幼い頃はなずなを女の子だと思っていた。
誕生日が近くて、家も近くて、親同士も、そして本人同士でも仲が良い、所謂幼馴染という間柄の子。性教育のせの字どころか、常識さえ知り得ていなかった幼い頃は、たとえ一緒に着替えたりお風呂に入っていたとしても可愛いからという理由だけで女の子だった。何で男女の違いはそれとなく分かってたくせに、可愛いから女っていう意味不明な方程式が自分の中であったのかは謎だ。
「なずなはかわいいね」
「ありがとっ」
ちっちゃい頃は何にも気にしてなかったなずな。それどころかかわいいって言うたびに褒められてると思ってたのか──実際褒めてるのだが──嬉しそうに笑う姿にまたかわいいと言うのだった。
「なずなはかわいいねぇ」
「か、かわいいってゆーな…!!」
段々と知識も増えていって、常識も理解してきて、言ってる自分でももうかわいいって言われるのは嫌だろうなと思っても、なずながかわいいから言ってしまうのだ。だって好きなんだもの。好きな子がかわいいことしてたらかわいいって言いたくなるでしょ。ついにはかわいいって言うのを禁止されたけど。好きな子を褒めるのに一番使ってたワードを禁止されるのって想像以上につらかった。
「なずな」
「…………もうかわいいって言ってくれないのら?」
本当に生まれた時から一緒で、ずっと一緒だったくせにずっと一緒にいたいと思うくらいには好きで、たしかに最初はなずなを女の子だと思ってたけど、別に男だと認識してもそれは変わらなくて。でもそれは自分だけの感情だけであって、当たり前だけどなずなはそうとは限らない。寧ろかわいいと言われ続けて迷惑してた。これはもう、このなずなに対する好きは静かに散ってくなと確信し、せめてなずなが幸せになってくれたらいいな、と一丁前に格好つけて自分に嘘を擦り込んで本当のことだと思い込ませてた矢先にこれだ。そんなこと言われたら舞い上がるだろばか。
なずなお前、俺が言う『かわいい』に好きを忍ばせてるなんて思ってないんだろ。可哀想に。かわいいって確かに褒めてるけど、否定しないけど、その言葉には下心特盛だから。ごめんな。