昼休み。前の授業はぐっすりと寝てしまっていたので、いつの間にかみんなはご飯を食べている。わたしも京子ちゃんと花と食べなきゃ…、と思ったが、そういえば二人とも委員会やら検定やらの集まりがあるっていっていたっけ。いやはや、一人じゃないか。

「…保健室、いこ」

ツナたちは相変わらずうるさそーに騒いでいた。寝起きにあのテンションはちょっときつい。今日は大人しくゆっくりしよう、と思い腰を上げる。

「お?なまえー起きたのかー?」
「けっ、怠けすぎだぞ!」
「あんたに言われたくない。山本おはよー、保健室でもう一眠りしてくる」
「なんだとてめっ」
「おーまじか。昼ごはん食わねーかと思ったけどよ、まあいいや。サボりすぎんなよー?」
「まかせてー。じゃっ」
「話しを聞きやがれ!」

後ろで獄寺のうるさい声が聞こえるが聞こえないふりをして教室を出る。久しぶりの保健室だ。怪我をあまりしないわたしは、立ち入ることが少ない部屋。まあ、こうやってサボる時にお世話になりはするんだけど。

「失礼しまーす…」
「はいどうぞー可愛い子大歓迎ー…
って、みょうじなまえか、?」
「?え、えっと初めましてなん、ですが」
「俺は可愛い子の名前は覚える主義なのよ。なまえちゅわん、可愛いからチェックリストに入ってたよのー」
「(前の人と全然違う!)もしかしてやばい人?」
「んーそれは褒め言葉かー?」
「いや、違いますよ?」
「それは残念だなー。で、どうかした?もしや俺の添い寝の申し込みとか?」
「あ、全然違います!だるいのでベッド貸してください。それでは!」
「おっと決定事項か。まあ、なまえちゃん可愛いから大歓迎。ベッド、広いなら俺いる?一肌脱ぐぞー?」
「一人で休みたいので。」

しゃっ、とカーテンを締めてシャマルとかいう保健室教諭をシャットダウンする。こんな人を採用していいのかと学校に疑問を抱くけど、気にしてもどうにもならないので、とりあえずベッドに横になる。安定のふかふかさが一気にわたしを夢の世界へ誘う。

「…おー、バストは90越え、ってところか」
「ち、ちょっと!」
「いい身体してるねえなまえちゃん」
「ふふふ、ふざけんな!」

いつのまに。ベッドの横にはシャマルがいてあろうことか右手が胸にある始末。本物の変態だ、と驚愕して思わず殴り飛ばす。クリーンヒットしたはずだが、シャマルはにやにやしながら身体を起こし、いつでも抱いてやると一言。突然のことで顔が赤くなっている自分が恥ずかしい。

「いやー、純情だねー。おじさん、興奮しちゃう」
「へ、へんたい!セクハラ!もういいです!さよなら!」
「あれーいっちゃうのー?まだまだこれからだろ?」
「し、知りません!じゃあっ!!」

勢いよく飛び出して、ドンッとドアを締める。もう一生近づかないと決意して、これからどうするか考える。あー予定崩れちゃったなあ。授業は既に始まっているし…困った。

「授業中だよ?なにしてるの」
「はっ、す、すいません…って」
「キミは…みょうじなまえ?」
「ふ、風紀委員の…!」

ヤバイ。と本能的に思った。この人は確かこの前遅刻した時に突然襲いかかった人じゃないか。確か名前は雲雀?とか言ったような(ツナから聞いた)不良の頂点の男だとかどうだとか。

「おっ。僕のこと覚えてくれたの?」
「ひ、雲雀…」
「そうだよ、雲雀だ。で、なにしてるの?また僕に咬み殺されにきたの?」
「(一方的な…!)違います!あの、保健室いたんですけど、なんか追い出されちゃって、こう授業始まったしクラス戻るのも気が引けてどうしよーかなー…と思って、いて」
「…へえ。暇、なんだ」
「そ、そんなとこです…」
「ふうん…じゃ、僕についてくれば」
「へ?」

構えていたトンファーをなおす風紀委員のボス・雲雀さん。予想外の言葉に間抜けな声が出たが気にされることは無い。ぼうっと突っ立っていると、早く来ないと咬み殺すよという脅しを受け、足早に彼に近づく。ど、どうなるのわたし

「ここが僕の部屋だよ」
「へ、へえ…(応接室だよね?)」
「ここ、僕のものにしてもらってるから。無断で入ってきたやつは徹底排除」
「ま、まじすか…にしても何でわたしなんか」
「キミには興味があるからね。ま、座れば?」

有無を言わさずソファーに促される。大人しく腰掛けると、射るような視線を送られる。帰りたい、と率直に思いながらも伏し目がちに様子を伺うしかない。

「なまえってさ、群れてるの?」
「はい?」
「群れるの好きなの?」
「ええ?いや、べつに…」
「ふうん。僕、群れるの嫌いなんだよね」
「そう、なんですか…」
「うん。だから群れるヤツも嫌い」

気づいたら、向かい側にいたはずの雲雀さんが隣にいた。瞬間移動もできるのか、と呆気に取られていると聞いてる?とトンファーで頭をど突かれる。いや、女のコにしていいことじゃないでしょ

「な、なんですか?!」
「…なまえさ、今日から僕のパシリね」
「 はあ?」
「拒否権ないよ。毎日この部屋にくること。わかった?」
「そ、そんなの」
「聞こえなかった?拒否権ないよって」

ぐっと首元に押し付けられたのはやっぱりトンファー。身動きが取れないように、ソファーに倒され、雲雀さんの上に天井が見える。これって、押し倒されてない?と思った時には既に遅く。

「返事は?」
「…は、はいい」
「いい返事。じゃあ、よろしく」

息ができない程度に首を絞められて、トンファーを外される。なんで、わたしがこんなこと。思ったところで、目の前の雲雀さんには到底適うはずがなく、にやりと企み顔をした彼を見ることしか出来ない。

「なんか、キミには親近感が沸くよ」
「…え、ええ?」
「まあ、いい。末永くよろしく、ね?」

含み笑いをした雲雀さんは様になってかっこよく見えてしまうから悔しい。肯定的に頷くことしか出来なかったわたしに雲雀さんの手がポンと頭に乗る。こんなこともするんだと思ったが、それよりも先の見えない恐怖が拭えず、引き攣り笑いで精一杯だ。




「じゃあ、まず肩もみ」
「え?そんなことも?!」
「なに?不満でもあるの」
「な、ナイデス…」
「言葉には気をつけた方がいい」
「はい…(ガチのパシリ!)」





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