やらかした…と思った時には既に遅いことは多く、今だってそんな状況だった。9時5分。とっくに一時間目はスタートしているだが、わたしがいるのは住み慣れたマイホームのベッドの上だ。

「遅刻、だよ…」

最近は規則守っていたのになあと思いながらゆるゆると着替え出す。こうなればもう間にあうことはない。だらだらしながら仕度をして出たのは、もう10時を過ぎていた。携帯を見ると、クラスメイトからメールが来ていて、今からいきまーすとテキトーな返信を済ませる。

「なにしてるの、きみ」
「…え?」
「この時間分かってる?遅刻だよね?」

校門に差し掛かったところで急に呼び止められる。颯爽と現れた黒い人物。腕には風紀委員会の腕章がつけられていて、そういえば、うちの学校にはそういう組織があったことを思い出した 。在学中に近づかない方がいい組織、と友達から聞いた気がする。

「す、すいません…」
「遅刻は風紀を乱す。謝罪だけですむと思ってるの?」
「そ、そんなわけじゃ!」
「まあ、僕に見つかった以上ただで済まないからね。君はここで咬み殺す」

がしゃり、と出てきたのはトンファーでこれはやばいと本能が言う。わかってると思いながら、逃げれる術はありそうもなく、とりあえず素手でトンファーを受けるしかない。

「…(いった、)」
「ほう…女でよく止めたね。すごーい」
「こ、これでもう許していただけますか?」
「何言ってんの、咬み殺すって言ったでしょ」
「ぎゃっ!!」

振りかざされるトンファーに、悲鳴を上げながらも必死で避ける。ギラギラとした目を向ける彼がリアルに怖い。なにこれ、サバイバルゲーム?

「よく避けるね、まあ今日はこれくらいにしとくよ」
「あんた、一体なんなの…?!」
「久々に楽しかったよ、じゃあねなまえ」
「、え…?」

なんで、名前…と思った時は彼の姿はもう無く、風のような人だと思った。怖かったなあ。というか、寝起きにこんなことするなんてどんな学校だよ、ここ。


ーーー


「お、おはよ…」
「なまえ何してたのー?寝坊?」
「京子ちゃんごもっともですごめんねー!」
「珍しいねーなまえが寝坊なんて」
「そうなの、(ま、そのあとなんか襲われたんだけどね)」

「て、てめえ!寝坊とはなんだ!修行が足りねえんじゃねえのか?!」
「うるさーーい。寝起きの女の子に怒鳴らなーい」
「ははは、相変わらず仲いいなお前ら」
「仲良くないです。」
「だれがこの女なんかと」
「まあまあまあ。喧嘩するほどなんやら*ってやつだな」

そんなのごめんだ、と思いながら席に着く。そういえば席替えをしたらしく、わたしの席の後ろは山本くん。やったーと言ってくる山本くんを見るとなんだか笑顔になれるから不思議。

「この席だったら、みょうじに勉強教えてもらえるな」
「ははは、山本くんが起きてたらねー?」
「おっと、みられてたか」
「朝練のせいでしょ?よーく寝てるの、見ますよ?」
「まいったな。頑張っておきとかねーと」
「うん。話はそれから、ね?」

肩を回しながら張り切る山本くん。明るくて優しいなんてなんてすてきなスペックなんだと思いながら、授業が始まる。だるーい授業を聞き流しながら、ふと後ろに目をやると、机につっ伏して寝ている山本くんの姿。さっきお話したよね?と思いながら、まあ野球頑張ってるから仕方ないかとも思う。

「山本、くーん?」
「…」
「山本たけしさーん?」
「…」
「(髪の毛ふさふさだな…)」

黒くて短髪で長身が特徴な彼。立っているときは、背が高すぎてよく見えないけど、今なら同等の立場だ。ふ、と髪の毛触れてみると、意外と柔らかい髪の毛に驚く。あ、こんな姿山本くんのファンに見られたら怒られるかな?反省して、手を離そうとした、その時

「なーにしてんだ、」
「えっ?!」
「授業聞いてないのはおまえもだろー?」

髪の毛を触っていた手を、山本くんの右手に掴まれた。どうやら、寝ていなかったらしいく、わたしが話しかけ始めたので、寝たふりをしたらしい。なんて子だと思いながら、少し自分が恥ずかしくなる。

「これは、不可抵抗力で…」
「寝てるやつの頭撫でるかー?お前も変わってんな」
「違うの、山本くんが寝てるからこう、髪の毛だなあ、みたいな。触ろうかなあみたいな…」
「はははっ。何言ってんだよ。で、どうだったの、感想は」
「え、うんと、思ったより柔らかい?」
「なんだそれ、面白いな…、なまえ」
「…え、そ、そう?」
「おう。…ま、なまえの方が綺麗だけどな」

わたしの髪の毛の束をくるくるとし始めた山本くんは、長いなーなんていいながら髪の毛を弄り出した。切るタイミング失ったんだよねーと言うと山本くんは、それでいい、とか言い出して、ん?とはてなマーク。

「俺、…長い方が好きなんだよな」
「へえ。そうなの?」
「おう。だからなまえも、な?そのままでいいんじゃね?」
「山本くんから言えば、ね」
「ははは、そのとおりだ」

はにかむ山本くんは少し眩しい。突然名前で呼ばれたからびっくりしたけど、山本くんはそうでもないよなあと思って何も言わないことにした。今週美容院に行こうと思ったけど、まだいいかなあ、なんて思うのは山本くんのお陰、ということにしておこうか。


「(なんでなまえて言ったのに気づかねーかなー)」
「…ん?どうしたの」
「いや?べーつに」


くるくると髪の毛で遊ぶ山本くんを少し可愛いと思った、昼さがり。







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