想いは沈む



所詮は女だ。そんな見下した目でこちらを見てくるコイツをどう負かしてやろうか。女だからってバカにする輩はどこにでも一人はいるみたいで、今目の前にいる男もそう。ポケモンバトルに女も男も関係ないのに。現にジムリだってチャンピオンだって女性はたくさんいる。それなのにコイツは自分が男であるだけで優位に立ったかのように振る舞ってバカみたい。私の後ろで不安げな表情でこちらを見ているサクラの方へ振り向き、安心させるよう笑みを浮かべ目の前の男へ向き直る。今私は虫の居所が悪いの。私の大切な人に絡んだのが運のツキだったわね。その腐った根性叩き直して、いや、ボッコボコにしてあげる。



廃人施設との異名を持つバトルサブウェイ。そこで勝負を終え暇潰しにライモンシティをブラブラと歩いていたら視界に入ったサクラと男。男は汚い笑みでサクラに近付き腕を掴んだ。
私の大切な人に何してくれるのよ。
私は急いでそちらに駆け寄り男の手を払いどけ睨み付ける。男は怯むどころかお友達も一緒にどう?なんて馬鹿げた言葉を吐くものだから私はどうしようもなく腹が立った。

「トレーナーなら、ポケモンバトルで決めましょう」

もし助けに来たのが私じゃなくトウヤだったら、コイツはすぐに引き下がったのかもしれない。未だ廃人施設で腕を振るっている片割れに少しの嫉妬心を抱いた。



「ありがとうトウコちゃん!トウコちゃんはやっぱり強いね」

花のような笑顔で私を褒めてくれるサクラに嬉しくなる。
バトルの結果は火を見るより明らかで私の圧勝。相手の手持ち6匹を私は1匹だけで倒し完全勝利を収めた。見下していた女に負けたからか、全く歯がたたずあっという間に敗北したからか、ただただ呆然と立ち尽くす男。実に滑稽だわ。

「さ、サクラ。行きましょ」
「うん!」

サクラの手をとり、バトルの最中にできた人だかりから抜け出す。
私の横に並び、先程の不安げな顔が嘘みたいに満面の笑みを浮かべるサクラ。この笑顔を作り出したのは誰でもない私。守ったのは私。
ポケモンバトルだって、大切な人を守ることだって、男女関係なくできること。女だからと下に見る奴なんかに負けるつもりはさらさらない。でもどうしても一つだけ、私が望んでも手に入らない場所を手に入れる可能性を持っている奴等に嫉妬する。女である事実を疎ましく思うことがある。
こんなに大切にしているのに、いずれサクラの横を簡単にかっさらって行くであろう男に憤る自分が、酷く惨めに思えた。



(どんなに優れていようとも)
(私もあなたも女だから)
(あなたの隣りを独占することができない)



2012.08.24



 

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