堀裕子の超能力

シンデレラの子たちの年齢などを完全無視した学パロです。キャラ崩壊やらCPやらあるので苦手な人は注意してね!




「今日のあなたの運勢は最低最悪。家の中で歩けばたらいが落ちてきて、町中に出れば消化器を掛けられ、学校や職場に行けば生卵が数十個当てられるでしょう。全て故意によるものではありませんから、余計にたちが悪いです。一切出歩かないように!!」
 私は、特に占いというものを信じるような性格ではない。友達に盲目的に信仰している人がいるから、普通の人よりは距離をおいているのかもしれない。だが、今日の運勢は少しおかしいと思った。可愛く微笑むアナウンサーのコメントを聞き、いやもうそれ最低最悪とかそういう枠外のものでは? と考えながら、ローファーを履いて玄関で立ち上がれば、上からたらいが落ちてきた。痛い。すごい音がした。絶対これ脳細胞三百個ぐらい死んだ。また馬鹿になったじゃん。
「……いってきます」
 占いっていうのは、それを信じれば信じるほど自分の生活に影響が出るのだ。今日は積極的に攻めようと言われて新しいことにチャレンジしてみればそれが成功したりするのは、別に占いに頼らなくてもあること。成功するんじゃないのかって言われて、背中を押されたから良い方に転がったんだ。それに、今日の運勢だって出歩かなければ被害が最小限になるのは当たり前すぎる。外に出ないんだから運勢の悪さだって自分では実感できないから。
 と、思っていたらいきなりすごい勢いで水が自分にかかった。
「つ、つめたっ!?」
 十二月という新しい年を迎える準備をする月は都内だとしても気温は低い。びちゃびちゃになった制服と髪の毛は冷たい北風に吹かれさらに体温を奪っていく。
「あ、すみません。タオル持ってきますね」
「ありがとう、ございます」
 綺麗な黒髪のお姉さんが小走りでお店の奥に入っていく。色とりどりの花々に囲まれながらもずぶ濡れの私とは大違いな華やかなオーラーをまとっていた。そういえばここ、花屋だったな。
「ごめんなさい。今から学校ですよね。ご自宅まで車、だしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。学校に行ってから着替えるんで」
「すみません。よかったらこれ、どうぞ」
 そういって、お姉さんがタオルと一緒に私に温かいお茶のペットボトルを差し出してくれた。優しさが冷えた身体にしみるぜ。
「ありがとうございます。お仕事、頑張ってください」
 これでお茶じゃなくて花束とか渡されちゃったら今後このお店は使わないでおこうと思っていたんだけど、とっても優しくて気を使ってくれるお姉さんでよかった。次に花を買う機会があったらここに頼もうと思う。
「……さむい」
 それにしても、思いっきり常温と言う名の冷水が制服を重たくしているわけなのですが、私は占いを信じていないのでたとえ電車に乗っても悪いことが起こるとは考えていません。これはただ、私が運が悪かっただけのことなのです。
「火事ですよっー!」
 え、なんて思った瞬間にはもう遅かった。制服に染み込んだ水分にくっついてきたそいつは、消化器。粉末消火器。
「ごめんなさい! ちょっと火災訓練をしていて……」
「あ、全然、気にしないでください。家すぐ近くなんで」
 相方の警察官? のお姉さんが私に誤ってくれたが、消化器を持ったお姉さんもすぐに人にかけていることに気づいたのだろう。だが、私は既に真っ白になっていた。はらえば落ちるかな、なんて思っていた私が馬鹿だった。そいつはどうやらブレザーに余計に粉をすり込ませていたようで、洗濯しても落ちるかどうか怪しくなってきた。ヤバイ。怒られる……真っ赤な嘘をお姉さんに言ってしまったが、本当は結構時間がかかる。制服汚れてるし、流石に遅刻してでもいいから家帰ろうかなあ。そう思ったんだけど、どうせこの後も不運に見舞われて制服が汚れるんだ、今日は比較的早めに来たから、駅のトイレで少し汚れを落として水泳部のシャワーを借りればいいでしょ。学校に体操服も置いてあるし。なんならジャージも置いてあるし。うん。そうしよう。全然占いのせいなんかじゃないんだからね。ちょっと運が悪いだけなんだから。

 私は無事にホームルームが始まるよりも数十分早く学校についていた。電車でのいたたまれない視線は死ぬほどつらかったけど、学校に来たからにはもう安心だ。早くジャージ取りに行こう。って思うじゃん? でも私は今世紀最大の厄日にぶち当たっていたわけで、最低最悪の日だったわけで、まあ事故が起こりますよね。
「ひっ……!??!!」
 一瞬息が止まった。喉奥が閉まって、呼吸をするという日常的な行為を忘れてしまうほどの驚き。それなりに可愛いチェックのスカートが湿った土に押し付けられる。私はそれなりの深さの落とし穴に落ちてしまったのだ。普通に浮遊感が怖すぎて固く目を閉じていたわけなんだけど、結構高いところから落ちたらしくお尻が痛すぎて瞼が上がってしまった。痛え。痛みに耐えながらも狭い穴を見渡すと、それはもう芸術としかいいようがなかった。だって正方形としか言いようがない綺麗な穴なんだよ!? というかなんで綺麗に整えられた階段までついてんだよ!? なんだよこれ……なんで学校にこんなのがあるんだよ……
「き、き、きっ、貴様!!!! 我らが、我らが城にどのような、り、理由があって訪れたのだ!?!?!?! ただのからかいならば、今、今すぐ、今すぐ出て行くほうが、身のためのだと言っておく!!!!」
 さっきまでは全く気づけなかった木製のドアから、縦ロールっぽい銀髪のゴスロリ少女が出てきた。扉の奥には薄暗く、なんだか危ない雰囲気がただよっている。一体ここは……文芸部? 
「こ、ここって、文芸部、ですか?」
「……我らは地に落ちた世界をもう一度救い出すために、この場所で出逢った。ま、まあ、世に身を隠すためその名を使ってはいるが……はっ!! ま、まさか貴様は運命に導かれし、我が同胞……!?」
「あ、いえ。違います。ごめんなさい。部活動の邪魔しちゃって」
「い、いや。別に……そうか、貴様もまた、人違いだったようだな……すまない」
「ひ、人探しですか……がんばってくださいね」
「ああ! 我らと魂を分け合いし者は必ずこの場所へと集うことは、もうわかりきったことだからな! 今はただ、我らはその瞬間の為に、この翼を休めるだけだ」
 しっかりと固められた階段を踏みしめながら、地上へと足をすすめる。何度も何度も、この階段を使っているのだろう。ちょっと不思議な言葉遣いだけど、なんだか大変なんだなあ。人探しのために、こんな朝から学校に来ているんだから。

「美波せんぱ〜い。おはようございま〜す」
「あ、なまえちゃん。おはよう。珍しいね、こんな朝からくるなんて……って、どうしたの? その格好」
 あ、そういえば今、粉末消火器まみれなんだよな。普通の人とは違うような格好をしていたから誘われたのかな、あのゴスロリちゃんに。というか、うちの高校校則ゆるすぎるでしょ……。
「いやあ、ちょっと運が悪くてですね〜」
 美波先輩以外は誰ひとりとして水泳部の朝練に来ていないから、というか水泳部は朝練を許可されていないから他の部員は誰もいない。そのため、私はシャワールームからプールサイドの美波先輩に大声で返事をする。二人しかこの場所にいないからこそできる行為だ。
 それより、制服、洗ったほうがいいのかな。というかマジで真っ白だ……。洗うんなら早いほうがいいよね。いや、寒いし先に体温めてからのほうが風邪も引かないか。
「あれ……でない?」
 いくら捻ってもお湯が出てこない。ここには何度も通っているが、未だに仕組みとかはわからないし、部員でもないから知らなくてもいいかと思っていた。だから、今は美波先輩を呼ぶしかない。
「みなみせんぱーい……!?」
 ガチャリ、なんて扉の開く音がして、びっくりして振り返ると美波先輩の相棒といっても過言ではないような天文学部のアナスタシア先輩がいた。
「あ、あなすたしあせんぱい、ってきゃああ!!!!」
 女の子同士でも裸の付き合いは慣れない私は、鍵をかけていたはずの扉を見つめながら大事なところを隠す。アナスタシア先輩といえば、イズヴェニーチェと、確かロシア語で謝る言葉を使いながら、少し残念そうな顔で個室から出ていった。大方美波先輩に会いに来たのだろうけれども、アナスタシア先輩と美波先輩は普段からこうしてシャワーを浴びている個室に入るような中なのだろうか……!? まあ男の人じゃなくてよかったと思っておこう。私たちの通ってる学校は女子校だから先生ぐらいしか男の人はいないんだけどね。

***

お昼休み、案外普通に過ぎていった午前中の授業のことを考えながら、これからも安全な一日でありますようにと願う。いつも通りに友達の裕子のクラスに足を運ぶと、裕子がスプーンを持っていた。。
「むむむむむ〜んっ!!!」
「また朝からやってたの?」
「はい! 起きたときからこう、ビビッと今日はできるって気がしたので! 流石に授業中とかにはしませんでしたけど、短い休み時間だとあんまり集中できませんね…… はぁっ!!!」
「いった!?!?!?!」
 裕子が持っているカレーを食べるようなスプーンに力を送ると、私の頭に衝撃が走った。遠くの方から謝る声が聞こえてくる。足元にはバットがあった。いや、おかしいでしょ。普通そこはボールでしょ。バットは流石に脳細胞が四桁死ぬって。というか脳細胞って一度死んだら生き返らないって聞いたんだけど、そしたらやばくない?
「うう、曲がりませんねえ。む〜んっ!!!」
「あっつ!?!?!?!?」
 まっすぐに天井に伸びるスプーンを見つめながら、また裕子は力を送る。すると、今度は私の肩がとても熱くなった。
「わわわわ!!! ご、ごめんなさい。熱かったですよね!?」
 どうやら私の肩にはココアがかかったみたいだ。缶のココアを持っている同じクラスの島村さんはめちゃめちゃ頭を下げているんだけど、自分の教室のロッカーに私は今すぐタオルを取りに行きたいんだよね。というか、裕子の超能力を私は偽物だと思って放っておいたが、今日に限ってそれが本物になっているらしい。いや、今までの日常でも私が被害を被らなかっただけで、他の人や物が裕子の超能力の力を受けていた可能性も……!
「裕子、あんた超能力使えたんだね……! 今まで疑ってた私が馬鹿だったよ。だからさ、ね。今日のところはもうスプーン曲げるの、やめにしようよ」
 裕子の超能力の凄さを目の当たりにしながらも、私は心身ともに披露していた。もう披露とストレスしか頭になかった。すっごい疲れていたし、すっごい身体が痛いし、もう裕子と付き合うのをやめにしようかなと考えたぐらいだった。
「いや!! 今日は絶対に曲がるんです! 曲がる気がするんです! だから曲がるまでやります!」
 ただ一身にスプーンを見つめながら力説する裕子。もう君には超能力者としての力が宿っているんだからそんなにスプーンに執着してもいいじゃないか。だいたい全ての超能力者がスプーンを曲げれるわけではないし、なにより超能力者にだって得意不得意があるはずだ。裕子はただ単にスプーンを曲げる念能力がそこまで得意じゃないってだけだよ。だからさ、本当に今日はこのへんで勘弁してください。
 もう私は、これ以上裕子の超能力の被害をうけるのは懲り懲りだった。とりあえず安心して保健室に行ってやけどした所とバットぶつけたところを冷やして寝たかった。ただそれだけのことだったのだ。
 深呼吸をする。スプーンを曲げることだけに裕子は集中しているのだから、そこからその超能力の対象のスプーンを奪うことはとても難しいことだ。だが、こうも堅い意思をもった裕子が今日のスプーン曲げをやめるわけがないし、もう私に残された道は力技しかなかった。ごめんね、裕子。これもすべて君の超能力がすごすぎるからなんだ。許してくれ、裕子。
「あ!?」
 肩を叩いて、裕子に用事がある用に見せかけて力の抜けた手からスプーンを奪う。計画は完璧であった故に、大成功だった。もうこれ以上超能力を使われませんように、なんてお願いしながら、私はそのカレーを食べるようなスプーンを力に任せて真っ二つにした。流石に保健室にスプーンを持っていくのはどうかと思ったからね。カレーを食べることにも、超能力を試すためにも使えなくなったスプーンの残骸を、そっと自分の机の上に乗せる。前の席の委員長に、体調が悪いから保健室に行くと、一言断って私は教室を出た。もう絶対占いなんて信じないし、見ないからな。今度裕子のために超能力の本でも買っておこう……。

そう思ったんだよ。
「……は?」
「ご、ごめんなさ〜い!」
 上から可愛らしい女の子の声が降り掛かってきた。ついでにその数秒前には卵がいくらか落ちてきた。きっと十個パックの全てを落としたのだろう。かわいそうだけど私のほうがもっと可哀想なんだよなあ。
 その時私の上半身は黄身まみれになっていたわけだけど、真面目に泣いてしまったのだ。今まではハプニングであって故意的でないと無理やり自分を納得させていたわけだけど、流石に卵は惨めな思いにしかならない。すごくつらい。今日はじめての涙を流しながら、私は朝もお世話になった水泳部のシャワーを借りに歩き出すのだった。今日も先輩は塩素臭い場所でお昼ごはんを食べるかな。プールバカとかなんかそういうのじゃなくてもう一つの病気なんじゃないのかな。
「美波先輩、シャワー借りるね」
「なまえ? 自由に使っていいよ〜」
「ありがとう」
 改めて体操服を脱いだわけなんだけど、卵が落ちてきたって言うことは、まだ裕子が超能力を使っていることを表しているのではないかと私は心配になってきた。ま、まさか、私が力技で折ったスプーンを元の状態に戻そうと!? ……その瞬間、私は考えるのをやめてシャワーを浴びた。早退させてもらおう。そうしよう。