ドライヤー × 黒谷優





就業時間を大幅に過ぎ、やっと仕事を終えてへとへとになりながら家へ帰る。 マンションに着き、一人暮らしの自分の部屋を見上げると外から私の部屋の窓に明かりが灯っているのが見えた。 今日は来てるのかぁ、そうひとりごちて愛しい恋人の顔を思い出した。 「ただいまぁ〜…」 「遅かったな」 「サービス残業です…」 へとへとになった私を見て、リビングの2人がけソファに座っていた優くんは自分の隣をポンポンと叩いた。誘われるがままにそこに倒れこむように座ると優くんが頭を撫でてくれた。 「はぁ〜〜……つかれた…」 「明日も仕事なのか?」 「ううん、明日はお休みだよ」 そうか、と言って頭を撫で続けてくれる。それが気持ちよくてうとうととしていると優くんの手が離れていき、物足りなくて目線を優くんの方に向ける。 「お前このまま寝るだろ。先風呂入ってこい」 「はぁい…」 このまま寝てしまいたい気持ちと、お風呂に入ってさっぱりしたい気持ちでは後者が勝った為、ソファから立ち上がり着替えを手にお風呂へ向かった。 優くんが溜めていてくれたらしい湯船に浸かり、ホッと一息つくと疲れも取れていくようだった。さっと頭と体を洗って優くんの待つリビングへ戻り、さっきと同じようにソファに座る。 「おい、髪乾かせ。また風邪引くぞ」 「んー…」 「おい」 「んー…ねむい…」 お風呂でさっぱりしたら次は眠気が襲って来た。ソファに座りうとうととし始める私に、優くんはひとつため息をつきソファから立ち上がった。少しして戻ってきた優くんの手にはドライヤーが握られていた。 「…髪乾かすのめんどくさい……」 そう言って少しむくれてみると優くんはまたため息をついた。そんなにため息ついたら幸せ逃げちゃうよ、とボソッと言うと誰のせいだと言わんばかりに睨まれた。目は口ほどに物を言うって優の為の言葉だよね〜と言った依都さんを思い出した。その時優くんは依都さんのことを無言で殴ってたけど。 私がめんどくさい、とうだうだとしていると、優くんは持っていたドライヤーをコンセントにさしてソファに座り、無言で自分の足の間を指差した。 「えっ、優くんが乾かしてくれるの?」 「早くしろ」 「やったー!ありがと!」 先ほどの怠慢な動きはどこへやら。ソファからそそくさと降りて優くんの足の間に背を預けると優くんがドライヤーのスイッチを入れる。 さっきまで静かだった空間にゴオオ、とドライヤーの音が鳴り響く。優くんの手つきはすごく優しくて、丁寧に私の髪を乾かしていく。 目の前にある電源の入っていない真っ暗なテレビに私と優くんの姿が映り、優くんが思いのほか優しい顔をしていてなんだか一人で照れてしまう。 「優くん、好きだよ」 ドライヤーの音にかき消された声は優くんには届かなかったみたいで、どうした、と口が動いたのが見えた。なんでもない、という意味を込めて首を振った私に納得したのかしてないのか、優くんはそのまま髪を乾かし続けた。 人に髪を乾かしてもらっているとどうにも眠くなる。疲れが溜まっていたら余計だろう。後ろの優くんにもたれかかるようにうとうとしてしまう。 「おい、もたれかかるな。乾かしづらい」 「あい……」 「おい」 「……」 「…寝たのか?」 意識の遠くで、優くんのため息が聞こえる。返事をするのが億劫だった。 ドライヤーの音が消えて静かな空間になる。ふわりとした感覚がしてさっきより優くんの匂いが濃くなって抱き上げられたのがわかった。自分で歩かなきゃ、と思っていても瞼が重くてあげられない。 「ゆ、くん…す、き…」 ぽろり、と溢れた言葉に優くんが笑ったような気がした。「お疲れ。おやすみ」という優しい声が聞こえ、おでこに柔らかい感触がしたと同時に私の意識は夢の中へと消えていった。 朝起きたら意外と世話焼きで面倒見の良い彼にありがとうとだいすきを伝えよう。