いとこ、という言葉で結ばれる人達は大抵仲が良いというイメージを持たれがちだが、実際仲が良いいとこという関係性を持つ人達はどれくらいなのだろうか。少なくとも自分とその従兄弟たちの仲はそうでもないんだけど。

「お、ナマエじゃん。おっすー」
「お〜。そっちは部活休憩中?」
「そうそう」

 委員会の仕事を終えて帰路につこうと廊下を歩いていた時、その従兄弟の古森が濡れた頭や首をタオルで拭きながら話しかけてきた。水に濡れている訳を聞けば、暑さに耐えられなくて水道場で水を被ったところだったらしい。

「ナマエはもう帰んの?」
「帰る。暑っちーし、寄るところもないし」
「ふーん……」

 自分と古森、そしてこの場にはいない佐久早とは従兄弟という関係にあるが、冒頭でも言った通りあまり仲が良くない。かと言って悪いわけでもないけど。この通り、すれ違えば一言二言話はする。……あぁでも、佐久早とは本当に仲良くないかもしれない。面と向かって嫌いだの何だの言い合った訳ではないが、自分は従兄弟たちが夢中になっているバレーをやってないし、お互い喋るタチじゃないから、幼稚園から小中高と学校は同じなのに気付けば年単位で話さないことなんてザラだった。……そういえば、古森と佐久早は同じ部活だったよな。

「……佐久早、元気?」

 こんな事を珍しく思ったから、珍しくこんな事を古森に言ってしまった。言った後で、聞いてどうするんだろうとちょっと後悔に似たものを思ったが、わざわざ前言撤回する程のことじゃないしなぁとそのままにした。

「……えっ」
「え?」
「あー……いや、なんかそういう話題めずらしいなって」
「それは俺も思った」

 同じ学校に通っている従兄弟のことなのに、元気かどうか聞く様子を思うと我ながらちょっと面白くて少し笑ってしまった。乾き気味だったけど。

「まあ元気? だよ。元気というか、いつも通り。めちゃくちゃネガティブ発揮しながらバレーしてる。あと手首やばい。柔らかすぎてあれはもう手首じゃなくて生物」
「ふっ……何それ」

 佐久早のいつも通りってそういう感じなのか、と笑ってしまった。本当に交流が無さすぎて、自分の中の“いつも通りの佐久早像”が思いつかない。本当に、従兄弟とは名ばかりである。

「いや〜、ナマエ見た事ある?アイツの手首。ぐにゃんぐにゃんに曲がるの」
「見た事ない」
「今度見せてもらいなよ」
「う〜ん……」

 人好きのする笑みを向けてくる古森に曖昧な返事しかできない。従兄弟とはいえしばらく喋ってなかった奴にいきなり「手首曲がるところ見せて」と言われて見せるような人だろうか、佐久早は。あまり彼の人となりを知らない自分でも分かる。おそらく見せてくれない。ついでに、は? と凄まれるところまで想像できて勝手に少しダメージを負った。
 そう思うと古森は凄い。佐久早からまぁまぁ邪険にされていることを本人から聞いているが、それでも自分から関わっていってるのだから。もし自分も同じ部活に所属していたとしても俺はそこまでできないと思う。本当にコミュニケーション能力が高い奴だ。

「ねえナマエ」
「ん?」
「俺は?」
「…………ん?」

 古森のコミュ力の高さに感心してれば、述語やら何やらが足りない言葉を掛けられて首を傾げる。意図を汲んでみようと少し前の会話を思い出していたが、古森の「俺は?」発言は自分からしたら脈略無さすぎて早々に匙を投げた。

「佐久早は元気なこと分かったでしょ。で、俺は?」
「え? 元気じゃん?」
「元気じゃないかもしんないじゃん!」
「えぇ……」

 言葉にしなきゃ本当のことは分からないんだからまず聞いてくれなきゃ! と拗ねた口振りをする古森に困惑しかない。どう見ても元気そうなんですがそれは。

「じゃあ元気じゃないの?」
「元気!! さっき佐久早のサーブをレシーブしまくった!」
「えぇ……」

 めちゃくちゃ元気じゃん。何なんだ。ダブルピースまでしてるし。

「久しぶりに会話できたと思ったら佐久早の話題って!」
「三日か四日前も喋んなかったっけ?」
「友達とか従兄弟って普通毎日話すと思うけど!?」
「そうかなぁ」
「俺と佐久早でさえ毎日会話してるっていうのに……!」

 あぁ、まぁ、それは確かに。学年は違えど同じ学校に通ってるほど距離は近いというのに、従兄弟と言うには淡白すぎるのかもしれない。

「……じゃあ、暇なとき話しかけに来て」
「えっ」
「俺が行ってもいいけど、バレー部忙しそうだからいつ行っていいか分からん」

 今まで思いもしなかった提案がするすると口から出て行くことに自分で吃驚する。けど、まぁ悪いことではないだろうし、と撤回しなかった。

「え、あ、うん……わかった」

 そして俺の提案に承諾するも、急に勢いが萎んだ様子の古森。不思議に思って聞いてみたが、何でもないと首を横に振られてその日は別れた。







「俺、ナマエのこと好きなんだけど」
「? どうも」
「恋愛的にね」
「!?!!?!?」
「その顔ウケる」
「人の顔で笑うな。……え? いつから」
「園児の時」
「えんじ」
「吃驚でしょ?? 一途なの俺」
「ソウナンダネ」
「だからさ〜そう話しかけらんなかった訳。キンチョーしてたのこれでも。そしたらナマエも俺に話しかけてこないし、あ〜終わったなって思ってたのよ。元々望み薄だとは思ってたし」
「はぇ……」
「でも高校生になってまさかこんな話すようになるとはね。嬉しい誤算だったなぁ、本当。……ねえ、俺のこと嫌いじゃないなら、俺の初恋叶えてよ」
「???」

 いや横暴すぎん? 嫌いじゃないならってことは、好きじゃなくても告白にOKしろってこと?? 十八年生きてきて初めて従兄弟の恋愛観を知って、間髪入れず急に告白される身にもなって??


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