「おはよー」
「京子おはよう。やったね、同じクラス」
「うん!よかった。花も同じだし」
「そろっちゃったね」

春。どことなく他人事のような空気感が漂う季節。恒例行事のクラス替えは呆気なくも相も変わらずということで幕引きし、もう1ヶ月が経とうとしている。廊下の向こうが騒がしいなあ。ふっ、と目をやる先には、

「10代目!おはようございます!」
「ご、獄寺くん!おはよう」
「あはは、今日も元気だなー」
「て、てめ!10代目に馴れ馴れしくすんじゃねえ!離れろ山本!」

やっぱり、といった具合に幼なじみのツナたちの姿が見えた。彼らも同じクラス。隣にいるのはどちらも学校中の人気者である山本くんと獄寺くんだ。いつの間にかひっつき虫のようにツナの周りを獄寺くんがうろちょろし始め、いつぞや自殺を図った山本くんをツナが救ってから、あんな調子になった。
にしてもいい顔してるなあ、あの2人。

ダメツナと言われていた最近の彼の活躍は異常なほどだ。幼なじみなのに、そのわけはわからない。

「あ、おはようなまえ」
「ツナ、おはよう」
「きっ…!お前は10代目の幼なじみの!」
「おーみょうじだよな。おはよう」

なんで名前を覚えられてるんだ、と思いながらもとりあえずよろしくと返した。ツナがごめんねと申し訳なさそうに言うので大丈夫だよと言うことしか出来ない。ニコニコ笑う山本くんに比べ、右にいる獄寺くんはキッとこっちを睨むばかり。ん?と笑顔で向いてみてもその姿勢は変わらない。

「ど、どうしたの。獄寺くん」
「あ、!獄寺くんは、ちょっと威嚇する癖があるんだ!気にしないでなまえ…」
「てめえ!幼なじみでちょっと人より10代目のことを知ってるからっていい気になるなよ!」
「は、は?なったことないけど…」
「10代目の右腕は、この俺だ!」
「…ツナ、どういうこと?」
「ああ!もうごめん!今度説明するから!」
「う、うん。そうしてくれる?じゃあ」
「うん…。あ!なまえ、」
「ん?」

獄寺の意味不明な発言にひとまずこの場を去ろうとしたわたしは多分正しかったと思う。ツナと久しぶりに話したなあと思いながら別れを告げると、ツナがわたしを呼んできた。振り返るとこちらに近づいてくるツナ。後ろにいる獄寺くんの視線が痛い。もう、なんなんだ。

「今日家でご飯食べない?」
「え、ツナんちで?そんな、申し訳ないよ」
「お母さんが呼んでんだ。なまえんち、しばらくまた海外出張だろ?」
「うん。まあそうだけど…」
「じゃあうちこいよ!さっきのことの説明もしたいし…」
「そう?じゃあ行こうかな。家帰ったら、ツナの家いくね」
「う、うん!待ってる」

あ、変わってない。
ツナはにこっと笑って去っていった。その笑顔はずっとわたしが見てきたものと同じで、最近のツナへの不信感とかそういうのを一気にふき飛ばすのには充分だった。




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