休日特別運転



「サクラ、朝でございますよ」
「ん」
「サクラ、起きて!もう5時!」
「んー」

シャッという音と共に、部屋が少し明るくなる。カーテンを勢いよく開け、朝の光を全身に浴びているノボリ兄さんを開かない目で軽く睨む。
勘弁してくれ、まだ眠いんだ。なぜなら今日は土曜日だからね。休日は朝方まで起きて、そこからお昼まで惰眠をむさぼるのが私のスタイル。つまりまだ寝初めてから2時間くらいしか経ってないんだよ。兄さんたちも私の休日の生活リズムを知っているはずだ。だからノボリ兄さんもクダリ兄さんも私を起こしてくれるな。嫌がる妹を無理やり起こすなんて、かわいい妹に嫌われても知らないんだからね、ぷんぷん。ほら見ろ、ほとんど寝てないから頭がまわってない。

「早く起きないと朝食が冷めてしまいます」
「昼にレンチンするからいいよ」
「だめ!朝ご飯食べないと元気でない!」
「今日は休みだから元気も閉店」
「そうはいきません。本日はわたくしどもと一緒にバトルサブウェイに来ていただきます」

おっと聞いてないな。どういうことか問いただすために、うっかり布団から飛び出しちゃうところだった。
今日は誰とも出かける約束をしていない。勿論それは目の前の兄たちにも当てはまる。だからこそ夜更かしをしていたわけだが。
要件は見当がついている。どうせいつものやつでしょ。ここ暫くはなかったから今日もないと思っていたのに。ないと思っていたというかもはやその要件の存在を忘れかけていたというか。どちらにせよ今日は私はフリーの日だ。
それに布団が私を離してくれないんだよね。愛が重いんだよ私の布団。だがその分包容力がある。それにこの温かさと守られている安心感。もしかしてスパダリだった?そうか、これがスパダリ。私って恵まれてる。

「本日からの三連休は挑戦者が増えますので、わたくしどもだけでは追いつきません」
「だから挑戦者がぼくたちの所に来る前に倒してほしい」

私がスパダリことお布団とラブラブチュッチュしている間にも、話は進む。
やっぱりね、そんな気はしていたよ。けれど無茶を言わないでほしい。確かに挑戦者は増えるだろう、三連休だから少し遠くから足を運ぶ人も多くいるだろうし。けど、ちょっと立ち止まってよく考えてみてほしい。挑戦者たちが三連休ということは、いち学生である私も同じく連休なのだ。一週間の疲れを癒すために貴重な休日は布団でゴロゴロするしかない。それにね、言い変えればデートだから。スパダリとデートだから。デートドタキャンはないわ。私の沽券に関わる。

「どんなに人が多くても兄さんたちの所にたどりつく人は僅かだと思うよ。だから大丈夫だよ。さよなら」

それだけ言って肩までかかっていた布団を頭までかぶり、起きたくないと主張してみる。だが、そんなささやかな抵抗は、クダリ兄さんが布団をはぎとったことによってあっけなく終わった。人の男寝とるなんて!!しかも身内の!そんなドロドロした寝取られの世界味わいたくないよ。

「布団返して」
「そしたらサクラまた寝る」
「寝ないよ。布団とデートするだけ」
「いい加減諦めて起きてくださいまし。遅れてしまいます」

時計をチラチラ見ながら深いため息をつくノボリ兄さん。なんで私が悪いみたいになってるんだよ。そもそも今日サブウェイでバイトさせようと思ってたなら、せめて昨日の段階で伝えとくべきだろう。御宅の会社はホウレンソウどうなってますの?社会人の基本でしょ?
いつも呼ばれる時は大体前日に言われていたので早寝早起きをして元気に、とまではいかないが、わりかし前向きに手伝いに行っている。時給高いし。しかし今回は何も言われていなかったため、冒頭でも話した通り私は朝方まで起きていたのだ。無理だよ、お昼まで寝ないとがんばれないよ。

「眠いから無理だよ」

それに、私が行ったところでそんなに役には立てないだろう。なぜなら私は分身の術を心得ていないので、一つのトレインでしか挑戦者をおさえられない。それって私がいてもいなくても、さして人数に大差ない。

「サクラがいないとつまんない!」

嘘ばっか!知ってるんだぞ。強い挑戦者が来た時の爛々とした目を。めちゃくちゃ楽しんでるじゃん。今でも鮮明に思い出せるよ。社会科見学でよりによって身内の働く職場に当たったことで既にテンションが下がっていた私に、追い討ちをかけるようにギラギラした目でバトルする姿を見せつける兄。身内ながら恐怖で震えたよね。私でそうなんだから、友人たちは顔を真っ青にさせて懸命にパートナーポケモンを抱きかかえてた。トラウマ製造地サブウェイ。でもあの中でも目をきらきらさせてたやつが将来あのサブウェイに就くんだろうな。廃人製造地サブウェイ。闇の組織じゃんかよ。

「サクラ起きて!ぼくたまには一緒に出かけたい!」

え、待って、きゅんとした。ほっぺを膨らませてかわいい顔でお願いするクダリ兄さん、の後ろでそっとお札を見せてくるノボリ兄さんに。我が兄ながらクダリ兄さんは可愛いと思います。が、それ以上にノボリ兄さんのずる賢さが私の心を掴む。金で妹を買うなんて!!上等よ、1人勝つごとに1枚な。がめつい。

「分かったよ。今日だけだからね」
「ほんと!うれしい!」

ああ笑顔がまぶしい。太陽のようにきらきら笑うクダリ兄さんと、への字に下がった広角を片側だけクッと上げて計画通りとほくそ笑むノボリ兄さん。クダリ兄さんの純粋さを見習って。買われた私が言うセリフじゃない。

「さ、はやくご飯食べよ!」
「そうでございますね。ではサクラ、わたくしどもは先に下に降りておりますから支度ができましたら来てくださいまし」
「ん」

兄さんたちは笑顔で私の部屋を出た。キラキラ笑顔のクダリ兄さんは勿論だが、悪い顔をしていたノボリ兄さんも柔らかな表情である。
……そういえば最近お互い仕事や学校が忙しくて一緒に過ごす時間なかったな。兄さんたちが突然私をサブウェイに呼んだのは、一緒に過ごす時間を少しでも作ろうとしたからかもしれない。優しい兄さんたちだもんな。
そう考えると面倒だった休日の朝からの外出も、気分の良いものに変わる。まあ、たまには?こんな休日も有りかもしれない。



(サクラはぼくと一緒にダブルトレインに乗るの!)
(いいえ、わたくしと一緒にシングルトレインに乗車するのでございます!)
(マルチでよくない?)
(ダメ!)
(マルチでしたらサクラは誰かとペアを組まなければなりません)
(知らない男とサクラを2人きりになんてさせない!)
(何かあってからでは遅いのでございますよ!)
(じゃあ知ってる人ならいいのね、行きましょうクラウドさん)
(クラウド!!ずるい!!)
(なぜクラウドと!シングルに来なさい!)
(わしのこと巻き込まんでや……)



2012.03.10



 

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