出来損ないの泣き顔を、わたしはずっと持て余してた
マシュ・キリエライトは、自己犠牲が激しい。デミ・サーヴァントという人間の器に英霊を入れたもろく壊れやすい存在であるにもかかわらず、すぐに誰かを守ろうとする。確かに、マシュは盾を使う防御力の高いサーヴァントだが、耐久が無限にあるわけではないし、頻繁に戦闘不能になってしまう。
私達カルデアスタッフにとって、マシュたちは希望で、彼女たちがいなければ人類が滅びゆく運命を変えられない。それでも、どうしてこんな風になってしまったのか、いつだって考えてしまう時がある。マシュは、カルデア局員であったのにもかかわらず、英霊と融合してしまった。普通に考えて、人間という生き物が、人類を救うために本方するなど、無理に等しい。それに、只の人間だったはずの彼女が、世界一周の旅をした者や、たくさんの逸話を作ってきた者達と戦うなんて、精神はとうに尽きているような状況に陥る。きっと、通常の七騎の英霊たちとの聖杯戦争ならば、マシュは諦めていたのだろう。だが、人類史を守り、世界を救うというその大きな使命によって、今は突き動かされている。

「んっ……あれ、ここは……」
カルデアの医療ベッドの上で、マシュは起き上がる。どうやら身体が動かないらしい。最近は激しい戦闘続きだったから、それが堪えたのだろう。
「医療ベッドだよ。戦い過ぎだから、マスターも休めって」
「先輩が……そうですか……」
きっと、マシュのことだろう。彼女に迷惑をかけた、なんて考えているのだ。そんなこと、彼女だって、ロマニさんだって、ダ・ヴィンチさんだって思わない。そのくらい、みんなマシュが頑張っているのは知っているのだ。
「大丈夫だよ、そんなに気負わなくたって。それに、頑張りすぎて途中で倒れちゃったら元も子もないよ。休息も大切なんだから、ね?」
「そうですね……今日はすこし、ここで眠らせてもらいます」

「マシュはさ、つらくないの?」
「なにが、ですか?」
「こうして、戦って、誰かの命を消してしまうこと。もちろん、マシュ達がやっていることは、この先の未来のための、人類を守るためのことだって、その特異点が消滅してしまえば、そこであったすべての物事もろとも消えてしまうんだって、わかっているんだけどさ」
この閉鎖的なカルデアの中で、私たちスタッフはマシュ達の聖杯探索をずっと見てきた。もちろん、通信障害とか、個人の仕事があるため、全てとは言わないがそれでも戦闘やその場所に召喚されたサーヴァントとの出会いなど、たくさんのものをモニター越しに共有してきた。わかりきっていることだが、聖杯探索という名の、戦争をみんなしてきているわけで、見ている立場の私からでも、やるせない気持ちになることがなんどもあったのだ。
「……たしかに、はじめは戸惑いましたし、怖かったです。でも、先輩、ドクターや、今までの特異点で関わったサーヴァントの方々、なまえさん達のおかげで、私がやるべきことがわかったんです。それに、世界から記録として消えたとしても、私達の記憶には残っています。意味のないことなんて、ありません。それと、私は、この世界が好きだから、あの人が、委ねてくれたから、進むしかなない、進まなくちゃいけないんです」
「そっか、マシュは強いね。こういうふうなことは、あんまり言わないほうがいいんだろうけど、私は信じてるよ。マシュたちなら、私達の未来を救ってくれるって」
「ありがとうございます。なまえさんにそう言っていただけると嬉しいです」
ぐっと、涙をこらえた。マシュは、あの子との聖杯探索で心までをも強くし、こんなにも優しく笑えるようになったのだ。私がここで泣いて、困らせたって何の意味もない。マシュの笑顔を引き出せたのが、私じゃなかったからって、そんなことで泣いたって、虚しいだけだよ。
「こんなにもたくましい後輩に育って、私も嬉しいよ。聖杯探索に向かえない私たちは、この場所からサポートしか出来ないけど、全力でやるから。だから、安心してね。それじゃ、おやすみ」