一年生3人と共に歌って踊るなずなを観客席から眺める。目を爛々と輝かせ、破顔し、時にアドリブを入れつつ思うがまま歌う姿にどこか安堵した。数ヶ月前の様子とはまるきり違っている。良い方向に。
ライブが終わったあと適当な店に入って時間を潰しながらなずなの家に行く。ライブ終わりでなずなは疲れてるかと思い自重も考えたが、その時はその時でさっさと帰ろうと思いながら結局家に上がらせてもらった。
なずなの部屋はまぁ……女の子っぽい。女の子の部屋に入ったことないから実際は知らないけど、そこかしこに置かれているぬいぐるみや可愛らしい雑貨の数々にそう思わざるを得ない。その内の何個かは自分がプレゼントしたものだからあまり言うと拗ねられそうだが。……あぁ、あんな写真立てあったっけ。気付けば前になずなの家に来た時から結構日が経っているかもしれない。前は毎日のように家を行き来していたのに。
「ナマエ?」
「おかえり、なずな」
床に座って部屋を見たり物思いに耽っていればなずなが帰ってきた。前まではライブ帰りだと翳りのある目をしていたことが少なくなかったけど、最近はそんなことは全く無くなっていた。今日も疲れより達成感や楽しげな雰囲気を難なく感じ取れて、思わずこっちも気を付けなければ顔が緩んでしまいそうだ。
「ただいま」
「今日もかわいかった」
「ん゛っ……ま、まあ可愛さがコンセプトのユニットだからいいんだけど……!」
むしろ可愛く見せれて狙い通り、とか何とか小声で言うなずなの手を取り、扉前にいた彼をゆるりとクッションの上に座らせる。ついでに少しセットが崩れた髪を整えるように撫でた。
「ね、ね、ナマエと目合った時ウインクしたけどちゃんと気付いた!?」
「当たり前。かわいかった」
「ふふふん」
この“かわいい”はよかったのか、胸に手を当てて得意げに笑うなずな。いまいち気に入るかわいいとそうじゃないものの線引きが未だに分かってないけど可愛いから良しとする。気に入らないときでも昔ほど邪険にはしなくなったし。……本当に嫌なら、また昔みたくきっぱり言うだろうし。
「可愛いだろ〜メロメロだろ〜! 次のライブも来てくれよな!」
「当然。……何ならチケットも自分で買うのに」
「それは──」
途端、視線を彷徨かせたなずなに首を傾げる。頬も少し赤い。こうなった彼は言葉が出るのに少し時間はかかるが、その時間は全く苦ではなかった。頑張って言葉を選ぶ姿が可愛らしい。……今更ながら、可愛いと全部許せるってすごいな。
「それは、だって、ナマエだって舞台のチケットを毎回くれるだろ」
「来てほしいからね」
「おれも同じ。……おれの歌ってる姿見てナマエが笑顔になってくれたら……って……」
ぷしゅーっと気の抜けた音がして聞こえて来そうなくらいなずなの顔が真っ赤になった。漫画だったら湯気が見えそう。中々他の人では見ない顔の赤くなりように、慌てて家に来た時なずなのお母さんが持って来てくれたお茶を飲ませる。飲ませながら先程のなずなの言葉を思い出し、その意味を咀嚼する。飲み下す頃には再び頬が緩まないようにするのに少し大変だった。なずなもそりゃ赤くなるわ。殺し文句過ぎる。
「……」
「……」
なずながコトリとローテーブルにグラスを置いた音が妙に響く。なずなは目を瞑って長めの溜息をつき、ローテーブルに頭を向いて目線だけをこっちに向けた。
「……とりあえず、ライブまた来て」
「うん、行く」
「チケットはまたこっちが用意するから」
「……うん」
「ナマエがおれたちのライブに見に来てくれるだけで、そんで笑ってくれたら、それで十分過ぎるくらいだから」
俺もなずなにチケット渡すときほぼ同じこと思ってるなぁ、と思いながら頷いた。それを見たなずなはにへらと緩んだ笑みを見せるものだから、心臓がぐっと掴まれたような感覚になる。苦しいような、そうでもないような、そんな。
「ふぁ……」
十数年抱えてても慣れない感覚にジッとしていれば、なずなの目がトロンと下がっていた。気の抜けるその表情に今度こそ我慢する暇もなく頬が緩む。
「眠そう」
「ん〜……緊張するもの無くなったし、ちょっと疲れたし、ナマエいるし……ちょっと眠い」
「さっきまであんな真っ赤だったのに」
「う、うるしゃい……」
いいから膝貸して、と言うが早いかなずなは俺の胡座かいてるとこの腿に上半身をポスンと倒してきた。おやすみ3秒なようで寝息が聞こえてくる。
「すぅ……すぅ……」
「……」
…………いや、これ……生殺しが過ぎないか。勘弁して。