***

はぁ〜〜〜、と目の前で大きいため息をついた彼女に視線をやる。目が合った彼女は急に呼び出してごめんね、と眉を下げて笑った。

私の友達でもある彼女は最近悩みがあるらしい。
彼氏である、切島鋭児郎くんがクラスの女の子と仲が良い、と。つまりヤキモチである。
彼女から聞いた限りでは、漢らしさを目指す切島くんは、漢らしくなれなかった過去と決別する為にも高校デビューを果たし、少数しか知らないその事実を中学の同級生で現クラスメイト、切島くんと仲が良い(らしい)芦戸三奈ちゃんは知っている、と。


「それで悩んでるの?」
「……うん。でもさぁ、三奈はすごく良い子でさ、鋭児郎くんと付き合うことになったときもすっごく喜んでくれたの」
「その子、ほんとに切島くんのこと友達としてしか見てないんだろうね」
「うん、そうなの。でもね、やっぱりこう、2人で話してるところを見るとモヤモヤすると言うか…」
「んん、まぁそうだよね。……うーん、でも私じゃ学校が違うから話聞く限りのことしかわからないし…あ、切島くんに近しい人に相談してみたら?」
「…近しい人…」
「うん。ほら、あの体育祭で優勝してた爆豪?って人とか。切島くんと仲良いんじゃなかったっけ」
「あー…爆豪くんか…」
「…ごめんね、力になれなくて」
「え!ううん!話聞いてくれただけですっごく楽になれたよ!ありがとう!」

そう言って彼女はまた眉を下げて笑った。困った様に笑うその顔にもどかしさが募り、こんなに可愛くて良い子が彼女なのに切島くんはなにをやってるんだ、とあまり面識のない友達の彼氏に少し腹を立ててみせる。早く彼女の悩みが晴れて、いつもの笑顔になればいいな。そう願って、少しぬるくなったココアを飲み干した。


*


その日の夜、寮の共有スペースへ向かった私はソファに座る背中を見つけて一直線に彼の元へ向かい、声をかけた。ラッキーなことに周りに人がいない。人がいるところで話しかけると彼は怒鳴り散らすので話をしづらいのだ。

「や、爆豪くん」
「…あぁ?なんだクソ髪の女かよ」
「…もう、その呼び方やめてってば」
「うるせぇ。どう呼ぼうが俺の自由だろうが」

彼、爆豪くんは私の彼氏でもある鋭児郎くんにクラスでは一番近しい人に当たるだろう。友達にもらったアドバイス通り、今度は爆豪くんに相談に乗ってもらおうと意気込んだ。

「あのね、ちょっと相談というか…悩み事があって」
「なんで俺がお前の相談受けなきゃなんねぇんだよ」
「まぁまぁ、話だけでも…」
「……チッ、さっさと話せやクソ髪女」
「いや呼び方………まぁいいや」

爆豪くんが話を聞いてくれるようなので、私は悩みを話していった。全部話し終わると、爆豪くんは大きなため息をついた。

「あー…めんどくせぇな、お前」
「めんどくさいって……ひどいなぁ」
「別に他の奴なんて関係ねぇだろ。お前が切島を好きならそのまま真っ直ぐあいつのとこ行けや」
「でもさぁ…」
「お前はあいつがお前と付き合ってるのに他の女のとこにいくと思っとんか」
「……それは思ってない、けど…」

そう、爆豪くんのいう通り、鋭児郎くんは私を見かけると笑顔で駆け寄って来てくれるし、私が話しかけると嬉しそうに話してくれる。自惚れでもなく、鋭児郎くんが私を好いてくれているという自覚はあった。

「わかってても、ヤキモチ妬いちゃうんだよ…」

そう呟いて項垂れた私の頭をガシガシと爆豪くんが乱暴に撫でて、ソファから立ち上がり寝る、とだけ言って去っていった。

相変わらず自由な彼を見送り、ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛でとかしながら、私も部屋へ戻ろうとした。するといきなり後ろから腕を掴まれてぐいぐいと引っ張られ、何事かと思ってそちらを見ると、いつもと違いセットされていない真っ赤な髪が視界に入った。

「えっ、鋭児郎くん!?」

慌てる私をよそに、鋭児郎くんは無言のままどんどん進んでいき自分の部屋に入った。
部屋に着くと私がスリッパを脱ぐ暇も与えてくれずに奥へ奥へと引っ張るから、途中でスリッパが雑に脱げてしまう。
どうしたんだろう、あまり怒らない鋭児郎くんからひしひしと怒りの感情を感じる。

部屋の奥に置いてあるベッドまできた鋭児郎くんは無言のまま、私をベッドに張り付けるように押し倒した。

「わっ、」
「……んで」
「え?」

何かを呟いて私を見下ろした鋭児郎くんの目はつらそうに、悲しそうに歪んでいた。私が何を言ったか聞こうと口を開く前に、鋭児郎くんの薄い唇が噛み付くように重なった。何度も何度も角度を変えて重なる私と鋭児郎くんのそれ。鋭児郎くんに抑えられた髪がぐしゃりと乱れるのがわかった。お互いの息も絶え絶えになってきた頃、ようやく鋭児郎くんが離れていった。

「ん、」
「……わりぃ…全然漢らしくねぇよな…こんなの」

いまにも泣き出してしまいそうな鋭児郎くんに離れていってほしくなくて、私は鋭児郎くんの首に腕を回し、ぎゅっとキツく抱きしめた。

「大丈夫だよ…鋭児郎くんがこういう風にキスするのって珍しいから、ちょっとびっくりはしちゃったけどね」

ふふっと笑って見せると、鋭児郎くんからもぎゅっと抱き締められる。鋭児郎くんが何かを伝えようとしてくれるのがわかって、私は言葉が出るのを待った。

「俺、さ」
「うん」
「ヤキモチ、妬いちまったんだと思う」
「え?」
「みほと爆豪が2人で話してるとこ見て、すげぇモヤモヤしてさ。そんで頭撫でてるとこ見ちまって、気付いたら部屋まで連れてきてた」

抱きしめていた腕をほどき、起き上がった鋭児郎くんがベッドに座る。私もそれに倣う様にして起き上がり、向かい合って座った。

「俺、自分自身に苛立っちまって…漢らしくねぇし、みほのこと信じてねぇとか、そういうことじゃなくて……」
「…私も」
「え?」
「私も、ヤキモチ妬いたよ」

ずっと言えなかったことなのに、すんなりと口から出てきた。鋭児郎くんは驚いた顔をしていて、そんな顔でさえ愛しいな、なんて少し場違いなことを考える。

「ヤキモチって…」
「うん、三奈に、ね」
「芦戸?」
「うん。三奈って、鋭児郎くんの過去のこととか知ってるじゃない?」
「あぁ、そうだな」
「それで、さ、何かこう、仲良く話してる2人の間に、何だか入れない気が、しちゃってさ……あ!べ、別に三奈と話すなとか言ってる訳じゃないの…っ、」

鋭児郎くんが私の頬を包んでさっきよりも優しいキスがひとつ、落とされた。離れていく鋭児郎くんの顔はすごく優しくて、愛しいものを見る目をしていた。

「なんか、さ。すげぇ嬉しい」
「…めんどくさいとか思わない?」
「んなこと思うわけねぇじゃん!それだけ俺のことが好きなんだーってわかってすげぇ嬉しいよ」

太陽のような笑顔を見せ優しく告げてくれる鋭児郎くんに、好きという気持ちとともに涙も溢れそうでぐっと堪える。

「鋭児郎くんも、ヤキモチ妬いちゃうぐらい、私のことすきだって思ってくれてる…?」
「……ヤキモチ妬く様な器の小さい情けねぇ自分自身にムカつくぐらい、みほのことが好きだ」
「うれしい…」

堪えきれなかった涙が堰を切ったようにぼろぼろと頬を伝って服に染みを作って行く。
そんな私をみて、鋭児郎くんはゆっくり自分の胸元に抱き寄せた。

「…あんま他の奴に触らせんなよ」

拗ねたような声で言った彼は、さっき爆豪くんがしたように髪をぐしゃりと撫で付ける。その行動が愛しくてぎゅっと抱きついた。

「私には、鋭児郎くんだけだよ。鋭児郎くんがだいすきなの」
「俺も、みほだけだから。何も心配することねぇけど、不安になったんなら教えて欲しい。その時はみほが安心するまで抱き締めて、みほが好きだって伝えっからさ!」

漢らしくて優しくて暖かくて、私には勿体無いぐらい素敵な人。愛すべき私のヒーロー。
鋭児郎くんの隣にいて、鋭児郎くんに愛されているこのきらきらした日々を大切にしようと思った。


−−−−−−−−−−−−−−−
ちまとみほぴ はっぴーばーすでー!