少女の旋律を追え
「今日は私の奢りで」
久々に中学の時に仲の良かった浅倉透というひとと遊んでいた。浅倉は、なんというか抜けているひとで、財布を忘れたりICカードを忘れたり、予定をすっぽかしたりブッキングさせたり、面が良いというだけで結構なことを許されてきたような人間だ。これは……言い過ぎかもしれない。
まあ、そんな人が急に奢るとか言い出すから、私は驚いてしまったのだ。いつも財布ないとかあっても金が入ってないとかで私がなけなしのお小遣いを文句言いながらふたり分使っていたのに。
「急だね」
「んー、そう?」
「今まで君に奢られたことないんだよな」
「え、そんなことないよ。たぶん」
「あいまいじゃない」
変わったのかもしれない。というか、実際に浅倉は変わっている。高校に入って、相変わらず幼馴染とは一緒らしいけどアイドルになったと言っていた。テレビはあんまり見ないからわからないけど、誰かがストーリーに浅倉の綺麗な写真をあげてた気がする。それと、大切な人に再会したとも話していた。
「もう出るか」
「バイトなんでしょ、この後」
「そうそう。接客接客」
「難しそうじゃん」
「アイドルよりは簡単じゃない?」
「全然……変わんないよ、学校と」
「嘘つけ」
表情を変えず、なんてことのないように浅倉は言う。アイドルのほうが大変だろう。運動神経はまあまあだけど、音楽はまったくダメだから私は無理だ。
「私だったら歌もダンスも壊滅的だから」
「べつに、どうにかなるよ、歌えなくても、踊れなくても」
「まあ、浅倉なら顔だけでいいとこまでいけそうではあるか。その分、化粧もスキンケアもヘアケアも努力しなよ」
「……なるほど」
伝票を持って席を立つ。ランチでもディナーでもないから、結構空いてる。今日のバイトは混むかな〜なんて考えてると、浅倉がなんかうきうきしながら鞄に手をつっこむ。
「それ……」
「新しくしたんだ、財布」
浅倉が取り出したのは、マジックテープ式の財布。レジ前で、バリバリと特有の音が響く。こんな顔してて、財布がそれかよ。なんて思ったらめちゃくちゃ笑えてきた。
「ふふっ……めっちゃいいね」
「でしょ」
そういや、ハイブランドでマジックテープ式の財布が出ていたのをインスタで見たな、なんて思い出す。今年のプレゼントはそれにしようか。
title by すいせい