渇いた頬にキスをして、濡らしてやりたかった
 私となまえの出会いは二年前の事になる。脱兎の如く監視役から逃げていた私だが、敷地内には隠れる場所はあまりない。木陰に身を隠しながらどこか安全な場所を探していた私に手を伸ばしてくれたのが、なまえだった。
 軟禁状態だった私は、デュエル仲間というものはオベリスク・フォースの奴らだけだったから、なまえとのデュエルはとても楽しく、お互いが切磋琢磨して成長していたと今なら思える。けれどもその頃は、私だけ、なまえのことを好きでいたように感じて苦しかったのだ。なまえには好きにデュエルができる者がいるだろうし、一緒に買い物や生活を楽しむ友もいるのだろう。しかし、私には自由がなかった。だから、なまえしかいなかった。好敵手と呼べるデュエリストも、幸せをわかちあう友達も、私を私として見てくれる人も。

だから、なにも言わずにいた。やめてほしいと言われたら、私は頷いてしまいそうで、ギリギリまで黙っていた。
「なまえ、私はスタンダード次元に行こうと思う」
その日まであと数日という時に、私はなまえにそのことを話した。一度決めた事をやり遂げないなどといった根性のないことをするつもりはないし、ここまできてしまえば行かないとも言えない。それでも心の片隅には、なまえに引き止めてほしいと思っている自分がいる。
「……な、なにそれ。そんなこと、できるの?」
「デュエルディスクがあれば簡単だ」
「そっか……まあ、いつか行くとは思ってたよ。セレナはプロフェッサーからの指示を待てるほど辛抱強くはないしね」
わかっているのだ。なまえが、私のことを止めやしないのだと。
「すまない。お前を置いていってしまうのは、私も嫌なのだが、お前を誘ったとしても一緒には来てくれないのだろう」
「後数ヶ月後に行く、ってわけじゃないんでしょ? 私にだって準備とか色々あるから、今言われても行けない、かな」
「だろうな。もう決まったことだ。この機会を逃して仕舞えば、何時になるか……」
「……スタンダードだったら、セレナと一緒に美味しいスイーツ食べれたり、可愛い洋服選んだりできたのかな」
きっとスタンダードは、この融合次元よりも平和で、幸せなところなのだろう。もちろん、ここだって素晴らしい次元だが、あいにく可愛らしい女の子が好きな店などはデュエルアカデミア周辺にはほぼない。絵本や小説、映画なんかの娯楽で見るような女の子らしいことが私たちはしたいと、いつの日か話したのだ。全てが終わった後に。
「いつか、行きたいな」
「うん」
「……私は、強さを見せつけて、お前とエクシーズ次元で闘えるようにしてくる。だから、待っていてくれ」
「私も、エクシーズでデュエル磨いてくるね」
「……ああ、お前とのタッグデュエル、楽しみにしているからな!」
私のために、泣いてくれ。いかないでと、言ってくれ。そうでなければ私は、こうして強がることしかできないのだから。