「はじめまして、サラと言います」
「ーーー綺麗な顔だ。どこから来たんだい?」
「ストックホルムから来ました。本日はお呼び頂きありがとうございます。」
「堅苦しくしなくていい。どうだい?一緒に飲まないかい?」
ぎろりと気持ち悪い視線を笑顔で返す。某大手企業のパーティー会場。偶然を装って、ターゲットに近づく。相手は表向きはおもちゃ会社の社長だが、裏ではマフィアの下っ端を買い使い捨てのように殺すという暴挙を行う悪党である。同盟ファミリーの1人が先日やられたらしく、わたしと山本が駆り出された。ハニートラップは得意分野である。
ターゲットの腕が腰に回る。ここまでくれば任務は大丈夫だろう。
「細い体だ」
「そんなことありません、」
「ほんとだよ。ーーー壊してしまいたいな」
何を言ってるんだじじい。と思いながらも貼り付けた笑顔で切り抜ける。ここで、少しお手洗いへといってその場を離れる。あとは部屋に乗り込むだけだ。
「…あ、山本?」
「おーおつかれ。どうだ?そっちは」
「接触した。大丈夫よ、計画通り。いまから部屋に入ると思う」
「仕事はえーな。おけ、俺も向かう」
「ええ。よろしく」
「なまえ、気をつけろよ?」
「まかせて、」
山本はいつになっても、気をつけろ。と言ってくる。気を抜くなという意味もあるんだろうが、一番リスクを伴う任務をしているわたしを気にかけているんだろう。変わらずいいやつだ、と思いながら身体に隠した武器の場所を確認する。足首と内股にリボルバーとナイフ。護衛用にもう一つ、と思ったが今日は山本がいるから大丈夫だろう。最後に真っ赤なルージュをひいて会場へ戻る。
「お待たせしました、」
「随分長かったなあ。化粧直しかい?」
「まあそんなところです」
「魅力的な唇だ、ーー誰のために?」
「それはもちろん、」
あなた様ですよ?
弧を描いた唇に妖艶な笑みを浮かべれば、気をよくした相手は、部屋で話そうと提案してくる。返事はYesしかなく、汚い腕に腕を絡めあったまま会場を後にする。さようなら、あなたの命が消えるまでのタイムリミット。30分。
「さあ、入りたまえ」
「すごい広い部屋ね、」
「このホテルのスイートルームだからね。…長い夜にしようか」
片手に持っていたシャンパングラスを呆気なく抜き取られ、ベッドの上に催促される。力任せに押し倒され、この前もこんなことあったような…と一瞬思ったが状況が状況だ。そんな呑気なことを言っていられない。
「よそ見をするな、」
「あら、そんなことしてないわ」
「ふっ。強気な女は嫌いじゃない」
「女は弱い生き物よ?」
「…そうだな。俺みたいな生き物がいる限り女は一生組み敷かれとくべきなんだ、」
スーっと分厚い手が足を滑らせて、太ももから膝にかけてを何度も往復する。ぐっと、熱くなったソコを押し付けられ、いよいよ終幕の始まりだ。首に両手を絡め、顔の距離を縮める。
「わたし、知ってるわ」
「?なにをだい」
「あなたのーーー裏の顔、」
かちゃり、リボルバーを突きつけるのは一瞬だった。半裸同然の男が身につけている武器は何もなく、弱い女の方が手綱を握っている状況だ。あなたみたいな男がいる限り、女は強く生きられるの、ご存知かしら?
「ま、まて…何をする」
「裏でのマフィア斡旋。適当に選んで殺してるんでしょう?知ってるわよ」
「な、何の話だ」
「無駄よ?裏はちゃーんと取ってるから」
甘く耳元で囁いた言葉は彼の終わりを告げていた。部下を1人も連れてこないなんて、馬鹿ね。欲望に身を任せた、愚かな男。
リボルバーの引き金をひいてこめかみに一発。一瞬で屍になった男を押し投げて、ベッドから立ち上がった。ーーーあ、山本?こっちは、もう終わったよ
電話を切って、返り血を拭き取る。ドレスを赤にしてきて正解。血なのかどうかよくわからない。魅力的な色。
「…おつかれさん」
「うん。もう終わったわ」
「みてえだな。俺の出番なかったぜ 」
「そんなことない。山本がいるってわかってるから大胆に作戦を遂行できるから」
「そうか?じゃあ、いいのかな」
「そうよ。いこう?」
部屋を出ようと踵を返したその時、くっと山本に腕を引かれた。突然のことにびっくりして振り返ってみると、山本は手を掴んだまま距離を縮めた。そして何も言わずに首元の1点に触れる。
「なっ…」
「これ、また任務でか?」
「いや、これは…(獄寺だよ、ね?)」
「あんまりヒヤヒヤさせんなよ。こっちの身がもたねーからな」
髪の毛を掻き分けて、赤い痣があるであろう部分を指でぴんと弾かれる。そして頭に手を乗せて、申し訳なさそうに山本は笑う。
そんな顔、させたいわけじゃないのに。
「わたし、大丈夫だよ?この仕事もう慣れたし」
「そんなこと」
「わたしはいつでも守ってくれる人がいる、から頑張れるの。あと、守ってもらうばかりじゃ嫌だから任務も引き受ける。だから50:50なの」
「…そうじゃねーよ、」
「え?」
「もう、わかれよなあー」
はあ、っと溜息をついて、山本はわたしの肩に顔を埋めた。髪の毛が少しくすぐったい。なにが?と聞くと山本は幾分か小さな声で話し出す。
「お前が良くても俺はだめなんだよ」
「?なにが、」
「大事な女が男と2人きりになるとか任務であっても身が持たねーの」
変なとこに鈍い、とデコピンを御見舞される。さらっと何を言ってくれるんだと顔に熱が集まるが、山本の顔は未だに横にあるから見られてはいない。熱が早く散ってくれないかなあと平常心を取り戻すので必死になる。
「やま、も」
「身体は大事にしねーと、一つしかねーからな」
「そう、だね」
「そう。今度またそんなこといったら…お仕置きだな」
少し低い声で耳元でそっと囁かれる。え、山本?と思った時には少し遅く、耳元で響くリップノイズ。一瞬で下半身が疼いて、ドキリと心臓が鳴る。
「何言ってん」
「ま、そう思ってるのは俺だけじゃねーみたいだし?気ぃ抜けねーな、」
「それってどういうこと」
「ん?まあ、まだなまえには言えねーな」
でも、と山本は続けて言葉を切った。急に目が合って、真剣な彼の目に逸らすことができない。
「いつでも俺のところに来てくれいーんだぜ?」
にかっと笑った山本は、中学生の時と一緒。無邪気な笑顔はこっちまで幸せにしてくれる。手を繋いで部屋を出る。他愛もないことを話して一緒にいれるだけで、幸せ。
「(いつでもって、いまも山本のところにいるじゃない)」
「(は?…それとこれとは違うだろ)」
「(?なにがなんだか)」
「(はあ…。(一筋縄ではいかねえな、 ))」
生きているだけで不幸