気持ちの違い

「おかえり、ノヤ!」
西「おう!帰ったぜ」
「かっこよかったよ」
西「おおー、なまえに言われると、なんかこう、くすぐったいぜ!」
田「おおお?!なまえ、俺は?!」
「龍も普通にすごかったけど」
田「ふ、ふふ普通?」
縁「お前ら、なまえに褒めてもらう会やめろよ…」
菅「困ってるべ、なまえがな」

久しぶりに全員揃ったバレー部は、すごく騒がしかった。町内会の人たちに青春の良さをいじられながら、それでもなにより嬉しそうな顔をしている大地さんを見て人一倍この時を待っていたんだろうなと感慨深くなる。

月「…何見てんの」
「え?ツッキー試合楽しかった?」
月「うるさくて面倒だった…で、何見てたわけ?」
「多分君がうるさいって言ってるその集団」
月「あっそ」
「聞いといてその返事?」
月「まあ、だろうなとは思ってたし」
「旭さんデカイでしょ」
月「デカいけど俺の方がデカい」
「ツッキーはごつくないから、デカいよりもひょろ高いって感じ」
月「それってさ、馬鹿にしてるの」
「いや?わたしは細マッチョ好きだけど」
月「…あっそ」
「またその返事?」
月「うるさい(なんかずるい)」

ツッキーは汗を拭きながら冷めた目で騒がしいノヤ達を見ていた。まあ明らかにタイプは違うよなと思うが、2年後にはあの雰囲気世の中に呑まれている彼を見るのも面白そうだとも思う。…ツッキーはやっぱり無理かな。

「じゃあお先でーす」
澤「おう!気をつけてな」
菅「夜道は注意!」
「いつも言わなくても分かってマース」
影「なまえさん!途中まで送りますよ」
「飛雄、練習は?」
影「明日から合宿なんで今日はしません。送ります」
「え、ほんと?じゃあ帰ろっか」
田「影山ー!?なな、なまえ頼んだぞ!」
影「うっす」
「そういうのいい、」
月「…嫌ならはっきり言えばいいのに」
「ハイ?」
月「なんでもありませーん。せいぜい合宿よろしくお付き合い願いますー」
田「な、なんだ月島!!その態度!おまえ裏に来いこらああ」
澤「あいつは気にせずさっさと帰れ、!」
「「うっすおつかれしたーー」」
菅「おおーいい返事ィ」

夜の風はまだひんやりとしていた。去年の東京はもう少し生温かった記憶を思い出して、遠くにいる音駒の彼らを懐かしく思う。日が降りるのもこちらの方が早く、薄暗い中にキラキラと輝く星空が覗いて、あちらでは感じられない世界に触れた気分になる。

影「なまえさん、及川さんたちと会ったんですか?」
「この前の休みに出かけたよ」
影「まじっすか…」
「うん。相変わらず元気だった」
影「何したんすか」
「ん?手を繋いでデート」
影「は、はあ?!」
「ははは、うそうそ。ご飯食べただけ。飛雄ってたまに馬鹿でかい声出すよね」
影「え、そうっすか?」
「うん。うるさい」
影「ま、まじっすか…」
「うそだよ、うん」

ぼんやりと外を眺めたりすると決まって何かを見つけた。変な形をする雲だったり、夜空だったら流れ星を見つけることだってあった。それを1人ではなく、誰かと見つけると秘密を共有できているようでなおさら嬉しかった。

「どうだったよ、うちのリベロとエース」
影「西谷さんにはサーブ綺麗に取られました。旭さんはブロックしながら球が重かったです」
「そうかそうか、」
影「あんまり烏野知らなかったけど、なんかメンバーは揃ってますね」
「おっ、そうでしょう?…飛雄に言われると嬉しい、」
影「ナ、なんですかそれ。どど、どゆこと!」
「え?だって自分と一緒のこと思ってる人いたら嬉しくない?」
影「えっ、あ、そういうことですか…」
「うん?そうだよ」

寝付けない夜は、明けていく夜空をただ呆然と見るのが好きだった。明けていく夜空、その先に感じる朝日が、わたしを迎えに来たような気持ちにさせてくれるから好き。色んな野望と美しさを孕んだ空が蠢いて生命さえ感じさせる。

影「も、もし県で一番になったら」
「うん」
影「その時は及川さん達も倒していきます、よね?」
「そうなるね」
影「その時なまえさんは、俺らを応援してくれますか?」
「それはもちろん、」
影「…ほんとですか?」
「烏野のマネージャーが徹達応援してどうするの」
影「…俺、頑張りますから」

飛雄はいつの間にか大きくなっていた。向かい合わせになって顔を見るとそう思う。見上げないと飛雄の顔が見えない。その後ろには、綺麗に星が広がっている。

「うん。頑張って」
影「…うっす、」

でも、飛雄はこっちを見ているから夜空に気づかない。綺麗だね、と言ったところで、飛雄にはきっと分からない。

「飛雄、後ろ見て」
影「後ろっすか?」
「うん。星がきれいだよ」
影「え?あ、ああ…」
「東京だとこんなに綺麗に見えないよ、」

後ろを向いた飛雄はどんな顔をしたのか。表情は見えないけど、同じ景色を一緒に見れることが純粋に嬉しい。飛雄が一番を目指すのは応援するけれど、その歓びをみんなで分かち合っていてくれたら、そっちの方がもっと大事なことだと思う。

「じゃあ、わたしもうすぐ家だから」
影「あ、わかりました。合宿よろしくお願いします」
「頑張ってね。送ってくれてありがと」
影「…さっき、なまえさん”自分が思ってることを誰かも思ってくれてると嬉しい”って言いましたよね?」
「あ、うん。言ったけど」
影「俺もそれ思います。でも俺は、自分の好きな人が自分と同じことを思うのが嬉しいんじゃないかと思います」
「…な、なるほど」
影「…俺はなまえさんと今日一緒に帰れてよかったです。じゃあ、お疲れ様でした」

それだけを伝えると飛雄はそのまま帰ってしまった。ぽつん、と取り残されて風が頬に当たる。飛雄の言葉がくすぐったくて、変な気分になったまま、ずっとわたしに纏わり付く。

「わたしも、だけど」

呟いた先に、彼はもちろんいないのだが。





 

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