梅雨が明け、緑が濃くなりはじめた頃
僕は時々放課後は図書室に通うようになっていた。
クラス内では毎日毎日うるさくて集中どころか授業すらまともにやってくれないし、自分で学習するしかないのだ。

放課後の図書室は人が少ない、というか利用者はほぼ毎日僕だけのようだ。
この学校の生徒達の中ではまじめな生徒よりその反対の生徒の方が多い。


だが一人、僕以外にもほぼ毎日図書室に通っている人がいる。

今日もあの子は窓際の奥に手元の本の世界に取り込まれているかのようにして座っていた。
僕がドアを開けて音を立てても気にせずに眉1つ動かさない。
ただ単に僕の影が薄いのかもしれないけど。

そして今日も僕は離れた席で鞄から勉強道具を取りだしペンを握る。

この二人だけの空間が気持ちいいと感じるのは蒸し暑くなったこの図書室に規則正しく首を回し続ける扇風機の音だけじゃなくあの子の存在が癒しに近いからだ。

普段の学校生活では決して見かけずどこのクラスかも名前もわからないあの子に恋をしているとつい最近まで気づいていなかったが、放課後のこの図書室に足を運ぶにつれてこの気持ちはだんだんに膨れ上がる。
こんなことをクラスの人達や先生に知られたらもう恥ずかしさでここには来れないかもしれない。
駄メガネと呼ばれる僕には耐えられない。


ぱたん。と音がした
あの子が本を読み終えたのだろうか。

椅子から立ち上がる音がした。
足跡は本棚に向かった。
やっぱり読み終えたのか。


あの子はどんな本が好きなんだろう
恋愛もの?
ファンタジー?

家でも本は読むのだろうか
本なら僕もたまに読むからそれを理由にして話とかできないかな?


聞きたいことや話したいことはたくさんあるのに話しかけることすらできない。
こういう時、沖田さんとかなら迷わず話しかけに行くのかな。
全然関係ない人にやきもちを妬くこともある。









「あの、」




!?



悶々と手元のノートに書かれている問題を無視して頭を巡らせていて気づかなかった。
あの子が隣に立っていた。



「勉強のお邪魔してすみません、私今日図書委員の当番だったんですけど」



初めて間近で見る彼女



「え?あ、は、はい」


あぁ、格好悪いな…僕


「急に用事が入っちゃって……それで申し訳ないんですけど…鍵、お願いできますか?」


彼女の手元には図書室の鍵。
ここで初めて知った。
彼女は図書委員だったのか……



「はい、いいですよ」


彼女からのお願いときたら断るわけにもいかない。



「本当ですか…!ありがとうございます。……あの、いつもここで勉強なさってますよね?」




「…え、なんで知って…」





「だってここの生徒さんってあんまり図書室に来る人って少ないじゃないですか……だから私、いつも来てくれるの待ってるんですよ」




ふふ。と彼女は可愛らしく笑った。
えくぼがとても可愛い。







「じゃあ鍵、お願いします」




「あ……はい」




それじゃあ。と彼女はまた小さく微笑んで図書室を出ていった。








……………え


さっきあの子は何て言った?
え?待ってます……?



しばらく僕は放心状態で姉上からの夕飯の買い出しの頼みの電話がかかるまで鍵を持ったままだった。