自分がナマエの特別になりたいと思ったのはいつからだろう。……いや、「特別になりたい」だなんてキチンと言葉にして願ったのはつい最近のことなのだけど。でも、言葉にしてこなかっただけで願い始めたのはもう随分前のことだ。言葉にしてしまえば、慣れきっている筈のナマエに時たまドキドキと心臓が高鳴ったり、距離が離れることにいつまで経ってもどうしようもなく不安を抱えたり、そして、ナマエを独り占めをしたくなったり……何でだろうと思っていたことがストンと腑に落ちた。
 そも、特別とは言っても幼馴染という点では既にナマエにとって自分は特別なのだ。おまけに間柄だけじゃなく、普段から可愛いと言いながら撫ぜてくる手や優しく細められる目にもそういったものを感じる。……しかし、これでも足りないと思ってしまったのはいつだろう。
 そして悩みはふりだしに戻る。いつから自分はナマエの特別になりたいと思ったのだろう。

「ナマエ」
「ん?」

 隣に座っているナマエの服の裾を掴み、その目をジッと見る。ナマエはいじっていたスマホから目を離しておれを覗き込むように見返す。途端に、トクトクと心臓の音が加速する。重症だろ……と自分にツッコミながら一度落ち着かせるよう目を瞑った。全然落ち着かなかったけど。

「眠い?」
「いや……」
「そう? 寝ていいよ?」

 目を閉じたことでおれが眠気と戦っていると勘違いしたナマエは自分の後ろ、シーツが掛けられたベッドのマットレスをぽんぽんと叩いた。
 おれとナマエはいまナマエの部屋にいて、ナマエのベッドの上に座っている。

「ほんと、ちがくて」

 今から告白する、と思うと体が爪先から熱くなるし、ドッドッドッと心臓の音が大きくなる。その音に合わせて体が動いてないか心配になるくらい。
 ……別に、今日じゃなくたっていい。好きだと自覚した途端ジッとしていられなくなったけれど、今日告白しなくてもいい。特別な日でも何でもないし。……けれど、そうやって後延ばしにしてればいつまでも逃げ回りそうで。何より、この気持ちを持て余すのはあまりにも苦しいから早くどうにかしてしまいたかった。

「あー、あのさ……」
「うん?」

 きっと、いま真っ赤だ。顔や耳だけに留まらず、首だって赤くなっているかもしれない。だからナマエはこんな心配そうな顔をしている。でもそんな顔をする一方で、何かを言おうとしているおれを優しい色を覗かせる目で待っていてくれている。……ああ、ほんとうに、

「……好き」

 たった二文字でも噛まないよう、震えないよう気をつけるのが精一杯だった。思わず必要以上にゆっくりと、そして小さくなってしまった声と言葉に段々と後悔に似た不安が襲ってくる。
 もし、拒絶されてしまったら。……考えなかったわけじゃない。でも、考えようとしても最悪のことは想像することすら嫌で途中で放棄してしまっていた。ああどうしよう、と思っていると影が落ちてきた。

「……俺も、すき」

 そう言って静かに背中に回ったナマエの腕に、視界の端に映る赤く染まった肌に、今までにないくらいの高揚と幸福感に包まれた。正直頭真っ白になって言われた言葉の意味を知るのに時間が掛かったけれど、至近距離で感じるナマエの体温にこれ以上ないってくらい嬉しくなった。それだけで十分だった。

「え、でも待って。それってどういう?」
「は?」

 ナマエのセリフと少し離れた体温に、無意識に細めていた目を見開く。ナマエを見上げれば、ナマエは未だ頬を染めたまま、しかしその表情はどこか訝しんでいた。

「俺は、こう……なずなのこと、そういう意味で好きなんですけど」
「そういう意味ってどういう意味」
「……恋してるんですけど」
「……ふっ」

 言って逃げるようにおれの肩に額を埋めるナマエに思わず笑う。ナマエが目だけでジロリと睨むように見てきたが、それさえも笑えた。

「なーに笑ってんの」
「うぉっ!?」

 笑ったのが癪に触ったのか、ナマエは恨めしそうな顔をそのままに、俺の背に再び腕を回しながらベッドに転がった。多分おれの雰囲気とかでナマエはもうおれがどういう意味でナマエを好きなのか分かってる筈だ。

「この雰囲気でそこに疑問もつ?」
「……万が一があるし」
「ふふふふっ」
「ちょっと」

 だめだ、笑いが堪えられない。あんなにうるさかった心音もどこへやら、いまはこの距離感がとても心地いい。
 同性の幼馴染にこんな気持ちを抱くなんて、完全に一方通行だと思ってたから。良くて優しく受け止め、けれども同じ気持ちであったとは、どんなに普段大切にされていても思わなかったから。だからナマエが本当におれがナマエを好きなのか疑問を抱くことに笑ってしまう。

「ずっと好きだったよ」

 十八年間、ずっと。そして、これからも。

back

ㅤㅤ