涙じゃない雨粒だよ、泣いてるって証拠でもあるの
 私たちが通う、大洗女子高校は廃校の危機に晒されていた。“戦車道全国高校生大会で優勝すること”を条件に学校がなくなることを阻止しようと今まで努力してきたのだが、運も実力の内っていうのは本当なのかもしれないと、私は思う。もちろん、西住流派のみほちゃんは確かな実力であることには代わりはないけど、何年間も戦車に寄り添ってきた他校の生徒に、一年も経たない私たちが勝てるなんて、運以外に何があるというのだろうか。
「……夢?」
 目の前の大きなモニターに私たちの高校が勝ったことが記される。いくら運が良くても、限度ってものがあると思うし、私はまだマウスを倒したあとの達成感に包まれたまま、眠っている可能性があるのかも。
「なまえちゃん、どうしたの?」
「あ、柚子ちゃん、ほっぺた、つまんで」
「べ、べつにそれぐらいならいいけど……体調が悪いんだったらすぐに言ってね、桃ちゃんの無茶苦茶な砲撃のために装填してたんだから、ちょっと心配だよ」
 私の心配をしながらも、それなりの強さで頬を可憐な指で挟む。痛い。どうやら夢じゃないようで、不意に涙が溢れそうになる。
「私たち、ほんとに勝ったんだ」
「そうなんだよね、ちょっと、わたしも信じられないや……」
「学校、なくならないんだよね。明日もまた、登校できるんだよね……」
 今朝は、学校に来ることが怖くて怖くて仕方がなかった。もしもこの試合で負けてしまったら、学校に行くという目的でこの通学路を歩くことがなくるのかもと思って。一歩一歩を噛み締めながら歩いていたら、学校に遅刻しそうになったけれども。
「うん、優勝したから、戦車道連盟の人も許してくれるよ……!」
「そっか、そっかあ……」
「……なまえちゃん、泣いてるの?」
 柚子ちゃんはけっこう鋭い。別に私がわかりやすいとか、そういうわけではないって思いたいっていうのもあるけど、人の気持ちの変化に敏感だ。
「そんなこと、ないし」
「ほっぺたに流れてる涙はどう説明するの?」
 そんなに優しい笑顔で問われたって、泣いてるって認めない。高校生にもなって人前で泣くなんて恥ずかしすぎるもん。
「これは、雨がさっき振ってたから……柚子ちゃんだって涙声だよ?」
「今日の天気は快晴だったのに? それと、私だって、泣いてないよ」
 お互いに、顔を合わせる。柚子ちゃんの頬には涙が伝っていて、きっとそれは私も同じ。不意に笑いがこみ上げてきて、吹き出してしまった。
「もう、笑わないでよ、なまえちゃん」
 そういいながらも、柚子ちゃんだって笑っている。明日も、明々後日も、私たちが卒業する三月まで学校が残っているのだと思うと、嬉しくてしかたがない。
 遠くから、私たちを呼ぶ声がする。この声は会長かな。桃ちゃんは号泣しているだろうし。
「柚子ちゃん、表彰だって……行かなくちゃ」
「うん。写真撮るから、泣いちゃダメだよ?」
「わかってるよ! 柚子ちゃんも、だからね」