佐久間まゆさんとボーイッシュな子
私は、自分があまり好きではない。高い背に、凹凸のない胸、薄い唇に、真っ黒な髪。全くもって可愛らしくない、男のような体つきと、愛想のない顔。癖で少しはねる髪も嫌だ。こういったら失礼かもしれないが、どうせなら天然パーマぐらいふわふわと可愛らしければいいのに。いやだいやだいやだ。可愛くない。女の子らしくない。ハートもフリルもリボンもピンクも似合わない姿形。男の服を着てと言われるその甘い声にも憧れるんだよ。君みたいな女の子らしい可愛い服が着たい。そんな服が似合う可愛らしい女の子になりたい。なりたかった。なれなかった。
「はじめまして。佐久間まゆです。これからよろしくお願いしますね」
「はじめまして、みょうじなまえです。よろしくお願いします」
佐久間まゆちゃん。可愛くて、リボンが似合って、ピンクが似合って、フリルが似合って、女の子らしい女の子。私とは正反対の、背の低い、甘いカプチーノみたいな髪色、ふんわりとした胸の、可愛らしい瞳と熟れた林檎みたいな唇に……全てが羨ましくて、憧れる。
今日は雑誌の撮影の日。それなりに背も高くて、顔もまあまあな私は、男のモデルと撮ってファンにひどいくらい騒がれる女の子のアイドルと組むことが多い。私も一応は346プロダクションに所属しているけど、可愛いことをするのが苦手と言っているため、モデルや俳優の仕事が主だ。可愛い服や人に憧れは馬鹿みたいに抱くが、それが自分にはふさわしくないということは重々承知していることだから、断っている。たまにくる、カッコいい私を可愛く変身させてみよう、みたいな企画があるが、あれ以上受けたくない仕事はない。今まで積み上げてきた“みょうじなまえ”という像が崩れる上に、笑い者にされるだけ。カッコいい私を求めるファンには、一番いらないもの。だから私は、モデルや俳優と言った嘘のつきやすい、本当の自分の見えない仕事を選ぶ。バラエティにも、あまりでない。それでいい。それが、私に求められていることだから。
「みょうじさんも、346プロ所属なんですよね。私、資料をもらうまで気づいていませんでした。ごめんなさい」
「いえ、佐久間さんもお忙しいと思いますし、部署が違えばすれ違うこともほとんどないくらい、あそこは大きいですから。気にしないでください。名前も、苗字じゃなくて、呼びやすいように呼んでもらって構いませんから」
「すみません、それじゃあ、なまえちゃんで。私も好きなように呼んでください」
まゆちゃん、と呼んでみたくなった。少しだけ口を開いて、息を飲み込み、口を閉じる。私には似合わない。それは私らしくない。私には求められていない。
「撮影の準備おねがいしまーす」
「はい。それじゃあ、行きましょうか」
ふわふわとしたスカートが、目の前で揺れる。今日の撮影のテーマは、やっぱりカップル。ああ、私も可愛らしい服が着たい。女の子らしく笑ってみたい。男の人に優しく扱われてみたい。やっぱり私はどうにも吹っ切ることができなくて、女の子に憧れたままでいた。
「なんだか恥ずかしいですね。なまえちゃんは女の子なのに……」
目の前のまゆちゃんの頬が、ほんのりと赤く染まる。ああ、女の子だ。可愛らしくて、弱くて、儚くて、触れたら綺麗な花弁が散ってしまうような。
「私は慣れてるから、あんまり気にしたことなかったな。そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」
何も言えない。本当のことなど何一つ。嘘をつくことしかできない私。
「なまえちゃんは、どうして346プロに?」
「スカウトされたんです。最初はアイドルになる予定だったんですけど、可愛いことが苦手なんで、こういう路線に」
「そうだったんですか。私の友達も、なまえちゃんかっこいいってすごく言ってますよ。
「ほんと? 嬉しいなあ」
一緒に絡みながら撮って、次は一人で。自分の番はもう終わったから、まゆちゃんの撮影をぼ〜っと眺めてる。ずっと前に、まゆちゃんを雑誌の表紙で見たことがある。読者モデルの頃のやつで、まゆちゃんはすごく可愛かった。