最初は別に何とも思ってなかった。自分の前の席に座るソイツの顔はぼんやりとも覚えてないから、きっと高校になってから桐青に来たんだなとしか。あと、プリントを回すときに見えた手が男のくせにやたら綺麗だなと思った。白くて指が長い、肉刺も傷も見当たらないそれに運動部には所属してないのだと一発で分かった。

「“次の朝未だ暗い中に出発しようとしたところ、駅吏が言うことに、これから先の道に人喰虎が出る故、旅人は白昼でなければ、通れない。”──」

 変わったのは梅雨の頃だろうか。昼休み後の現国の授業でやたら眠かったのを覚えている。そう、それで、アイツ──ナマエが教科書を朗読する為に席を立った際、彼のノートの端がチラリと見えたのだ。眠いくせにやけにそこは焦点が合い、そこに書いてあった何かが見える。

「っふ、ク……!!」

 書いてあったのは授業とは全く関係ない猫の落書き。愛らしいとは思うのだが、如何せん阿呆面のせいで間抜けに見える。いや、角度が悪いのかもしれないけどとも思ったが、ここから見えたその落書きは俺のツボに入ってしまった。体の震えがバレないよう机に伏せる。次は自分が朗読するのだから早くおさまらなきゃいけないのに、脳内にチラチラとその猫が出てくるせいで笑いが止まってくれない。

「(あー待って、ほんと待って。やべぇもう回ってきちまうじゃんか。ちょっと待って笑い止まらない。あの猫おもしろすぎる)」

 授業終わったらちゃんと見せてもらおう、と深呼吸した。うん、大分おさまってきた。気ぃ抜いたらまた吹き出しそうだけど。
 これが初めてナマエに興味をもった瞬間だった。

back

ㅤㅤ