「なずなは何でアイドルになろうと思ったの」
「んー、そうだなあ……」
あれは夢ノ咲学院に入ったばかりの頃だったか。ナマエからの問いを聞いた瞬間、ぱっと幼稚園の頃や小学生の時、教会に通っていた日々を連続したフラッシュバックのように思い出した。その隣には、いつもナマエがいたことも。
「……誰かを、笑顔にできたらなって」
教会で、窓を背景にしたナマエがこっちを向いて笑顔を浮かべる姿が好きだった。窓から光が差し込んで、キラキラして。綺麗なナマエの笑顔がより一層映えたのだ。
子どもの頃、走り回って土や砂で汚れながらも溌剌としたものも、本を朗読した時に浮かべる優しいものも、おれにかわいいって言うときの、甘ったるくて嬉しそうで、こっちも思わず破顔してしまいそうなものも。それらを思い出すたびに胸の奥がキュッと締まるような、そしてじわじわと熱を帯びる感覚はどこかむず痒くて、どうしようもなくて、でも心地よくて。……幸せで。ああ、コイツが笑えばおれは幸せになれるんだなって。
「……じゃあ、なずなが一番笑顔でいなきゃね」
そう言って、おれの口角を両の親指で押し上げながら笑ったナマエの顔は今でも少しもボヤけず覚えている。
「人は鏡だって言うから。なずなが笑顔でいればきっと皆笑う」
「ナマエも?」
「俺も。ていうか俺は特にそうだよ。なずなが笑っていたら、それだけで嬉しいから」
だからなずなは笑っていて。そう言ったナマエに、おれは笑って頷いたのを覚えている。だから。
「……よし、気合は十分!」
だから、おれはきっと後悔しない。Valkyrieの二人、それからValkyrieを応援してくれた人達からしたら裏切りに見えるようなことをしても。後ろ指を差されても。だって俺は、誰かを笑顔にする為にアイドルを志したのだから。だから、笑わず、その場で歌えもしなかった人形からはさよならをしよう。
「(──It's time to trust my instincts. Close my eyes… and leap!)」
いつかナマエが出演した舞台で歌われていた曲を口ずさむ。ああ、ドキドキする。ワクワクしている。きっと、期待しているから。
深呼吸をする。動悸は静まらない。でも、けして悪い心地ではなかった。心なしか体が軽く感じる。
これだけ心が高揚しても、現実を見れば時間はあと一年しかない。……けれど、きっとできることは少なくないはず。あと一年ある。道化から授かったチャンスを軌道に乗せて、そして、その中で自分も。誰かを、皆を、大切な人達を……それから、ナマエを。笑顔にしたい。