菊地真生誕祭2015
劇場のドアを開けると、いつものように小鳥さんがいた。プラチナスターライブも成功し、全国を廻っているボクたち765プロは大忙しで、劇場には夕飯時だというのにまだ数人しか帰っていない。
「真ちゃん、おかえりなさい。」
「うん、小鳥さんただいま。プロデューサーは?」
今日はプロデューサーとみんなで花火をする予定だ。この時間には劇場に帰ってきていると連絡があったのにどこにもいないので心配になった。
「それが、少しトラブルがあったみたいで、まだテレビ局にいるそうなの」
やっぱりか、まあ予想はしていたけど。
「そうなると、このあとの花火どうなっちゃうんでしょうね?」
「ま、もともとみんなが集まる時間はもう少し後なんやからそこまであわてなくてもいいやろ!」
軽くボクの背中を押しながら奈緒は笑った。
「まあ、そうだね。みんなが帰ってきたらすぐに始められるように、先に準備しちゃおうか!」
そういいながら、机の上に置いてあった薄っぺらい手持ち花火を掴む。
恵美はバケツを、昴はロウソクとライター、奈緒は手筒花火とよばれるものを持つ。
小鳥さんが手にしている一眼レフは気にしないでおこう。
*
表に出て、花火をしてもいい安全で広い場所に向かう。
懐中電灯はあるけれども、ロウソクの灯りはとてもきらきらしていて、みんなのように思えたから、ボクはロウソクの灯りを頼りに目的地まで歩いた。
少したって、足音と笑い声が聞こえると、この場にいるボクたちの口角も自然と上がって穏やかな雰囲気になる。腕時計の時間を見ると、きっかり予定の時間を指していて彼女らしいなと思った。
「遅くなっちゃてごめんね」
そう、プロデューサーは頭を下げた。
「いえ! 大丈夫ですよ。それよりも早く花火はじめちゃいましょう!」
「そうだね、みんなでやるから、追加のも買ってきたんだ」
そういうと、袋から大量の花火が出てくる。すると皆は好き勝手に自分のやりたい花火を手に持った。
律子が、火傷と大騒ぎはしないようにと呼びかけると、花火をしたくていても立ってもいられないというような返事が返ってくる。困った顔をした律子を見ながら、プロデューサーの隣りに腰を下ろす。
カラフルな火花が飛び散り、劇場の皆の顔を照らしているのはとても幻想的で、見ているだけでも飽きなかった。
それはプロデューサーも同じだったようで、強風でロウソクの火が消え、あたりが暗闇になるまで気付かなかいままでいた。
「ライター持ってる人! ロウソクにつけてくれない?」
「今行くから、待ってて!」
このみさんが返事をすると、こちらに駆け寄ってきた。
「はい! ついたわよ。」
このみさんはタバコを吸っていないから手馴れているような火のつけ方ではなかった。
「ねえ、真」
「どうしたんですか? プロデューサー」
プロデューサーは袋から線香花火を取った。
「どっちが長くもつか、勝負しない?」
「いいですよ! 絶対に負けませんからね!!」
絶対に勝ってやろうと意気込みながら、ロウソクの炎に線香花火を近づけた。
「キレイだね、真。」
バチバチと音を立てながら輝きだす。
沈む夕日のような光が彼女とボクの顔を照らし、染め上げてゆく。
「プロデューサーも、綺麗ですよ。」
「お世辞なんて言わなくていいのに。」
そういいながらも、耳が赤くなっている彼女を見て胸がときめいた。
線香花火の火の玉が落ちないように注意を向けていると、彼女がこちらを向いた。
「真。」
「なんですか? あっ、プロデューサーの落ちちゃいましたよ?」
花火を持っている右腕は動かさないようにしながら、彼女を見る。
時間が止まっているような感覚だった。
彼女の綺麗な瞳が、目の前にあって。
「誕生日おめでとう。」
聞こえなくなった花火の代わりに、時計の針が動く音がした。