※性的な描写があります。少しご注意ください。
この時期は仕事が忙しい。
それはみんなが夏のバケーションに向けて少しエンジンをかけるからだ。
あの書類はまだか、あの見積もりはどうだ、とある程度仕事を進めておかないと休み明けが辛いからである。
私も夏のバケーションの為に頑張ってはいるものの、中々終わりそうもなく、ここ最近は毎日のように残業をしている。
時刻は日付が変わる少し前。
彼は眠ってしまっただろうと、あまり音を立てないようにゆっくりと静かに部屋まで向かう。
私が忙しいのに引き換え、同棲している彼、ヴィクトル・二キフォロフはシーズンオフなので、練習には行くものの、穏やかに過ごしているようだった。
部屋に荷物を置くと、既に私のベットで眠っている彼がいた。
自分のベッドはダブルベットで大きいのに、何故かいつも私のベットに眠りに来るのだ。
起こさないように、着替えを持ってシャワーを浴びに行く。
明日も早いので、早く眠るためにテキパキと眠る用意をしていく。
全て終えた後に、部屋へ戻り彼の隣で眠ろうとしたが、彼がベッドの真ん中で寝ているのでベッドに入ることが出来なかった。
起こすわけにもいかないし、自分も疲れている為、彼はここに寝かせて自分は彼の部屋で寝よう。
彼の部屋へ行くとマッカチンがベッドで眠っていた。ご主人様が居なくてもきちんと同じ場所で眠れるのは頭が良く、マイペースなマッカチンだからだろう。
マッカチンの隣は大きく空いていたので、そこに寝転がる。
ふわっと彼の爽やかな香水の香りが広がる。
自分で彼のベッドに入っておいてこんな事を思うのもどうかと思うが、この香りを嗅ぐと今だに緊張してしまう。
しかしそんな緊張も柔らかなマットレスに吸い取られてしまうように眠りに落ちた。
次の日、目が覚めるとマッカチンは居なくなっていた。
また今日も一日仕事だ。
リビングで朝食の支度などをしといたら機嫌の悪そうな彼が部屋から出てきてこちらを見ていた。
何に機嫌を悪くしているのかはもう分かっていた。私が自室で、彼の隣で眠っていなかったからだろう。
「おはようヴィーチャ…」
「名前…なんで昨日は俺の隣に寝てくれなかったの…」
「あー…ベットでヴィーチャが気持ちよさそうに寝てたから起こすのも申し訳ないなって…」
「隣に入ってきてくれるかと思ったのに…」
「私のベット狭くて…ヴィーチャ真ん中に寝てたから…」
気まずい空気が流れる中、彼の寝癖だけが元気に跳ねていた。
機嫌を直してもらおうと、頬にキスして朝食の席に着かせる。
少し落ち着いたのか、口を尖らせながらも食事を取り始めた。
その隙に着替えや化粧を済ませる。出社の時間が迫っていた。
彼の向かいに座り一緒に朝食をとろうとしたが、彼は殆ど食べ終えていた。
「ヴィーチャ…あの…今日も遅くなりそうだから先に寝ててね。」
「え…今日も??」
「バケーション前だから立て込んでて…」
「夜中に名前一人で歩かせるの嫌だって言ってるよね…」
「でも家だと集中出来ないし…」
「じゃあ迎えに行く。」
「今日はそんなに遅くならないから大丈夫だよ。ヴィーチャも練習あるんだからゆっくり休んでて。」
食器の片付けをして、彼の頬にまたキスを落とし家を出た。
納得いかない顔をしているのがドアを出る時に見えた。
彼は私が仕事を優先している事が気にくわないらしい。
仕事しなくても暮らせるよ?と彼に遠回しに仕事を辞めて欲しいと言われたが、彼に全ておんぶに抱っこは嫌だった。
そして今日も予定通り遅くなってしまった。
昨日よりは早く退社する事が出来たが、定時よりも2時間ほど遅くなってしまった。
明日は休みというのもあり、ゆっくり出来るので、食材なども軽く買い足して帰ることにした。
いつもより早く帰れる上に、明日は休みだ。
足取りも心なしか軽い。
家に帰ると彼もまだ起きていて、ソファに腰掛けてのんびりとしていた。
ただいま、と言って彼の頬にキスをして部屋へ荷物を置きにいく。
この出掛けの挨拶ももう慣れたものだった。
キッチンで買った食材を片付け、シャワーを浴びに行く。
髪を乾かし眠る準備が整う頃には彼はソファから居なくなっていた。
久しぶりに自分のベットでゆっくり眠れると思うと心もふわりと軽くなる。
部屋に入るとベットの上には彼が待ち構えていた。
少し怒っているのかいつもより目つきが鋭い。
これは一緒に寝る以外の選択肢は無いようだった。
セミダブルベットに二人は少し狭いといつも言っているが、私は彼のベットだと落ち着いて眠れないし、彼は私と眠りたいというので私の狭いベットで二人で眠る。
彼の横に寝そべると、彼の腕が逃がさないとでも言うように腰に巻き付き引き寄せられる。
彼の胸に顔を押し付けられ、彼の香りが押し寄せるように私の中に広がる。
昨日のベットの残り香に比べ、本人を前にすると強い香りにクラクラとする。
腕だけでなく脚も絡められ、いよいよ逃げ場がなくなってしまった。
未だにこの関係に慣れず、恥ずかしくなってしまう。
そんなことを思いつつも、一週間働き詰めで瞼が重くなっていく。
けれどそんなことはお構い無しとでも言うように彼からはキスの雨が降ってくる。
頬、鼻、顎、首筋。
寝かさない様にしているのか、それでも私は疲れには抗えなかった。
程よい彼の体温に安心感もあり、瞼を上げ続ける力が無くなるのを感じた。
「名前?」
「ごめ…ん…」
彼は恐らく久しぶりに愛し合いたいとそう思っていたのだろう。
しかし私の体力の限界で彼に体を預け意識を手放した。
ハッと目が覚めた。
空は明るくなっていて、カーテンから光が差し込んでいた。
昨日のことを思い返して、彼に申し訳ない気持ちを抱きながら、横で眠る彼を見た。
すると彼には珍しく既に起きているようで、こちらを笑顔で眺めていた。
「おはよう、名前」
「おはようヴィーチャ…」
「よく眠れたみたいでよかったよ、最近忙しそうだったしね。」
「うん…お陰様でよく眠れたよ…」
これは怒っている。
晴れやかな朝の空気に似つかわしくない重たい雰囲気だ。
彼の腕はまだ私を抱きしめたままだが、それも心なしか重い。
「あの…ヴィーチャ、昨日は寝ちゃってごめんね…」
「いいよ、疲れてたんだから」
優しい彼に物凄い罪悪感が芽生える。
逆にいつもの様に、なんで眠るんだ、ありえない、などと言ってくれた方がマシだった。
申し訳ない気持ちが大きく、彼を抱きしめ返す。
普段服を着ずに眠る彼の滑らかな肌が頬に触れる。
「埋め合わせするね」
「本当に?」
「うん」
そう言った途端、私の横にいたはずの彼が私の上にいた。
身動きが取れない様に私の肩の両サイドに肘を着き、下半身に体重を掛けるように上に乗られていた。
男性の体というのは細いのに何故こんなにも重いのか。唯一動かせる手を頼りに彼を退かそうと試みたが効果は殆ど無かった。
「ヴィーチャ?」
「埋め合わせしてくれるんでしょう?」
「え…今??」
彼は嬉しそうに微笑み、ゆっくりと私の唇に自分の唇を重ねた。
押し付ける様に擦り付ける様に角度を変えて唇を合わせる。
舌を絡めずにわざとこうして唇をすり合わせるキスをする時は、私を丸め込みたい時だ。
「んっ…練習は??」
「今日は休み」
思わず目を見開いてしまった。
これは恐らく計算のうちだろう。私が断れなくなる様に、眠ってしまったのをあえて起こさずに、こうなる様に仕向けたのだろう。
「ヴィーチャ…態とでしょう?」
「え?何が?」
私が断れなくなると、彼はするすると手を進めていく。
首筋に彼の柔らかな唇が当たり、徐々に下に下がっていく。
それと同時にパジャマの隙間から手が入り、指先で腹部を撫で上げ感触。
熱い吐息が首にかかると、背筋に何かが這い上がる様な騒めきを感じる。
朝の明るい空間で彼の雄の姿を見るのはとても目や身体に毒だった。
恥ずかしくなり、唯一動く手で顔を隠すが、彼の行為は止まるわけもなく、次から次へと私を攻め立てる。
「名前…顔見せて…」
「嫌だ…無理…」
先程から手で顔を隠し、声を出す事も堪えている私を見た彼は不満そうにしていた。
私の手を顔から離そうと優しく手を重ねてきた。
「何故?可愛い顔を見せて?」
「…恥ずかしい…」
抵抗していたが彼の力に勝てる訳もなく、唯一の防壁だった手はそっと彼に握られ身体の横に押さえ付けられてしまった。
銀の髪が乱れ、その隙間から宝石の様な瞳が怪しげな光を帯びているのが見える。
彼が欲を出している顔をこんなにしっかりと見たのは初めてだった。
頬が少し上気して赤くなる。
見ていられずに視線を逸らすと、彼はふっと息を漏らしながら私の唇を舐めた。
条件反射の様に体が熱を持つのは彼からの教育の賜物だろうか。
今までの関係をこの関係上書きされている様だった。
2017.5.21