※時間軸が原作前/捏造注意





 昔っから運動っちゅーものが駄目やった。走るのも遅いし飛ぶのも失笑もんやったけど、特に球技なんてモノは俺からすれば宇宙人がするようなことやった。ハハハ……いや割と結構笑い事ではなく。野球やったらバットにボールが当たる気なんて全くせぇへんし、バレーも球を拾えへん。奇跡的に拾えても上げた時にはヘロヘロの球になりよる。テニスは思ってたコースとは擦りもせん方へと飛んでいき、バスケはドリブルが四歩も続かない。自分でも苦笑い通り越して真顔しかできひん有様やけど、けして真面目にやってへんわけじゃないんやで……。運動をする素質が全っっっっったくこれっぽっちも、塵の程すらないんや。小学校卒業の時点でそれなりの数のスポーツを授業やらで経験し、それを自覚したときは思ったよりショックでちょっと泣いた。
 小学校のときはチームプレイの時むっちゃ罪悪感感じてたけど、中学になれば体育を真面目にやらない輩がちらほら見えてきて、そいつらと一緒になってコートを遠巻きに見てた。

「俺が上げたるから打ちぃや」

 しかしそれだけで終わってくれへんのが学校や。今まで授業でやったことが理解しているかどうか、学生たちは何らかの形で試される。中学一年の体育はバレーボールだった。同じチームになりよった宮侑はにこやかな笑顔と共に俺に死刑宣告に近いこと言ってきよる。体感五秒くらいは頭ん中が最悪の二文字しか浮かばんかった。うううん、まー知らん方が自然やけど、俺これまで体育に真面目に参加したことあらへんで……。バレーに自信あるみたいやけど、人選ミスも甚だしいんちゃう?

「えぇ……いや彼奴に集めぇや、見た感じ何か上手そうやし。……えっと、確か……高橋」
「アイツは山本や、掠りもしてへんやん。今だけでええからチームメイトの名前くらい覚えとき。ちなみにバレーはそこそこしか出来へんで」
「お前ら俺を泣かす気なん???」

 あああ山本スマン。わざとじゃあらへんで堪忍な。いやほんとスマンて。でも俺と喋ったことあらへん……いやこれ言い訳にならへんな。半年一緒だったクラスメイトの名前覚えてないって最悪やな。よし俺最低な奴やからちょっとチーム抜けるわ堪忍な。

「ほんでお前はどこ行くん」
「ウッ……ちょお具合悪いねん、保健室に」
「ふーん……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「──ッホアァ!!?!???!?」

 なんや無言の間続くな思たら──ボケ考えてるんかと思てた──急にボール投げよったぞアイツ!!!! なんってことしてくれるんやアホ!! 反射神経が自分の理解超えて発動してくれたからよかったものの、いつもの状態やったら無様に反応できず腕やら体やらが大惨事になってたわアホ……!!!!
 (自分から見たら)豪速球とは言え投げられたボールを取っただけやのに肩で息する俺に宮は笑みを深めた。

「取れるやん」
「え、待」
「ほんならやりましょかー。もう時間やし」
「ちょっ、待ちぃや!」

 これ俺の能力ちゃう!! 火事場の馬鹿力的なやつ! もうできひん!! 言いたいことはごっつあるのに、無情にも先生が鳴らした笛の音が体育館に響いた。アアアアカン……もう今日一日罪悪感でブルーやわ……しんどい……帰りたい……。

「俺がナマエに上げたボールよぉ見て、タイミング良く腕振り下ろすだけやで」

 それが出来てたら今まで苦労せぇへんかったんやけどな。こいつ運動音痴なめてへん?? 思ったより声が出なくて蚊ァ鳴くように返事だけはしたけど、出来る気なんてこれっぽっちもあらへん。無理。……あれ、待って。コイツ今俺の名前呼んだ? 俺は山本と同じでコイツのことジャージの刺繍見るまで名前知らんかったんやけど。……マジで宮はどこで俺を認識したんや……あ、フツーは半年過ごしたクラスメイトは名前と顔一致しとるんか。

「ほないくで」

 あ、待って、お前が俺をいつ認識してたかっちゅーどうでもいいこと考えてたせいで心の準備が。あああボールが山なりに俺の方に来、待て待てゆっくり、そう、落ち着いて見て……見、て……見──





 11対25。酷い数字やな、とぼんやり思う。11は俺たちのチームやけど。いやもう本当スンマセンとチームメイトに思いつつ、右手に感じる熱い痛みにほとんどの意識が持ってかれる。

「……まさかここまでとは思わんかったで」
「それ試合中に何べんも聞いたわ」
「わざとかと思たわ」
「阿呆、したら俺めっちゃ悪い奴やんか」
「…………せやな」
「てかお前、せやったら何で俺んとこに何回もアホみたいにボール回したん」
「アホて何やねん」
「いやアホやろ。俺じゃなくて他の奴に回したら、セッターお前やったら勝てたわアホ」

 未だ熱が冷めへん右手を見ながら言えば、上からタオルが降ってきた。直後ガシリと効果音つきそうな手も頭に。宮の手ェでかいな、と頭の片隅で思いつつ、初めてスパイクした興奮を伝えるために頭の中でろくに考えず隣を振り向いた。

「宮お前、ほんっっと凄いんやなー! 初めてだわボール返したの! やば!! よく俺を打たせられたな、ほんま凄いでマジで……!!! 天才か!!? 俺を打たせたんやからお前誰にでも打たせられるなぁ! うわーすげー……!」

 あれこれ小学校低学年レベルの知能な言い回しちゃう? と途中で思ったりもしたけど、それでも興奮冷めやらず。小学生レベルの言葉でも褒められまくったことに恥ずかしさを感じたのか、それとも俺の大声に恥ずかしさを感じたのか、宮の顔は赤くなりながら顰められていった。おもろい。

「………………俺もこんっっな下手くそに上げたの初めてやわ。もう二度とお前には上げへん」
「宮マジで凄い」
「もう分かったさかい! 言わんでええ!」

 頭の上にあった手が押し付けるようにグリグリと回されたけど、暫くは全神経が手に集中していて気にならんかった。……せやからな、耳真っ赤に染めながらギラつくような視線でこっちを見ていた宮のことなんてこれっぽっちも気付かんかった。






タイトルは『宮侑の初恋〜ただし約1年後に宮治に掻っ攫われる〜』です。


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