「海だーーーー!」
「やっぱ夏はいいやな!」
「お前はじじいか」
「焼ける…(帰りたい)」

夏だからと言って京子ちゃんに海に誘われた。暑いのはあんまり得意じゃない。山本とかハルちゃんとかは結構ノリノリみたいだけど、わたしはというと極力海の家とかでのんびりしていたいなーなんて思う。まあそう言いながら、一応水着きてきてるんだけど。

「京子ちゃんの兄ちゃん泊まり込みに来てる、んでしょ?」
「うん。ライフセーバーの手伝いみたい」
「こんな暑い中よくやるね…」
「なまえ脱がないのー?」
「だって焼ける、」
「なまえさん白いので大丈夫です!行きましょ!」
「ええぇ…」
「はいいこ!」
「ちょっちょ!」

半ば強引にハルちゃんと京子ちゃんにパーカーを剥ぎ取られてビーチに連れていかれる。あーもー直射日光だよー。なんて言っても聞きいられることはなく。

「おまたせー」
「着替えてきましたー」

「(かわいいい!)」
「おーなまえも水着かー?」

ツナが明らかに京子ちゃんを見て目がハートになっている。良かったね、ツナ。山本はわたしの水着に驚いたらしく、こちらに近づいてきた。暑いとか焼けるとかさんざん言っていたからだろう。

「本当は嫌だよ」
「まじかよ。でもいーじゃねーか、似合ってんぞ」
「お世辞をどーもー。じゃわたしはパノラマに避難します」
「おい!…ったく、一緒に泳ごうと思ったのによ、」

直射日光を遮ってビーチの上に座る。みんなは楽しそうに浜辺で遊んでいる。日焼け止め塗ったくったら私もあっちにいこうかな。徐ろに日焼け止めを出して、ぬるぬると塗りだす。全身はきついな。

「おっと上玉はっけーん」
「…はい?」
「姉ちゃん一人?俺とあそぼおよー」

突然。後ろから知らない声が聞こえた。振り返るとやっぱり知らない男の人。色黒な姿からして、ビーチ男って感じだ。

「いや、一人じゃないです。友達待ち…」
「その友達よりオレと遊ぼーぜ?日焼け止めも塗ってあげよーかあ?」
「(何言ってんだこいつ)大丈夫です、できます」
「んなこというなってー!ほらこっち来いよ!」
「ちょ…やめて、」

「なまえー?あ、すんません、そいつ俺のツレなんで」
「…っち、男連れかよ」

これはナンパだったのか、と理解しようとした時、途端に腕を引かれて少し焦る。そしたらまた後ろから山本の声がした。どうやら助けに来てくれたらしい。ヒーローかよ、と思いながらいい奴は出来が違うと思った。

「1人でいたらあぶねーだろ?」
「ありが、と。…日焼け止め塗ってたの」
「そーなのか?でも、あぶねーから一緒に行こうぜ?海いいぞ」
「ちょっとまだ塗りきれてないんだよねー…。山本、背中塗ってくれない?」
「おれか?いいぞ、任せろ」
「ありがとう、じゃよろしく」

山本に日焼け止めをわたして髪の毛を上にあげてまとめる。少しひんやりとした感触は、背中を滑りながら山本のマメのついた手のひらによって伸ばされる。ああ、野球頑張ってるんだなあ。背中からでも伝わる努力に胸が温かくなる。

「にしてもよ、こんなに白いなら少しくらい焼けてもいいんじゃねーかあ?」
「何いってんの?日焼けは女の敵ですー」
「そうか?…なまえ、ちゃんと食ってるか?」
「え?うん。普通に食べてるけど」
「細すぎだぞ!一人暮らししてっからかもしんねーけど、もうちょい太ってもいいぜ?」
「ええー、結構食べてるんだけどなあ…」
「うち、寿司屋だから今度食いにくるか?タダで食わせてやんよ」
「ほんとに?!いくいく!」
「よし、決定だな!」

日焼け止めを塗りながら注意される。夏前は食欲がわかない夏バテというやつだが、山本に言ったところでそれを理解してくれるかどうか怪しいところだ。山本はいわゆる細マッチョ系の身体なので、水着だとそれがさらによくわかる。先ほどから周りの視線がちらほらとこっちに集まっている。カップルかなあ?なんて間抜けな声が聞こえないわけでもなく、ここに山本のファンがいたら殺されてるだろうなと推測できる。

「てて、てめえら何やってんだよ?!」
「んあ?なーに、獄寺うるさい」
「うるさくねえ!何をふたりでコソコソと…!」
「いやー絡まれてるの助けにいったら日焼け止め頼まれたからよ。…ん、なまえ終わったぜ」
「ありがとー山本」
「おうよ!」
「さ、さっさと離れやがれ!!あと、10代目を待たすんじゃねえ!」

相変わらずツナに忠実だなあ。と思いながらごめんごめんと平謝りする。海に近づくとほのかな磯の香り。泳ぎは得意な方なので、すいすいと一人で泳ぎ出す。暫くしてビーチの方を見ると、色黒男たちとツナたちがどうやら争っているらしく、人だまりが出来ている。仲間はずれはごめんだと急いでわたしも岸に戻ると、どうやら泳いで戦うとのこと。一番が山本、二番が獄寺、最後をツナらしい。…ツナ大丈夫なのかな

「お、おねーちゃん美人じゃねーか?」
「え? 、…わたし?」
「はっ。残念だなこいつは俺らのツレなんだよ。な?」
「ええ、そうだけだけど」
「スタイルもいいじゃねーか…そそられるな、」

そう言う男達が、じとーっと眺めているのはわたしの胸あたりだった。気持ち悪い視線に眉間にシワがよりながらも、なんなのよと睨み返す。するとそれを遮るように視界に入る背中。どうやら獄寺がわたしの前に立っているらしい。

「そんなジロジロ見てんじゃねー」
「お、なんだガキ。彼氏か?」
「ち、ちげーよ!ふざけんな!」
「へええ、違うなら別にいーだろ?おねーちゃんと遊ばせろ」
「はあ?!調子乗ってんじゃねーぞ!」
「なんだと糞ガキ。…じゃあわかったよ。この勝負に勝ったらソイツ俺達に回せ」
「は、何言って?!」
「おいおい、なまえは物じゃねーぞ」
「はっ。何焦ってんだ、テメーらが勝負に勝てさえすればいー話だろ?」
「そ、そんなの楽勝にきまってんだろーがコラ」
「わりーけどなまえは渡せねーよ、」
「ふっ。じゃあ決まりだな」
「(だれもわたしの意見を聞かないの)」

勝手に話が進められ、わたしも景品のようになってしまった。ま、獄寺山本あたりが負けることはないだろうと思いながらも、色黒男達はごめんだと寒気がする。

「おいなまえ、これ着とけ」
「え?」
「ジロジロ見られてんの気づいてねーのか?!いーから羽織っとけ、」
「で、でも」
「てめえの水着、肌が見えすぎなんだよ。大人しく着て座っとけ。」

ぼふっとぶっきらぼうに獄寺が自分のパーカーを投げてきた。いーの?とたじろいで聞いたところで、いーからとの一点張り。彼なりに心配してくれたんだろうと思いながら、獄寺のパーカーを羽織る。少しサイズが大きいが、気にしないでおこう。

「獄寺っ!」
「あ?なんだよ、」
「頑張ってよ?」
「ったりめーだ、秒で終わらせる」

タバコを吐き捨てて、海に獄寺が向かった。その後ろ姿は、幾分かかっこよく見えて、やはり帰国子女は違うなあと思ったり。

結果はツナたちの方が、色黒男達をこてんぱにして、めでたしめでたしなのでした。





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