02

目の前に居る、"私"。
"私"は人気ひとけのないカフェの中で、生クリームがたっぷり詰まれたフラペチーノを呑んでいる。

それにぼんやりとカロリーヤバそうだな、と思いつつ。
私も私で、砂糖とミルクを入れていないコーヒーを静かに啜った。
そして、一言。

……つまり、さっきのラップバトルが原因で、私と"貴方"の意識が入れ替わってしまった、と」
「──ま、それ以外説明つかないからね」

手に顎を乗せて、ふう、と溜息をつく姿が、自分の身体の筈なのになんだか妙に色っぽく感じるのはどうしてなのか。
というかさっきから、妙に身振り手振りがこう、色っぽく見えて仕方なくて。
もしかしたら見た目よりも中身の方が人間って重要なのかもしれない、としみじみと思いつつ、私は気が遠くなりそうな現実に再度コーヒーを啜るのだ。

──要約するとすれば、私が通り抜けようとしていたあの場所では、"彼"と彼に喧嘩を吹っかけたラッパー達によるラップバトルが開催されていたらしく。
普通ならそのまま勝てるべき勝負だったのに、喧嘩を売ってきた三人の内、ひとりが使用していた"違法マイク"のせいで、今私はこんなことになってしまってるらしい。

違法マイク。
それは、言葉の通り正規の手段で製造及び取引されていないマイクのことを指す。
私も詳しくは知らないが、そもそも正規品のヒプノシスマイクというのはかなり希少で、それを持っている人間とはつまり"政府公認"のラッパーなのだ。
言い換えれば、政府が認めた人間のみがその正規品のヒプノシスマイクを手に出来る、ともいえる。

それに対し違法マイクは、政府から公認されていない、非公認に製造されたマイクのことで。
正規の製造手段を経ていないから、その能力は正規品よりもかなり効力が劣るらしいのだが──時折、正規品よりも部分的な能力値が上回るマイクが極稀に誕生するらしい。
ただそれも、所謂"偶発的に発生した個体差"レベルで、それを大量生産する技術は確立されていないらしいけれど。

まあ、つまり。
私はその非公認の違法マイクの中の、偶発的に発生した極一部分の能力値が高いマイクの攻撃に"巻き添え"を喰らってしまったらしい。
"彼"の言い分としては、こうである。

「まあ、その攻撃内容、、、、としては、"女になっちゃえ!" 的な感じで、普通なら全然響かないものなんだけどね? だってライムもフロウも自体も全然なって、、、なかったし……。うん、まあ、なんだけど。それがその違法マイクが過剰反応しちゃって、こんなファンタジーなことになっちゃったんだよねえ。いやほんと、ボクも吃驚なんだけど」

太いストローをくるくると回して生クリームを底に沈めながら、"私"──いや、"彼"は言葉を続けていく。
本来であればこうして言葉を交わすこともなかった、、、、、、、、、、、、、相手ではあるのだけれど、その見た目がやっぱりどうしても自分自身なわけだから、なんかほんと、変な感じしかしない。

「あの"女になっちゃえ"っていうリリックに反応したマイクが、多分あの近くに居た唯一の女の子、、、、、、だったキミの精神を、無理やり引っ張り出して僕のとトレード、、、、したみたい。キミ、あの近くに居て、あのリリック聴いたんでしょ?」
「まあ、聴くと言ってもほぼ聴き流し状態だったけど……耳にしたって意味なら聴いてた。言葉とかは聞き取れてなかったけどね」
「え〜〜っちゃんと聴いてなくてこれかぁ」

うげ〜〜と顰めっ面。
なんだけど、なんだろうこの迸る可愛い子ぶりっ子感。
なんかもう、すげーなと思うばかりだ。

対する私は、さっきから地味に自分の"声"が気になって仕方ない。
いやだって、いやその、思いの外──。

「──"こいつ意外と声低いんだな"って、思ってる?」
「、え」

思わずぎくりと強張れば。
ゆったりと瞳を細めた微笑みが、私のことを真正面から眺めている。

それにどうすることも出来ずに。
あちらこちらを気まず気に見た後、なす術もなく私は降伏するのだ。

「いや、あの、ハイ。もうちょっと高かった気がするなーって、思いました……
「素直でよろしい」

そう言って、"彼"はふうとまた溜息を吐いた。
やっぱりそれが本来の自分よりも大分サマ、、になっていて。
私ももうちょっと内面を磨けば、今よりもうちょっとだけでもいい女になれるんじゃないかと、私に幻想を抱かせるのだ。




彼の名前は、"飴村乱数"。
恐らくこのシブヤディビジョンで知らぬものは居ない、超の付く有名人である。

4年前に東京を賑わせ、突然の電撃解散をした伝説のチーム"TDD"。
彼はそのメンバーの一人だった、"easy R"その人なのである。

ついでに言うと、飴村乱数はそれだけじゃなくても有名人だ。
ファッションの最先端であるシブヤの街で、いわばファッションリーダーと言えるポジションに立ち、数多の流行を作り上げていったアーティスト。
シブヤの街を飾る広告やディスプレイはいつだって彼のブランドが輝いているし、そうでなくてもショッピングウィンドウでも目に付くデザインはみんな彼のもの。
まあつまりは、とんでもない有名人だ。
やっぱりそれに尽きる。

そんな飴村乱数の身体の中に私は居て。
そうして何故か──私の身体の中に居る飴村乱数は、今私の家にいる、、、、、、のである。

…………いや、やっぱこれおかしくない?」
「ぜ〜んぜん!ねえねえご飯早く〜〜っ! ボクお腹ぺこぺこ〜〜」
「え〜、ええ、さっきフラペチーノ飲んでたじゃん……

──いややっぱこれおかしいだろ。
なんて思いつつも、無邪気とも取れる勢いに押されて私はキッチンに立っている。
いつもより低い目線に謎の新鮮感を感じつつ、"それは嫌"とはねつけられてしまった為、折角買った今晩の夕飯予定だった総菜は冷蔵庫に仕舞った。
というか、初対面の女?の手料理食べるとか、すげえな。

ふと耳を澄ませば、恐らくテレビの賑やかな音声が聴こえてきて。
想像以上に寛いでいらっしゃるご様子に、呆れなんだか関心なんだかわからない気持ちを抱えつつ、頭の中で何を作ろうか組み立てていく。
まあ別に、そんな凝ってなくてもいいだろう。

──なんで飴村乱数が私の家に居るのかと言えば。
私たちの精神が、いくら待っても元に戻らなかったからである。

飴村乱数曰くは、"ヒプノシスマイクの効果は永遠ではない"とのことで、暫く時間を置けば自然に元に戻るだろうと予測づけてたんだけど。
いくら待っても一向にその気配はなく、カフェに居座って2時間を過ぎたあたりで、もう諦めるかという雰囲気になったのである。

しかし流石に離れるのはどうなるのか互いにわからなくて。
仕方ないから、取り合えず元に戻るまで一緒に居るか、という話になったんだけど。
その流れで、なんでかよくわかんないんだけど「じゃあよろしくね」という言葉と共に、何故か私が飴村乱数をお持ち帰りすることになったのである。
いやほんと、なんで。

軽く解凍した鶏もも肉を、適当なサイズに切り分けて、お肉に更に切り込みを入れて開いていく。
そのままゴリゴリと胡椒と塩を削って両面に振りかけて、味が付くように軽く揉み込んで。
あとはボールで卵を溶いておいて、取り合えずいったん放置。
大きめのフライパンを予熱して置く。

そして次は──まあ適当にスープでいいや。
冷蔵庫にある野菜を取り出しながら、ああそう言えばと声を張り上げる。

「なんか嫌いな野菜とかある〜? あ、鶏肉大丈夫?」
「ない〜〜! なんでも食べるよっ」

──自分の甘ったるい声ってなんかキモいな。
そう思いながらも、「わかった」と口にして、取り出した野菜を軽く洗う。

野菜はもう、本当に適当。
食べやすいサイズにザクザク切って、お鍋に水を注いでそこに投入。
コンソメを入れて、あ、後でしめじも入れよう。そろそろ痛む。
中火で固定して、あとは放置。

すると丁度いいタイミングで予熱が終わったので、油を引いていく。
そうして置いておいたお肉の両面に小麦粉を軽くまぶして。
溶いておいた卵に絡めて、良い感じに熱いフライパンに置いた。

ぱちりと油が弾ける音と共に、じゅう、と肉に火が通っていく。
余った分は明日のお弁当にするか、と所狭しにお肉を敷き詰めていって、蓋をする。

そうしている内にお鍋の方もぐつぐつと煮立ってきたので、そっちは弱火にしてしめじを投入。
軽く味見をしつつ、あともう少ししたらこっちにも塩胡椒をする。

フライパンの蓋を開けて、お肉をひとつずつひっくり返して。
良い感じに焼けて、香ばしい匂いを吸い込みながら反対側も焼いていく。
サラダは──面倒くさいしスープあるから、もういっか。

ご飯は既に朝セットしていたものが炊けていて。
それをしゃもじでかき混ぜながら、飲み物はどうしようかと悩む。

「麦茶飲める〜?」
「飲める〜」

めちゃくちゃいいお返事である。
嫌いなものがないって凄いなと思いつつ、鍋の味を見ながら塩胡椒を振っていく。
私はどうにもセロリとか匂いがキツい系が何をしても駄目なので、素直に感心だ。

焼き上がったお肉を取り合えず二枚ずつお皿に盛って、けど色味がやっぱあれだったのでトマトをくし切りにしてそれも適当に盛り付ける。
取り合えず私と飴村乱数分のおかず皿をすぐ横のリビングにある食卓に置いて、あ、と声を出した。

「ご飯の前に手、洗ってきてね。ここ出て斜め前の扉。玄関に一番近いとこ」
「わ〜〜! 美味しそ〜〜! すぐ洗ってくるねっ!」

いやもう本当にいいお返事だ。
自分の元気な声をなんとなく感慨深く聴きながら、残りも盛り付けるべくキッチンへと戻っていく。

スープを注いで、ご飯も盛って。
それらをまた食卓の上に置いた後に、グラスに氷を入れて、作り置きしてる麦茶のピッチャーとお箸を抱えて持っていく。
そうしてそれらを置いていれば、手洗いを済ませてきたらしい飴村乱数はリビングに戻ってきた。

「これなあに?」
「鶏もも肉のピカタ。あとコンソメスープとお米」
「ピカタ! え〜〜凄いね、料理好きなの?」
「大学が一応調理学校だったんだよね。そこでまあ、そこそこ学んだ感じ。仕事にはしなかったけど」
「へえ〜〜」

席に着けば、同じように向こうも席に着く。
そうして元気よく「いただきまぁす!」と言ってくれるから、なんだか微笑ましくなって軽く笑いながら私も同じように「いただきます」と繰り返した。

取り合えずトマトを食べる私の前で。
飴村乱数は、むしゃりとピカタに齧り付いて。
もぐもぐと口を暫く動かした後、やや吃驚したような顔で私の方を見てくるのである。
いやもう、割と驚愕顔。

……まずい?」
……! ちがう、違う。予想外に美味しい。えっ美味しい」

そう言いながら二口目もピカタに向かっていって。
まあ、口に合ったんならよかったや、と私もお箸の歩みを進めていく。
──うん、柔らかくて美味しい。

なんとなく、無言で食べながら飴村乱数の様子を伺っていれば。
飴村乱数はなんというかまあ、かなり美味しそうに食べてくれているようで。
いやその姿は間違いなく自分なんだけど、なんだ、ほんと美味しそうに食べてる。
というかなんかこう、噛み締めてる。

飴村乱数はお肉をひとつ平らげ、勢いよく麦茶を飲んで。
そうして今度はスープを飲んで、ひとつ溜息を吐いた。
そしてそのまま、割とこう、熱量の感じる視線でこちらを見てくる。

……ほんと、パパっと迷いなく作り始めたから、正直簡単なやつかなって思ってたんだけど」
「あ、うん」
「想像を絶する美味しさで、今ちょっと感動してる。これ誇った方がいいよ」
「う、うん?」
「むしろ誇って」
「ええと、うん」

──どんなテンションだそれ。
そう思いつつ、私も私で食べ進めていく。
まあなんであれ、仮に自分の姿だとしても、こうも美味しい美味しいと言って貰えることは素直に嬉しい。

「いつもこういうの食べてるの?」
「え? ん〜いや、全然かな。めんどいから、いつもは適当に買ったりして、その気になった時だけ作ったり作り置きしたりしてる」
「へ〜、そうなんだ。でもでもっ彼氏さんとか喜ぶでしょ」
「いやいや、彼氏なんて居ないよ。だから別に喜ぶ人とか居ないなあ」
「えっ」
「え?」

なぜか吃驚されて、思わずこっちも吃驚し返す。
いやなんでそんなに"マジで?"みたいな顔されなきゃいけないんだろ。
普通に彼氏なんていないわ。
というか出会いがない。

「私、彼氏いそうに見える?」
「うん、めちゃくちゃ見える」
「なんで?」
「だって料理上手じゃん! 男はこういうご飯作れる子に弱いもん」
「ええ〜〜?」

そういうもんなのか?と思いつつ。
友達の女子──いやみんな料理美味い子ばっかだわ。
ならばと今の会社の女子を思い浮かべて、ああ、と思い当たったことを口にする。

……手料理を食べさせるってさ、まずは、食べさせられる、、、、、、、関係にならなきゃ無理じゃん?」
「あ〜、うん」
「私みたいな奴は、そこまで行くのが面倒くさいというかそこまで行かないから、駄目なんだと思う」
「ええっそこはやりようあるよ。いけるって」
「いやいや、いけないんだって」

変に会話が弾むけど、いやマジで、しょうもない。
というか私はなんで飴村乱数とこうして同じ食卓でご飯をつついてるんだろうか。
いや、入れ替わっちゃってるからなんだけど、もうそっからわけわかんない。

「え〜〜ほんとに勿体ないなあ。こんなに美味しいのに」
「いやあ美味しいって言って貰えるのは嬉しいんだけどね」

点けっぱなしのテレビの音声が、がやがやと部屋を賑わせていて。
とんとん拍子に進む会話がなんだかちょっと珍しくって、そんでもって目の前の人間はまるで鏡を見ているように自分だし。

なんか、こういうのもまあ面白いのかも、なんて。
ぼんやりと思ってたら。

「──あ、じゃあ、こうしようよ!」
「うん?」

日頃の自分じゃ絶対にしないであろう、にぱっとした笑顔。
それを浮かべた飴村乱数は、にこやかな微笑みのまま、"名案!"とでも言うように両手を合わせてこう囁くのである。

「じゃあ、これからボクにご飯作って」
……ん?」

──いま、なんて?
そう思う私の前で、にこにこ顔の飴村乱数は言葉を続けていく。

「まあ、この入れ替わり、、、、、は正直、朝までには直るかな〜? って思うんだケド。でも、それじゃあ折角会えたのに詰まんないじゃん? それにほら、あの違法マイク、ちょ〜〜っと怪しい感じするから、様子見もしたいんだよね」

──ん?ん?んん??
えっと、つまり、だからなんだ。

……いや、うん、えっと。えっと? 様子見をするのはいいんだけど、それとご飯ってどういう関係が……?」
「ボクねえ、女の子にモテるんだけど」
「あ、ハイ」

──え、なにこの唐突なモテ自慢。
しかし風の噂で"飴村乱数"が天然ジゴロであることは聞いているっつーか後腐れない女遊びが凄く上手いとかはなんかどっかで耳にしたことがあるから、まあ、そこは別に変に思わないけど。
それとこれとは、マジで話が繋がらない。

「割とね、こうも色気のない会話って、珍しいんだあ。まあ多分それは今、キミがボクの身体の中に居て、ボクがキミの中に居るから、無意識的にそういう対象、、、、、、から外れてるだけだと思うんだけど。つまりはねえ、ボクもたまには、気を抜きたいなあって」
「う、うん……

モテる男の言い分って、なんか凄いな。
つまりはこんなに色気がない私でも、"通常"なら色気のある会話に持っていくことも可能だったってことなんだろうか。
だけど自分の身体に入っている今の私はそういう、、、、対象にはならなくて?
んでもって、この言い分だと今後もそうしない、ということで??

「キミは、ボクに美味しいご飯を作る。毎日って訳には行かないから、"今日行くね〜〜"ってボクの方から行きたい時には連絡するよ。で、キミはボクがキミのご飯食べたいなあって時はボクの為にご飯を作る。あ、材料費とかお金も出すよ」
……いやうん、材料費云々は置いておいて、それ、私になんのメリットがあるの……?」

なんか、割と私だけの負担多くないかそれ。
だってなにその一方的な契約。
飴村乱数が手料理を食べたい時に、飴村乱数の為にご飯を作って待ってる?
いやいやそんな、いや、なんだそれ。

そんな、私の心からの呟きに。
しかし、にんまり顔の飴村乱数は、更にこう続けるのである。
それはまあ、ある意味、私の確認に迫った言葉で。

「──誰かと一緒の方が、ご飯、楽しくない?」

いっつも、ひとりでご飯なんでしょ。

そう、言外に言われた言葉に。
"寂しいだろ"と匂わされた、お誘いに。
────まあ、確かにと、思ってしまう私も、いたわけで。

「ね、どお? ボクほら可愛くって明るいしぃ。食卓が華やかになるよお」
「それ自分で言うの……
「自分で言わなきゃ誰が言うのさ。自分のことは自分がまず認めて可愛がらなきゃっ」
「いやうん、あ〜〜、うん……

自己肯定が完璧すぎる人間の声に、やや耳が痛くなる。
ほら私、別に自己肯定感とか普通なんで。

そんでもって、その話。
駅からちょっと離れた、1LDKのマンション。
そこに一人で住んでる、私。

社会人としては4年目で、まあでも大学から独り暮らしだったからずっとひとりで。
年末とか休みとかには実家に戻るものの、そりゃま、特定の相手も作んないから基本はやっぱ、ひとりぼっちで。
──まあ確かに、これだけにこにこ私のご飯を美味しい美味しいって食べてくれる人が居たら、きっと、食卓は賑わうんだろうなあとは、思う。

……ルールを決めたいかも」
「お! いいねいいね! どんなの?」
「ん〜、食事の連絡は、17時までにはすべし、とか」
「いいよお。でもなんで17時?」
「私の定時が17時半だから、17時に連絡あれば買い出しとか予定組みやすい」
「なるほど〜〜」

あとなんだろな。
あと、何が必要だろう。
ああうん、こういうこと考えたりしないから、よくわかんない。

……じゃあさ、まずは"お試し"してみようよ」
「お試し……?」
「そう! 誰かが居るの、初めてなんでしょ?」
……あぁ、お見通しか」

にっこり笑う顔は私のものの筈なのに、なんでこうも違う人間に見えるのか。
綺麗に笑う自分の顔をやや半笑いで見ながら、ぼんやりとそう思う。

んでもって、お試し、ねえ。
まあ確かに、この家に女友達以外の誰かが居るのは確かに始めてなもんだから、そういうのはありがたいのかもしれない。
これがどのくらい続くのかはわかんないけど、そしたら、いいことと駄目なことがわかるのかも、なんて。

「じゃあ……これからよろしくと言うことで」
「うんうんっよろしくねっ!」

無邪気な表情。
明るい声音。
それをぼんやりと見詰めながら、私もそうっと笑みを返す。
多分だけど、本当のこの顔はこんな笑顔浮かべないんだろうなあ、なんて。
思うのもまあ、仕方ない。

そう思ってる私の前で、会話の最中にもしっかり箸を進めていた飴村乱数は最後に残ったスープをごくりと飲んで。
そのまま実にいい笑顔で、私にこういうのである。

「じゃあまずは、この後お風呂貸してね」
……あー」

──なるほど。
そのこと、すっかり忘れてたわ。