「好き」

 部活後、コンビニで買ってきた肉まんを一口サイズに千切って食べようとしたナマエ──が、その肉まんを田島が無理矢理かぶりついたせいで怒る姿を見て思わず口から好きが転げ落ちてしまった。慌てて口を手で隠すもナマエには聞こえてしまっていたのか、田島への怒りはすぐに沈静化させてこっちを見た。目が合ってドキリとする。練習中とかは野球に夢中でそんなに気にならないけど、野球してなかったらすぐにこれだ。恥ずかしい。無理。

「栄口、肉まん好きなの?」
「えっ、あっ、う……うん、まあ……」

 見当違いなことを言うナマエに残念という気持ちが半分、無意識の告白をなかったことにできてありがたいと思う気持ちが半分。まあね、普通そうだよね。同性から恋愛的な意味で好きと思われてるなんて思わないよね。ていうか肉まんを千切って食べるだけで好きなところ増えるとか何。そんな人もっといるだろ。……男子高校生の、それも運動部の奴がやってるのかと言われたらちょっと返事に詰まるけど。

「うーん、まあ栄口はいつも三橋とかの世話も頑張ってるからな。特別に半分あげよう」
「えっ」
「田島が齧ったせいで歯型あるけど」
「……いいの?」
「おう」
「あっ、栄口だけズリィ、肉まん半分も貰ってるー! ナマエ、俺にはー!?」
「うるせーぞ田島」
「差別だ〜〜!!」

 まさかの肉まんを貰える展開に目が勝手に何回も瞬く。マジか。これが棚ぼたってやつ……?? しかもナマエ、あまり綺麗に半分にできなくて、そしたら大きい方をオレにくれようとしてくるし。あーやめて好き。

「いやそこは大きい方ナマエでしょう」
「でもこっちまだパンとかあるし」
「オレもあるよ〜」
「……そう?」
「うん」

 じゃあ、と言って大小の肉まん交換するナマエにお腹空いてたんだなぁとほっこりした。オレも空いてるけど。

「田島は練習後も元気だねぇ」
「本当にな。三橋にあの気力送れたらいいのに」

 はふはふとナマエから貰った、まだ熱々の肉まんを囓る。ナマエは相変わらず手で千切って食べてた。

「うま〜」
「……すげー幸せそうに食うね」
「えぇ〜? そう?」
「うん。あげてよかった」

 へらりと笑ったナマエに何とかこっちも笑い返す。……返しきれてる自信ないけど。
 普通だよ、普通と自分に言い聞かせる。笑いかけられるのも、食べ物を分けっこするのだって別に誰とでもする。……でも、それが何でかナマエだとだめ。ナマエの一挙手一投足にいちいち過剰に反応してしまう。ナマエが試合中やらかしたオレにタオル被せながらわしゃわしゃと雑だけど優しく撫でたりとか、今日みたくいつもは弟にやる扱いをオレにしてくるからだ。そんなんだとオレみたいなのがこうやってころっと舞い上がってそのまま好きになるんだからな。同性でもこうなる奴がいるんだぞ、もっと考えて行動して。と我ながら理不尽だと自覚するナマエへの逆ギレを思いながらお茶を飲んだ。

「栄口」
「何? ──んぐっ!?」

 お茶飲んで一息ついたあとナマエの声に振り向けば口になにか、というか一口サイズよりすこし大きめの肉まんが押し込められた。でもかろうじて肉まんと分かるのは匂いと食感だけ。味覚の分の意識はちょっとだけ口に触れてるナマエの指の方にしかいかなかった。ていうか待って顔あつ……熱っつ!! この熱ナマエに伝わってない?? 指こんなに近いけど大丈夫??? 何でいきなりこんなことしたんだ……!!

「半分あげるって言った手前だから大きさ気になっててさー。でもこれで半分こになるだろ」
「……」

 こっちの気も知らないで! 自分の行動がオレみたいな奴つけ上げさせてんの分かっ……てないんだろうなぁ。思わないよなぁ、普通。……ちょっと悲しい。


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