ぼくに愛された自分を呪って

メルティ・ファングの設定っぽい。


 夜も更けてきた頃、なまえの部屋にはとある客人がやってきていた。
「なまえさんは知らないだろうけど、人間の血なんかよりよっぽど野菜ジュースの方が美味しいんだよ?」
「そうなんだ……知らないや」
 高いヒールを履いたままカーペットを踏みつける細い脚。ゴシック調のドレスを纏い、部屋主の椅子にふんぞり返っているのは、ヴァンパイアであるモモコだ。彼女はこの頃夜中になるとなまえの家を尋ねてはヴァンパイアとしての威厳を見せながら話をする。人間界は魔界と違って軟弱なものが多すぎるとか、電車なんていうものは人が移動に用いるものじゃないとかなんとか。なまえは彼女がなんのために部屋を訪れるのか全くわからなかったが、邪険にすることはなかった。
「貧血の人のはも〜っとまずいからなまえさんは吸血されないね」
「それならよかった。これ以上血がなくなったらもっと悪化しちゃうから」
「……なまえさん、なんでそんなに呑気なわけ」
 モモコは今までとは打って変わって険しい表情になった。なまえは今まで楽しく会話していたのに、どうしてモモコが怒っているのか見当もつかない。そのため、ただ黙ってモモコの顔を見るしかなかった。
「最近ここら辺で行方不明とか、道端で倒れている人とかが多いでしょ。それ全部ヴァンパイアの仕業なんだよ。いつもなまえさん、帰り遅くて……夜のこの街は危険なのに……」
「モモコが人間の血はまずいって言うから」
「それは、モモコが特異体質なだけで、本当はヴァンパイアは血が好きなの。だから……!」
「私のこと、モモコは守ってくれないの?」
 なまえは当然のことのように言う。モモコは自分がなまえのことを気に入っているのが見透かされているようで癪に思うが、ヴァンパイアとは違って頭の悪い人間なんかにモモコの考えがわかるわけない。足を組み替えてモモコよりも低い位置にある瞳をみつめる。
「モモコだって暇じゃないんだよ。毎日なまえさんの面倒なんて見れないけど……」
「けど?」
「……気が向いたら、一緒にお家まで帰ってあげる! モモコが直々にこんなことするなんて珍しいんだから、感謝してよね!」
「うん。ありがとう」
 なまえはモモコに従順だ。人間は崇高なヴァンパイアに従って生きていれば幸せなんだから。ヴァンパイアはまたくだらない話をして、人間の部屋で夜を明かす。

title by 毒と魚