長門とお別れ
私たち艦娘は、深海棲艦という敵をすべて倒した。とうとう私たちの望んだ平和で、幸せで、誰もが笑っていられる世界が来たのだ。

「もう、私たちはお役御免だな……」

そう、提督に言葉をかけると、彼女は俯いていた。どうしてなのか、深海棲艦を全て倒せるという話が出てきた時からこの調子なのだ。いつもは明るく私たちに元気を与えてくれるというのに。いくら敵がいなくなっても、提督がこの様子で、調子が狂うと思っていると、

「長門!」

陸奥に呼ばれた。まさか、まだ敵がいたのかもしれないと砲撃の準備をしながら振り返った。

そこには涙を流している陸奥がいた。嗚呼、なんだ、そんなに平和な世界がうれしいのか、他にも泣いている仲間は沢山いるのかもしれないなと思うと引き締めていた気持ちが息を吐くとともに肩の力と共に抜けた。

「どうしよう、ねえ。私たちこのままじゃ!」

 きえちゃう」

どういうことなのだろう。静かな海になったのではないのだろうか。なぜ、消えなければならないのか。陸奥に肩をゆすられながら私は雲一つない真っ青な空を映した真っ青な海をぼんやりと見つめた。何も聞こえない。そうだ、これは夢なのだ。深海棲艦との長期戦で私は疲れ切って可笑しな夢でも見てしまっているのだ。そういえば相討ちのような終わり方をしたから早く入渠しなければ。

「ねえ、提督! たすけてよ! 私達これから先どうなっちゃうの? ねえ! 答えてよ!」

「ごめんなさい」

2人の話声で私は現実に引き戻される。

「ずっと前から言おうと思っていたの。深海棲艦が消えれば、艦娘の皆が消えちゃうって。
でも、信じたくなかった。そんなことないって! 皆が平和な海で笑って過ごせるって思ってた!
やだ! やだ! やだよ、いやだよ。皆と離れたくない! 消えないでよ! さよならなんてやだよぉ。」

嗚咽をもらし、涙が彼女の頬を濡らす。そんな彼女はみっともなくて、とても美しかった。

「なあ、提督」

「私たちの繋がりとはどのようなものだと思う?」

彼女は私の言葉を聞いて首をかしげた。

「仲間、だろう? 消えたとしても、この心は共にある。目に見えないものはたくさんあるんだ」

提督に縋り付き助けを求めていた陸奥はいつのまにか消えてしまった。もう、戻ったのだろう。さあ、次は私の番だ。私が消える番だ。

「さよなら」

深い深い水底にいる。淡い光が私を照らし出す。暗いこの海で私は提督の事を思い出した。彼女の笑顔を思い出しながらゆっくりと眠りについた。