は
「私、蜜璃ちゃんみたいになりたかった」
縁側でお茶を啜りながら、ぽつりと零した切ない私の胸の内を隣の傷だらけの男は無視して刀の手入れをしている。こういうときってなんでか聞くもんじゃないの?という一般的な疑問はこの男の前では無意味だ。だってこの人一般的とは正反対の位置にいるんだもん。
「ね〜〜え〜〜実弥〜〜〜〜」
「静かにしねぇなら追い出すぞォ」
「や〜だ〜!ちょっとぐらい話に付き合ってよ!けち!」
「十分付き合ってんだろうがァ!」
見た目とは裏腹に、丁寧な刀の手入れが終わった実弥はどこかに行くわけでもなく、私が持参したちょっとお高いおはぎを1つ乱暴に取って、むしゃむしゃと食べ始めた。何だかんだ甘いこの男は、今日も私の愚痴に付き合ってくれるらしい。
「小芭内ってさぁ、蜜璃ちゃんとめちゃくちゃ文通してるの」
「はァ?んなことかよ。あいつらの仲は今に始まったことじゃねぇだろォ」
「私は!何回手紙送っても!返ってこないの!一通も!」
「嫌われてんじゃねぇのかァ?」
「縁起でもないこと言うのやめな」
あーもう!と縁側にごろんと転がった私に実弥が寝んじゃねぇぞォ、と頭をバシッと叩いてくるから暴力反対!と叫んで手の甲で目を覆った。
何度も何度も、すきと伝えた。
家族を鬼に殺された私が鬼狩りになるのは必然で、鬼狩りになった私の最初の任務のパートナーが小芭内だった。
最初はネチネチうるさくて嫌な奴だと思ってたけど、その中に小芭内なりの気遣いが隠れているのに気付いて、だんだんと小芭内に惹かれていくのも必然だった。
好きな人のことを目で追う内に、小芭内が蜜璃ちゃんを大切にしていることもわかった。
それでも私の気持ちを止める術は分からなくて、私は小芭内に気持ちをぶつけることしかできなかった。
すきと言っても彼の態度は良い意味でも悪い意味でも変わらない。いままでと同じで避けることもしなければ、私の気持ちに応えてくれるわけでもない。私がそばにいることを許すのに、蜜璃ちゃんを特別視する。
「疲れたなぁ」
「疲れるほどなんかしたのかァ?」
「ちょっとぐらい慰めてくれてもいいんだよ」
「うるせぇ、黙って茶ァ啜ってろォ」
「うわっ、」
実弥の傷だらけの手が私の髪をぐしゃぐしゃにしていく。せっかく綺麗に結えていたのに台無しだ。
「も〜〜ぐしゃぐしゃになったじゃん!」
「安心しろォ、んなに変わってねぇよ」
「もしも小芭内に会えた時の為に頑張ってたの!」
「俺がなんだって?」
「えっ」
声が聞こえてきた方にぐるんっと顔を向けると、玄関の方から小芭内が歩いてくるのが見えた。
「えっ、おっおば、小芭内!なんでいるの!?」
「不死川に書類を渡しにきたらお前が騒ぐ声が聞こえたんだ。で?俺がなんだって?」
「いや、それはえっと〜〜…」
チラチラ、と実弥に助けて!と視線を送る。実弥は大きなため息をついてから立ち上がって小芭内から書類を受け取った。
「こいつうるせぇからとっとと持って帰れェ」
「えっ、さ、実弥!私が持ってきたおはぎほとんど食べたくせに!」
「うるせぇさっさと帰れ」
「薄情だ!ひどい!私たちの友情はそんなものだったの!」
「友情もクソもあるかァ」
実弥に向かってギャーギャーと騒ぐ私の腕を誰かがぐっと掴んだ。ここにいて、実弥じゃなけりゃ、そりゃもう、
「お、小芭内」
「帰るぞ。邪魔したな不死川」
ぐいぐい引っ張られていく私を全く、それはもうちらりとも見ずに実弥はさっさと家の中へ引っ込んでしまった。本当に薄情だ!少しだけ優しいと思ったのに!くそ!今度会ったら覚えとけ!、なんて感情は掴まれた腕の痛みのおかげでどこかへ飛んでいった。
「ね、ねぇまって小芭内、痛い」
実弥の家を出てから少し歩いたところで小芭内が止まってこちらを向いて、腕を掴む力を少し弱めてくれた。
「お前は」
「うん?」
「…お前は、俺が好きなんじゃないのか」
「……んん!?」
「なぜ俺のことが好きなのに他の男の家に行く?なぜ2人きりになる?なぜ俺より不死川に構おうとするんだ」
「えっ、え、」
「お前が好きなのは俺だろう」
真っ直ぐと言われた言葉に、胸がぎゅっとなった。今まで幾度となく好意を伝えても、拒みもせず受け入れもせず何もしなかったのになんでいまそういうこと言うの?なんで?特別に思ってる女の子が他にいるのに。小芭内は私のこと好きじゃないのに。
「…そうだよ、すきだよ。すきだからこそ、小芭内の言動とか行動の意味がわかんなくなって、実弥に聞いてもらってたんだもん、好きって言っても何も言ってもらえないの、疲れちゃったんだよ」
せめてフってくれたら、潔く諦めれたかもしれないのに。いま、小芭内の目の前で惨めったらしく涙をこぼすこともなかったのに。
「私だって、蜜璃ちゃんみたいに、小芭内に特別だと思ってほしいんだよ」
ぐずっ、とみっともなく鼻を鳴らしながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。泣き顔を見られたくなくて下を向いたら、まだ掴まれたままの腕がぼやけた視界に入る。
最初は痛いぐらい強かった力も段々弱まって、私の腕から離れていく。そのことを少し寂しく思っていると離れていったはずの手が私の頬をぐいっと掴んで顔を上へ向けた。
「いひゃ、んっ、」
「こんなことは甘露寺にはしない」
「は、」
痛い!と抗議しようとした言葉は消えて、突然のことに頭が回らない。唇に残った包帯越しの柔らかい感触と小芭内の言葉をぼんやりと考えていると、くるりと向きを変えた小芭内が私から離れていく。
「俺はなまえを好いてるらしい。随分前からな」
私が小芭内の行動と言動を理解して走り出すまであと少し。