ふんふふふん、ふん、ふふん

何かのメロディーなのか
それとも自作なのか、なんともいびつな音色が前を歩く女から聴こえる。



「音痴だねィ」


「なっ、こういう歌なんですー!」



時刻は六時を回った頃。
学校も終わり適当にクラスの連中と雑談していたら、こんな時間になってしまった。などという暇な俺じゃない。



「鼻唄を歌っちまうくらいに俺と帰れて嬉しいんですかィ?」



「うん!初めてだし、嬉しいよっ」


前を歩く女はそんな事をさらりと言っちまうくらいの天然ばかだ。
こんなのもろに俺に気がある事をさらけ出してるようなもんなのにねィ。


こいつは俺の同級生で俺のことが好きな天然女。そして俺が今一番気になっている女でもある。
二人きりで最寄りの駅まで歩いているのも偶然ではなくタイミングをはかったからだ。それまで土方と山崎をいじって時間を潰していた。まだかまだかと少し苛立っていたが自分から誘うなんてことしたら後で土方とかチャイナに何言われるかわかんねぇ。

だから、初夏の蒸し暑さがうっとおしくさっさと帰って家で優雅にアイスを頬張りたいがせっかくのチャンスを野放しにはできなかった。


「暑いねー」

「夏だしねィ」

速度を早めて隣に並んだ。
夕焼けで俺とこいつの影がのびる。

「あ、そういえば沖田くんって誕生日もうすぐなんだっけ?」

「あ?なんで知ってんでィ」

「近藤くんがね、沖田くんの誕生日にサプライズパーティーをやろうって…あ!」

慌てて口を両手で押さえる。

「忘れて!」

「無理」

本当にバカだねィ。

「バカって言わないで!」

「あれ、声に出てたかィ?」

もう、と膨れっ面になる。
夕焼けのせいか少し赤くなったこいつの頬が可愛いと思ってしまった。
つんと指でつついてみたくなった。

「 なっ、なに…?」

少しびっくりしていた。

「そんな可愛い子ぶっても別に可愛くないからやめなせェ」

「ひっどいなぁもう!」

あーはいはい可愛い可愛いと
絶対に表に表したくない感情が溢れる。さっきより膨れっ面になった顔で拗ねたように下を向いて歩いている。あーもうすぐ駅じゃねぇかィ、このまま拗ねられたまま帰すのも今日一緒に帰った意味が薄れる。機嫌直しにも遠回りしちまおうか。

「そんな拗ねんなよ、お詫びにクレープ奢ってやりまさァ」


やれやれという感じで言ってしまったにも関わらずこいつは一瞬にして表情を変えた。


「本当!?」

きらきらと光る瞳を向けた。


「あ、あぁ」


「やった!じゃあ早く行こ!」


そう言って俺よりも小さな手が俺の手を掴み、そのまま引っ張られるように走り出した。


「おい、そんな走ったら危ねえって…!」


「だって沖田くんと一緒にクレープ食べれるなんて嬉しいもん!」


「…ったく天然バカが」


俺はこの日の手の感触と一緒に食べたクレープの味を忘れないと誓った。