人って爽やかで素敵だなって言ってたから…!」
「え!?まさかその言葉聞いてバッサリ切ったの?」
「名前に好きになってもらいたかったから…服だって大人っぽくしたし…」
私の言葉一つで外見を変えていたという事に驚いた。
そんな事気にせずに自分の好きなようにしているイメージがあった。
彼からの愛がそんな昔から続いていた事も私の言葉は覚えている事も知ってしまうと、とても愛おしく思えたし、愛されている事を実感して恥ずかしくなった。
途端に頬に熱が集まるのがわかった。
私が俯いたのを見て、不思議に思った彼に顔を覗き込まれたが、見られるのが恥ずかしくて手で隠した。
「名前…?」
「そんな風に思われてたって思ってなくて…」
手に頬の熱が伝わる。早く治れと念じても上手くいかない。
こんな事でドキドキする程私も彼が好きなのだ。
その時、顔を覆っていた手のうえに更に大きな手が触れる。
そのままグッと手ごと顔を上げられる。
驚いて目を見開くと、彼の顔が近くにあった。
手をそのまま膝のうえに下ろされ、ジッと顔を見られる。
見られているとわかるとより恥ずかしくなり、顔を背ける。
「名前…そんな可愛い顔して…」
「変な顔だから見ないでよ…」
「可愛い。こっち見て。」
そっと顔に手を添えられてまた顔を彼の方に向けられる。
嬉しそうに目を細める彼と目が合う。
彼はそのまま流れるように目を閉じ、唇を合わせた。
彼の綺麗なまつ毛を眺め、少し遅れて私も目を閉じた。
何度も何度も、唇を柔らかく当てては離し、時折唇をしっかりと押し付け啄む様に離す。
舌を絡めるキスより、唇の柔らかさを堪能する様なキスをお互いに好んでいた。
優しい、愛情を感じる温かなキス。
唇が離れるのが少し寂しく感じる。
「はぁ、ずるいよ名前は。」
「え、何が?」
キスに満足したのか私を正面から抱きしめながら彼が不満そうに言った。
更に腕の力を強めて私に体重を掛けてくる。
然程筋肉のない私は、後ろに倒れそうになるのを必死で手をついて堪えるしかなかった。
まるで大きな犬の様だなとすら思えた。
「言葉だけで俺のこと翻弄して…」
「そんなつもりはないよ…」
「しかもそんな可愛い顔して…堪えてる方の身にもなってよ。」
「…堪えてるの?」
「…本当はもっと色々したい…俺の愛をぶつけてやりたい…」
はぁ、と溜息を吐きながら私の髪を撫でる。
私としては十分だと感じていたが、彼からしたらまだ足りないらしい。
けれど、私のペースに合わせてくれている事に、また愛を感じる。
「いつもみたいに自分のペースで良いのに。慣れてるよ、合わせるのに。」
「付き合う前は好きになって貰いたくて色々言えたけど、いざ付き合うと今度は名前に愛想尽かされるのが怖くて出来ないんだ。」
「馬鹿だなぁヴィーチャ。」
「その通り。名前の前だと、名前の言葉や行動に一喜一憂するダメな男なんだよ。」
「そうじゃないよ。愛想尽かす事なんてないから、いつものヴィーチャでいて。」
彼の背に手を回すと少し肩が揺れた。
今度は私が彼には体を預ける。
彼は物ともせずに支えてくれていた。
暫く黙ったままなので、不思議に思い少し離れて顔を覗くと、顔を赤くして俯いた彼がいた。
先程と立場が逆転してしまった。
そんな彼を愛おしい、可愛いと思い、先程よりも強く彼を抱きしめて体を預けた。
「もう、我慢できそうにない…」
「え?ヴィーチャ何?」
顔を突然あげた彼が私の事を目を細めて見つめる。
顔はまだ赤みがさしたままだ。
そして、立ち上がったと思ったら、私を抱き上げた。
突然の浮遊感と、予想以上の高さに驚き、彼にしがみ付いたまま動けなくなってしまった。
「え!?ちょっと高いし怖い!!」
「名前が悪い…折角同じペースで居られる様に我慢してたのに!」
私を横抱きにしたまま歩き出した。
そして私の部屋を出たかと思うと、彼の部屋に向かっていた。
そして、彼のやたら大きなベッドに下ろされた。
「初めては此処でって決めてたから。もう我慢するのもやめる。」
彼の真剣な顔とその言葉で察し、心の準備など何一つしていなかった私は、制止の言葉を彼にかけようとした。
それは彼の唇に飲まれた。
先程言った言葉を後悔したのは彼の愛のぶつけられた後だった。
2017.3.1